ネタを量産して再ブレーク中のキンタロー。

 MLB・ドジャースの大谷翔平の勢いが止まらない。昨年受けた右肘手術の影響で今シーズンは打者に専念しているが、その分だけ打撃成績はさらに上向きになった。ホームランを量産しているのはもちろん、打率や出塁率でも群を抜いた数字を残しており、日本人初のメジャー三冠王も視野に入っている。

 一般的に、野球ではホームランを狙えば狙うほど打率は下がってしまうものだ。3度の三冠王を獲得した球史に残る名選手だった落合博満氏も「ホームランを捨てれば4割は打てる」と語っていた。飛距離と確実性を両立させるのはそれほど難しいことなのだ。今年の大谷は打者としても異次元の領域に到達している。

 今年、お笑いの世界で大谷に負けないほどの好調ぶりをみせているのが、ものまね芸人のキンタロー。である。彼女の最初のヒット作となったのは、元・AKB48の前田敦子のものまねだった。このネタで大ブレークした彼女は、売れっ子の仲間入りを果たし、その後も『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBS系)の社交ダンス企画などで話題になっていた。

■「破壊力」抜群ネタ量産

 そんな彼女が、ここへ来て「再ブレーク」と言っていいほどの快進撃をみせている。どこに出て行っても百発百中で爆笑をもぎ取るような破壊力抜群のネタを量産している。

 見れば確実に笑ってしまう。しかも、安心してクスッと笑えるというような生易しいものではなく、一度見たら最後、腹を抱えて死ぬほど大笑いしてしまうようなものばかり。見た目のインパクトが強く、日本語がわからない外国人や赤ちゃんでも問答無用で笑ってしまうのではないか(赤ちゃんは泣くかもしれない)。

「確実」に「大爆笑」。キンタロー。は確実性と破壊力を両立させる大谷翔平と同じ高みに立っている。

 大谷は、誰がどう見ても野球の天才であるわけだが、キンタロー。も芸人としては突出した才能を持っている。何よりもまず、圧倒的なフィジカルの強さがある。

■顔と体のバランスが絶妙

 顔と体の大きさのバランスが絶妙で、天性のコメディアンとして生まれてきたと言うしかない。すらっと長い手足を持つ高身長である大谷と同様に、体そのものが1つの才能である。

 しかも、キンタロー。は長年ダンスに打ち込んでいて、ダンス講師だった過去があり、動きのキレも尋常ではない。基本的なものまねの技術に加えて、見た目の強さと動きの巧みさがあるのだから非の打ちどころがない。

 キンタロー。は、その恵まれたフィジカルの才能を生かして、ものまねの題材となる人物をすべて「キンタロー。色」に染め上げてしまう。

 決して似ていないわけではない。見た目も声も口癖も、本人をよく研究しているというのは伝わってくる。ただ、最終的な仕上がりは、すべてキンタロー。そのものになっている。見る人が膝から崩れ落ちるほど笑わずにはいられない彼女のものまねネタの核心はそこにある。

■大谷翔平の名言はお笑いにも通ず

 ものまねの対象を単にリスペクトしているというのとも違うし、バカにしているというわけでもない。ただ、忠実にまねしながらも、いつの間にかそこにキンタロー。成分がどんどん入り込んでいき、「似ているのに圧倒的に変」という仕上がりになってしまう。

 大谷は「憧れるのをやめましょう」という名言を残したが、これはものまねにも当てはまる。ものまね芸人が対象者に憧れすぎていると、本質に迫りきれないスケールが小さいネタになってしまう。

 キンタロー。は、ものまねの中に自分自身がはみ出している。そのはみ出ている部分こそが魅力であり、価値である。変わった見た目の人が、変わった動きをして、変わった表情をして、見る人を笑わせる。それはある意味でお笑いの原点のようなものなのかもしれない。

「ものまね芸人界の大谷翔平」ことキンタロー。は、今年はあと何本のホームラン級の傑作ネタをみせてくれるのだろうか。(お笑い評論家・ラリー遠田)