佐藤政信さん

 昨年夏に無人島を専門に紹介するホームページが見られなくなったことが一部で話題になった。だがホームページを運営していた佐藤政信さんによれば、無人島を専門に扱う不動産事業自体はやめたわけではないという。個人客向けにお勧めできる物件が用意できるようになりつつあるため、ホームページも近く再開する予定だ。

*   *   *

「無人島を売ってたアクアスタイルズさん、ウエブサイトにアクセスできなくなっている? 眺めるのすきだったのになぁ」「ホームページは閉鎖したのですか?」

 X(旧ツイッター)などSNSでは昨年夏以降、無人島を専門に扱うホームページが見られなくなっていることが話題になった。ホームページには実際に取引ができる無人島の情報を掲載。島の場所や大きさといった基本情報のほか、インフラの整備状況や特徴などが写真入りで紹介されていた。

■ホームページには一定のファン

 ホームページをもともと運営していた不動産会社は「アクアスタイルズ」。代表を務めていた佐藤さんによれば、この法人自体は約10年前にすでに閉鎖したという。佐藤さんが、生活などの拠点をオーストラリアに移したことが理由だ。ただ、その後は同国にも拠点がある知人の会社「ブルーオーシャンポイント」(東京都品川区)に籍を置き、日本と行き来しながら無人島の販売やホームページの運営そのものは続けてきたという。

 佐藤さんによれば、無人島専門の不動産会社はほかになく、珍しさもあってテレビや雑誌などのメディアにもたびたび取り上げられた。佐藤さんには『無人島売ります!』(主婦の友社)の著書もある。

 ホームページには一定のファンもいて、SNSのコメントなどからは、実際に購入を検討する人ばかりでなく、サイトをみて楽しむだけの人もいたことがうかがえる。

長崎県の五島列島にある「妙光島」(みょうこうじま)。島の所有者が作成した動画から編集部が加工。動画はブルーオーシャンポイントの佐藤政信さん提供

 佐藤さんが言う。

「ホームページを閉じたのは、私自身で考える『条件』に合うような物件が手元にほぼなくなってしまったことが大きい」

 佐藤さんが手がける無人島の「条件」は、主に本土や最寄りの港などから船で30分以内の場所にある、島に船がつけられたり人が生活できたりするような平地がある、もともとの所有者の権利関係が複雑でないといったものだ。

■地元の漁業関係者との調整も

 陸地から遠すぎたり平地がなかったりすると家屋など島を利用するのに必要なインフラを整備するための資材を運ぶことができない。権利関係が複雑だと、取引をまとめるのに難儀する。さらに島に畑や田んぼなど農地があったり、島自体が国立公園や自然公園の中にあったりすれば国や自治体の許可が必要なこともある。釣りを楽しんだり、島との行き来をスムーズに行ったりしたい場合は、地元の漁業関係者との調整も必要だ。

 国土地理院によると、日本には有人、無人島を合わせ、周りが海に囲まれた、全周0.1キロ以上の自然にできた島は1万4125ある。しかし佐藤さんによれば、こうした条件に合う物件は非常に限られるという。

「物件自体が少ないこともあり、安くても数千万円はします。しかも、金融機関のローンがつかないため現金の一括払いが基本。特に最近は数十億円単位の物件しか市場に出なくなっていました。高額の物件はホームページにアップしても、引き合いがあるのは中国人など海外の富裕層ばかり。日本人に楽しんでもらえないのだったら張り合いがなくなってしまう。そうしたこともホームページを閉じた理由の一つです」

宮城県の朴島(ほおじま)の写真(塩竃市のホームページより)

 佐藤さんがそもそも無人島の販売を始めたのは、20年以上前にさかのぼる。欧米のように、個人でも島を取引できるような文化を日本に根づかせたかったためだという。米国へ留学していた頃、現地の雑誌に載っていた海外の無人島販売会社の記事が目にとまり、その後、その会社の門をたたいて代理店になった。

■手間を考えると決して儲かるものではない

 佐藤さんは言う。

「お客さんに喜んでもらいたいのはもちろんですが、自分自身でも楽しみたいという気持ちも強い。お金の面だけで言えば、割に合わない部分があるかもしれません。例えば、無人島の売買でも、仲介手数料は通常の不動産と同じルールです。調査や調整などの手間を考えると決して儲かるものではありません」

 佐藤さんは無人島の取引仲介のほかにも、「スマイル・エア・インク」という会社を通じて南洋諸島パラオで観光客向けに遊覧飛行事業なども手がけている。セスナを使って美しい南国の海や島々を巡れるツアーだ。レジャーや観光事業に対する思い入れは深い。

「パラオでは欧米人を中心に観光需要が回復しています。コロナ禍では観光客そのものが減りました。日本人の出足が鈍る最近の円安も痛手ですが、日系資本による大型ホテルの建設計画も進んでいますので、日本人にもぜひ足を運んでほしいですね」(佐藤さん)

 無人島の販売でも、前述したような条件に合う物件が徐々に出始めるようになってきた。停止していたホームページも、近く再開しようと考えているという。

 このうち例えば、紹介できる物件の一つが、長崎県の五島列島にある「妙光島」(みょうこうじま)だ。島の面積は約600坪で、価格は4300万円。島内には船をつけられる桟橋や建物がすでにあり、今のままでも上陸や滞在が可能だ。島からは、北西に面する福江島のレンガづくりの教会「堂崎天主堂」が直接のぞめるなど、周辺の観光地や港とのアクセスもいいという。

■沖縄の物件は市場にはなかなか出てこない

 もう一つが、沖縄県の「一着島」(いっちゃちじま)。広さは約1万6700坪で、価格は1億2千万円。きれいな海や絶景スポットが人気のリゾート地として知られる久米島から、干潮時には歩いて渡れるほどの距離にある。「沖縄の物件は市場にはなかなか出てきませんので貴重です。関心を持った数組に対して、すでに現地を案内しています」(同)

 このほか、一島を丸々手に入れられるわけではないものの、「日本三景」に数えられる宮城県の名勝・松島を構成する260あまりの島々の一つ、無人島「鷺島」(さぎじま)の一部と、これに隣り合う有人島「朴島」(ほおじま)の一部の土地を一体的に買える物件があるという。

「私にとって、無人島の販売は儲けのためではなく、趣味やロマンの領域に近い。ライフワークとしてこれからもずっと続けていくつもりです」(同)

(AERA dot.編集部・池田正史)