公明党の山口那津男代表

 後半国会の最大のテーマといえる政治資金規正法改正をめぐり、自民党と公明党は法案の共同提出を諦めた。両党は5月9日に改正案の概要を取りまとめ、合意できなかったパーティー券購入者の公開基準額についても、公明党の山口那津男代表が「方向性は確認できた」と述べるなど、前向きな姿勢を示していた。

 しかし、国民の理解を得るためには寄付と同様に公開基準額を「5万円超」とすべきと主張する公明党に対し、それでは所属議員の死活にかかわると自民党が強硬に反対。「10万円超」の公開基準額を譲らず、自民党は独自に法案を作成せざるをえなくなった。

「自民党には、本気で政治改革に取り組む気持ちがないからだ」

■政策活動費をめぐり両党に隔たり

 自民党内では公開基準額のさらなる引き下げについて反対する声がある一方で、このようにひたすら「10万円」にこだわる執行部の姿勢を批判する声もある。

 というのも、自民党は衆議院では単独で過半数を制しているが、参議院では過半数に足りず、単独で法案を可決・成立させることができない。もし本気で政治改革に取り組もうとするのなら、公明党に対してもっと真摯(しんし)に向き合って、譲歩しても法律を成立させようとしたはずだというわけだ。

 もっとも公明党にすれば、自民党に起因する「政治とカネ」問題に引きずり込まれてはたまらないという気持ちがあるから、「5万円」から妥協するつもりは一切ない。パーティー券と同様に問題となっている政策活動費についても、両者の隔たりは大きかった。自民党は大まかな項目ごとの公表でお茶を濁そうとする一方で、公明党は明細書によって詳細に公表すべきという主張を曲げなかった。

  20年以上も連立を組んできた自民党と公明党だが、ここにきてその関係に変化が見え始めている。

自民党大会で発言を終え、岸田文雄首相(左)と握手する公明党の山口那津男代表=2024年3月17日、東京都港区

 たとえば、昨年10月22日投開票の衆院長崎4区補選や、先月28日の衆院島根1区補選では、公明党は自民党の公認候補に告示日の前日まで推薦を出し渋った。

 後者は昨年11月に亡くなった故・細田博之前衆院議長の弔い合戦だったが、生前の細田氏による女性記者に対するセクハラ疑惑に公明党の集票の原動力である創価学会女性部が反発した。さらには「10増10減」により新設される衆院東京28区をめぐって自民党都連と公明党が対立したことも、少なからず影を落としている。

 そもそも自公連立について、公明党はドライな姿勢を貫いている。

■公明党に「連立野党はない」

 自民党が下野した後の2010年の自民党の党大会に公明党の山口代表が招待されたが、公明党の党大会には自民党からの来賓はなく、谷垣禎一総裁(当時)がメッセージを寄せたのみだった。この時、「連立与党はあっても、連立野党はない」と、ある公明党関係者は語っている。「自民党のためなら、地獄の底までついていく」という気持ちはさらさらないということだろう。自民党に猛烈な逆風が吹きやまない今では、なおさらだ。

 次期衆院選では大きく議席数を減らすと言われている自民党だが、それは公明党の組織票を計算に入れての話である。頼りとする公明票が離れればどうなるか。それは4月28日投開票の衆院東京15区補選の結果を見るとよくわかる。ファーストの会副代表の乙武洋匡氏は1万9655票しか獲得できず落選した。小池百合子東京都知事が全力で応援したにもかかわらず、9人の候補者中5位という惨敗ぶりだった。

 本人の抜群の知名度と万全な支援にもかかわらず、無様な結果に終わった理由は、乙武氏の過去の女性スキャンダルを創価学会女性部が嫌ったためだった。もっとも選挙戦が始まると、公明党と蜜月関係にある小池知事の懇願を受けて創価学会の一部が乙武氏の応援に動いたが、それでもひどい結果だった。

■国民にとってはどうでもいい

 選挙後、ある公明党関係者は口元に笑みを浮かべて「我々の一部が応援しなかったら、乙武氏は供託金を没収されていたはずだ」と話した。また乙武氏の惨敗は、小池知事の政治力にも影を落とすだろう。小池知事は7月の都知事選で3選確実と言われるが、その政治的ピークが過ぎたことは否めない。

 自民党がこれまでの(強い)自民党であり続けようとすれば、孤立無援は避けられない。時代は変わり、民意も変化した。自民党は「パーティー券購入者の公開基準額を5万円超にすれば、新人議員らが集金に困ることになる」と主張するが、国民にはそんなことはどうでもいいのだ。そして自民党にとって政治のパートナーであるはずの公明党も、変わりつつある。

 それを看過して政権を維持できようか。今回の自公の合意決裂は、政治の大きなターニングポイントになるかもしれない。

(政治ジャーナリスト・安積明子)