今年3月の侍ジャパンシリーズでもプレーしたヤクルト・塩見泰隆

 ヤクルトの負傷離脱者が止まらない。前々からチームは怪我人が多く出ることが指摘されていたが、特に今シーズンは主力が怪我でプレーできていない。レギュラー選手が次々に戦列を離れており、高津臣吾監督をはじめ首脳陣にとっては頭の痛い日々が続く。

 5月11日に行われた巨人戦、リードオフマン塩見泰隆が立ち上がれない姿に神宮球場が静まり返った。1回に内野安打で一塁ベースを駆け抜けた際に左膝を痛め、そのまま交代。のちに球団から左膝の前十字靭帯と半月板を損傷していることが発表された。

 全治までは6カ月以上かかると見られ、近日中に同箇所の手術を受ける可能性も伝えられた。いずれにせよ、今季の復帰は絶望的となり、大きな痛手となったのは間違いない。

「(塩見は)今までも怪我や故障が多い選手だったが、今回はかなりの重症で下手をすれば選手生命にも関わる。チームとしては本当に痛いが、余計なことは考えずに焦らず治療とリハビリに励んで欲しい」(ヤクルトOB)

 2013年4月にもヤクルトでプレーした雄平が試合での守備中に右膝の前十字靱帯を断裂し、同箇所を手術。残りのシーズンは全休となったが、翌2014年には開幕から一軍でプレーし、野手に転向後のキャリアハイとなる成績残している。

 最近ではソフトバンクの栗原陵矢が2022年3月に左膝前十字靱帯断裂と左外側半月板損傷し、手術を受けたが翌年には復帰。96試合に出場している。塩見も今季の復帰は不可能だが、来年は開幕からプレーできる可能性は十分あるだけに、そう悲観することはない。

「医学は進歩しているので、時間はかかると思うが絶対に復帰できる。本人は落ち込んでいたが、気持ちを強く持って少しずつ頑張って欲しい」(ヤクルト関係者)

 とはいえ、塩見以外にも今季は“怪我人だらけ”だ。エースの小川泰弘、奥川恭伸がコンディション不良で開幕に間に合わず。シーズンが始まっても、開幕戦後には主軸打者の山田哲人、抑えの田口麗斗がコンディション不良ですぐに登録を抹消されるなど、選手がそろわない中での戦いが続いている。

 これまでも“ヤ戦病院”と揶揄される状況に陥いることは度々あったが、今シーズンほどそのワードが当てはまるシーズンもない。このヤクルトの怪我の多さはたまたまなのだろうか……。

「ヤクルトに故障者が多く出るのは今に始まったことではない。長年言われてきたが神宮球場や練習施設に問題があり、それが影響を与えているのかもしれない。どの選手もコンディションを整えるのに苦労しているようだ」(在京球団編成担当)

 一つの理由として考えられるのが施設面。本拠地の神宮球場、サブ球場、クラブハウスの位置関係に問題があるという声がある。ヤクルトの選手は練習後、必ずクラブハウスへ戻るまでに外に出て移動する時間があり、そこで温まった体がどうしても冷えてしまう環境にある。それが怪我に繋がってしまっているのではという話だ。

「(温まった体が冷えると)筋肉が硬直する。すると、それをカバーしようとすると関節にまで大きな負担がかかる。他球団の設備では体を冷やすことなく着替えをしたりできる環境がある。科学的な因果関係は明確にできないが何かしらの関連性はあるのではないか」(都内整形外科医)

 かつてJリーグでは参加希望クラブに対し、「熱湯シャワー完備のクラブハウス」も条件に入っていたと言われる。炎症などの鎮静以外でアスリートが運動後に体を急激に冷やすことはタブーでさえある。昨年の甲子園では熱中症対策として5回終了後に体温を下げることを目的としたクーリングタイムが設けられたが、クリーニングタイムが終わり試合が始まった直後に選手が怪我で交代するという現象が複数回起きて話題となった。

 また、球団施設面以外にも問題点があると指摘したのが2021年開幕前のトレードでヤクルトに加入した田口だ。

「田口が契約更改時に食事面の改善を訴えたこともあった。ヤクルトではチームに栄養士が帯同していなかったという。今は変わってきているが(選手のコンディションに関するケアの面で)他球団や他競技に遅れているのは間違いないかもしれない」(ヤクルト担当記者)

「(怪我の理由には)本人の意識が低かったり準備不足もあるだろう。しかしこれだけ故障者が出るのには原因があるはず。可能性として考えられることは1つずつ消していかないといけないのですが……」(ヤクルト関係者)

 これまでも「投げ過ぎ」によって投手が壊れることもあった。炎天下での走り込みなどで体調を崩す選手もいた。しかし医学を含めた体に関する情報量が増えたことで、コンディション不良は現象している。そんな状況になったのにも関わらず、ヤクルトだけに故障者が多いのは不思議にすら思える。

「お祓いをしないといけない」というヤクルトOBもいるほど。だが、これが冗談には聞こえないほど離脱者が止まらない。2027年からは二軍本拠地が茨城県守谷市へ移転する。新神宮球場プロジェクトも動き出した。しかし肝心の一軍がこのような“ヤ戦病院”では明るい未来は描けない。原因究明と早期の改善を誰もが望んでいる。