5月17日、公選法違反の疑いで「つばさの党」3人が逮捕された。他党の候補者に詰め寄ろうとする根本良輔氏

 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回はつばさの党の大暴れと、私たちの政治へのまなざしについて。

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 先月行われた衆院東京15区補選で他候補の選挙妨害をしたとして、つばさの党の元候補者を含む3人が逮捕された。

 メディアで報道される彼らは暴力的で、威圧的で、その様子に眉をひそめる人々の反応を楽しんでいるようにも見え、一言で言えばただのチンピラである。電話ボックスの上に乗って候補者に怒号を浴びせる姿は幼稚であり、知性や教養といったものが感じられず、ヤカラ臭しかない。だいたい都知事の家の前に立つような執拗さはストーカー的で怖く、都知事に「白塗りクソババア」と叫ぶ姿はミソジニーそのものである。そんな彼らが逮捕されたというニュースは、「いくらなんでも逮捕はやりすぎなのでは……」と思いつつ、それ以上深追いしようとも思わないでいたのだが……。

 ふとしたきっかけで見てしまったつばさの党のYouTube動画で、私は驚いたのであった。誤解なきように記すが、私は彼らの政治信条については知らず(彼らのテキストを読んでもそこに信条があるとは読み込めず)、彼らの行為を肯定しない。その暴力的で幼稚な振る舞いは、言葉を選ばずに言えば「キモイ」の一言しかない。それでも、彼らの「言っている」ことをテキスト上で見てみると……はっきり言って、「わかるわかる」と頷きたくなるような人は多いのではないか。そしてそんなことを考えている自分に、私はドキッとしたのであった。

 彼らはただひたすら、相手候補らの一番痛いところを突く言葉を投げかけるのであった。

 小池百合子都知事が現れたら「おい、嘘つき」の一言である。 

 国民民主党代表の玉木雄一郎さんには「なんで今さら小池なんかと組むの?」と叫んでいた。

 立憲民主党の候補者や応援者に対してはひたすら「きれい事言って、消費税上げようとしてますよね」と執拗に絡み続けた。

 日本維新の会には「大阪ぶっ壊しておいて今度は東京をぶっ壊すつもりか?」とがなり立てる。

5月13日、「つばさの党」根本良輔・同党幹事長の自宅から看板などを押収する警視庁の捜査員ら

 女性秘書の自殺が報じられた参政党には「秘書の自殺問題に答えろ」「代表の女癖が悪い、逃げるな」と粘着する。

 5人との不倫が報じられ、離婚した元妻から提訴された乙武洋匡さんには「不倫はダメだぜヘイヘイヘイ」とふざける。

 百田尚樹さんらが率いる日本保守党には「日本を壊した安倍晋三を崇拝して、保守とか言っちゃってる。頭悪すぎ」と一蹴し、「アメリカの犬、イスラエルの犬。中東を戦争で火の海にしたイスラエルの戦争責任について答えろ」と得意げな調子で吠える。

 そしてそんな彼らに対しても対話を拒まないれいわ新選組代表の山本太郎さんに対しては、「お前ほんとに喋るの得意やな」と拡声器ごしに答え、さらに彼らに向き合おうとする山本さんに「洗脳をするな!」と叫ぶのであった。

 彼らのYouTubeチャンネルで流れてきた「洗脳するな!」に、つい声をあげて笑ってしまい、ハッとする。これでは確かにYouTubeチャンネルの視聴者数を稼げるだろう……というか、私も加担してしまっているではないか! そしてそんな彼らの声を「小気味よい」と思ってしまう私も、私の中にはいるのである。私の中のゲスが、彼らの声を面白がっている。この国の政治にはとっくに芯も真もなく、金と欲でどろどろと汚く溶解し、右も左もリベラルだろうが大差なく、自分たちの組織の保身しか考えてないんじゃないのか、結局は結局は……という政治に対する深い諦めに「不倫はダメだぜヘイヘイヘイ」くらいの暴力的おふざけで癒やされるという心理状況に、私自身が落ちてしまっているのである。

 私は今回、東京15区の有権者じゃなくて本当によかったと思っていた。今の時点でも入れたい候補者がいないからだ。この国の有権者として国政の投票権を無駄にするなんてあり得ないと思って生きてきたが、それでも今、私は入れたい政党も入れたい候補者もいない。今回の補選の投票率はあまりに低かったが、それはもしかしたら私のように「自分の声を代弁してくれる政治家がいない」という諦めからの棄権、という意思表示でもあったのではないか。

 そんな15区で暴れるだけ暴れたつばさの党の暴力的なおふざけは、そんな政治的末期状況が生んでしまった悲喜劇のようなものなのではないか。右とか左とか政治信条も思想もない、ただただ「今がイヤ」「今がダメ」と叫ぶくらいの民度しかない私たちの今そのもののような。

 と、そんなことを言っているうちに、この国の未来はどんどん暗く重いものになっていくだろう。私たちの暮らしや未来を左右する政治に私たちがどのように向き合うべきか、いよいよ本当に崖っぷちに立たされている状況なのかもしれない。つばさの党の幹部たちの逮捕は、何十年後からみたら、この国の政治状況を考えるうえでの重要な契機になる……ようなものだったりするのかもしれない。やはり諦めてはいけないのだとも思う。少なくとも私は、なんとかしたい、しなければいけないのだと焦燥している自分に気が付かされる思いになっている。