保育料は経費? イラスト/福田玲子

 確定申告の時期になると、レシートの整理に追われる人が多いのではないでしょうか。そこでよく直面するのが「この領収書は経費になるのか」という疑問。税理士・廣岡実さんの著書「お金と税金のことが90分でわかる本」(アスコム刊)から、経費になるもの、ならないものについて解説します。

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■ 飲食店の夫婦の食事代は経費にできるのか?

 夫がシェフで妻が経理を担当しているご夫婦です。仕事の後に2人で食事に行った場合、この食事代は経費にできるのでしょうか?公私にわたるパートナーだから、会話の内容には子どもの将来のこととか、ご近所とのお付き合いの話、日常生活のいろいろな話題が上がってくるでしょう。

 でも、一緒に仕事をしているのだから当然、仕事の話題も全体の何割かは占めるに違いありません。だとすれば理論上、2人の食事代のうち何割かを経費とすることができるはず。

 これを会計用語で支出した金額を「按分」するといいます。

 実務的に考えて、食事代が1万円だったとすれば、このうち5000円を経費として処理し、残りの5000円は社長への貸付金として処理をします(帳簿上は「事業主貸」となります)。

■ ひとりランチや保育料は経費にできるのか?

 経費にはそもそも売上に貢献するとしても「社会通念上」認められないものもあります。例えば、お昼に食べた牛丼だって、スーパーで買った食材だって、食べないと仕事にならないから売上に貢献している、と言い張ることもできそうですが、これは「社会通念上」経費と認められないのです。

 普通に考えてそれは経費でなく「生活費」ですよね、ということです。

 仕事をするために子どもを保育園に預けた場合の保育料はどうでしょうか。現在の税法の中では保育料は「家事費」と判断されるため、経費に入れることはできません。

■  人間ドックは経費になるのか?

 よく「人間ドックの費用は経費になりますか?」という質問を受けますが、確かに事業主や社長の健康維持のための検査は、広い意味では売上の獲得に貢献するかもしれませんが、これは必ずしも「利益獲得に結びつくもの」とみなされません。あくまで自分の健康管理のための行為とされるため、残念ながら経費にはできません。

 しかし、もし再検査が必要になって、治療が必要な病気が見つかった場合は最初に受けた人間ドックの費用もすべて「医療費控除」の対象になります。

 また、会社の代表者や幹部を含めてすべての従業員に同じメニューの人間ドックを行うのであれば、それは「福利厚生費」となり経費になります。ただし、社長だけ2日間のスペシャルな人間ドックをやったとしても、それはプライベートな利用になるので経費になりません。

■ パソコン代は経費になるのか?

 パソコンなど、10万円以上の支出は「一時の経費」でなく、「固定資産」として「減価償却の方法で経費化」をしなければいけません。減価償却の対象となるものは一定額以上の建物や設備類、車両、工具、家具、電化製品、事務機器などで、耐用年数で割って各年の経費として計上します。

 そもそも、なぜ「減価償却の方法で経費化」しなければならないのでしょうか?固定資産も、他の経費と同じように「売上に貢献する」ものです。ただ、固定資産は数年間にわたって利用して売上獲得に貢献するわけですから、他の、例えば交通費などのように、代金を支払った時に一度に費用にするのは不合理といえます。

■ 200万円の自動車を経費にする場合は?

 例えば新車の営業車を買ったとします。価格は200万円。この車を営業に使って売上獲得に貢献するのは1年だけでしょうか? そんなことはありません。数年から10年は貢献することになります。だったら、200万円の営業車を10年間にわたって使用することによって売上を獲得できたことになります。

 つまり会計上は、200万円すべてを購入した年の経費にするのではなく、10年間にわたって「売上獲得に貢献する」から、その期間にわたって経費として処理するのです。

 ただし、同じ営業車でも、4年でダメになることもあれば10年もつことだってあります。国税庁からすれば、それぞれが勝手に処理してもらっては困るのです。コンセプトは「公平性」なので、一律にその計算方法を決めたのです。

 耐用年数についても国が「法定耐用年数」というものを定めて、同じ条件で減価償却費の計算をすることを義務付けたのです。つまり、新車の営業車は6年と決められており、6年間にわたって売上獲得に貢献すると想定してその期間にわたって「減価償却費」として経費にしてよいと規定しているわけです。

■ 「この 領収書が経費になるか?」の判断基準

 確定申告の書類作成時期になると毎年こんなことをよく聞かれます。

「いくらまで経費を使っていいですか?」

「この領収書、経費として認められますか?」

 税理士は税務の専門家だから聞けば即座に答えてくれると思っているのかもしれません。でも、何が経費になるかというのは、税理士にしても簡単に答えることはできないのです。その内容と目的によって決まるのです。

 私はクライアントから確定申告の相談を受ける時に、「経費とは何だと思いますか?」と必ず尋ねることにしています。ほとんどの人はこの質問に正確に答えることができません。でも、これからフリーランスになったり、起業して事業を営んでいこうという人にとって、この定義を知っておくことは大切かつ必要不可欠なことです。

 経費とは「売上を獲得するための支出」を指します。

 大事なのはこの支出は、単なる「消費」ではなく、「売上を獲得するために貢献する」ものでないといけないのです。逆にいえば、「売上獲得に貢献しない支出(など)は経費ではない」ということになるのです。

 つまり、何が経費になるのかは税理士でなく、基本的にはこの判断基準であなた自身が決めることです。あなたがその支出が売上に貢献すると判断できれば経費にすればいいのです。

 そしてその領収書が経費になるかどうかも、「それがあなたの事業の売上に貢献しているなら経費」ということになり、これもあなた自身しかわからないことです。