都知事選出馬を表明した石丸市長

SNSやYouTubeで記者会見や市議会の様子を発信して注目されている広島県安芸高田市の石丸伸二市長(41)が、7月の都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)に出馬することを表明した。都知事選には現職の小池百合子都知事も三選を目指して出馬すると予想されている。話題性のあるプロジェクトや政策を掲げて「小池劇場」とも称される小池知事と、「政治のエンタメ化」を口にしてきた石丸市長。都知事選が俄然、熱くなってきた。

 5月17日に広島市内で記者会見し、都知事選出馬を正式表明した石丸市長は、
「日本の人口は次の20年間で1300万人減少します。多くの自治体がいま消滅に向かっている。なので、いちばん大きな力を持っている東京都を動かす必要があると考えた」
 と、東京都の過密を解消することで、東京や地方を住みやすくすると語った。

 無所属での立候補だが、政党の支持は求めていくという。
「私の考えに賛同してくれる政党からの支持という意味です。私が政党に合わせるものではありません。今、話をしている政党はありますが、まだ何も決まっていない。都知事選のような大きい選挙は、国政の影響が強いが、今、国政の代理戦争をしている場合ではない。この国を立て直していくのに何年かかるんだろうと、それではもう間に合わなくなると思います。それとSNSなどでは都知事選出馬が国政へのステップなどと投稿されているようですが、まったく違います」

 石丸市長は安芸高田市に生まれ育ち、京都大学をへて三菱UFJ銀行に入行、姫路支店やニューヨークで働いていた。2019年の参院選で、河井克行・案里夫妻が地元にカネを配った公職選挙法違反事件で、当時の安芸高田市長らが現金を受け取ったとして辞職。次の選挙に前市長の継承を掲げる副市長が出馬するのを知って、「この人に任せちゃ安芸高田市は終わってしまう」と会社を辞め「政治再建」を掲げて市長選に出た。

 当選後は市の定例記者会見や市議会の様子を、自ら「炎上商法」と呼ぶSNSやYouTubeを駆使した方法で、安芸高田市に注目を集めた。

 議会とぶつかり、副市長人事などを否決されたが、市議会で居眠りをしている市議を取り上げ、
「居眠りをする、一般質問をしない、説明責任を果たさない。これこそ議会軽視の最たる例です。恥を知れ! 恥を!」
 と一喝。このやりとりはYouTubeで大反響を呼んだ。

 安芸高田市の公式YouTubeチャンネルは登録者が激増。登録者は26万人超と、東京都も上回り、全国自治体トップになった。次の安芸高田市長選挙には出ず転身すると表明した5月10日の臨時記者会見の様子を伝えるYouTubeの再生回数は、前編・後編をあわせると1週間もたたずに70万回を超えた。

「小池知事のサプライズ、小池劇場は有名です。けど、石丸市長もいきなりメガバンクを辞めて市長選に立候補、今度は都知事選と似ている感じがする。こんな田舎の市長が都知事選に出て注目されるなんて、まさに“石丸劇場”ですね」
 と安芸高田市の職員は嬉しそうに話す。

 人口2万6千の市長から、1400万の都知事を目指す。その石丸市長には、選挙に強い小池知事が壁となる。

 17日の会見でも、小池知事への対抗心が垣間見えた。16年の都知事選で小池知事が掲げた、「満員電車」「介護離職」「待機児童」などをなくすといった「7つのゼロ」の公約に触れて、こう言った。

「小池知事の公約、ゼロを掲げられていますが、ほとんど人口集中過密に原因があります。見ていると、全部が対症療法で、ものすごくコストをかけながら、なかなか結果が出ない。多極分散、東京の過密を解消することによって、東京都を世界で一番住みやすい街にする。これを東京で追求することが、地方の活性化につながる。一石二鳥、一挙両得、小池知事の言葉を借りれば、『アウフヘーベン』ですか」

 政治のエンタメ化を明言してきたことについては、こう語った。
「政治のエンタメ化、単に面白おかしく茶化せばいいという軽薄なものではありません。エンターテインメントはもてなすということ。もてなしの意識は本来政治であるべき。政治家がインフルエンサーになるような時代がきたとも感じている。それほど政治への関心が薄れています」

 石丸市長は東京には基盤がなく、選挙事務所などを探している真っ最中。選挙戦略の基本は、「SNSやYouTubeの力を借りて人を集める」という。
「選挙が終わってから、投票率下がりましたってニュースで報道される。悲しくなりませんか? 都知事選は投票率を上げるんですよ、爆上げしましょう」

 小池知事のお株を奪う、石丸市長の“サプライズ”出馬で、都知事選はどうなるのか。

(AERA dot.編集部・今西紀之)