正念場を迎えつつある中日・根尾

 5月16日の阪神戦。バンテリンドームが阪神ファンの大歓声に包まれる中、手痛い一発を浴びた中日・根尾昂はマウンドで何を感じたか。6年目右腕は、1軍生き残りをかけて背水の陣を迎えている。

 今年は先発ローテーション入りを目指した根尾だったが、オープン戦は3試合登板で防御率3.86。他の投手の状態が良かったこともあり、開幕2軍スタートとなった。ウエスタン・リーグでは5試合に先発登板で2勝2敗、防御率4.18だったが、救援要員として今月5日に1軍昇格した。

 劣勢の展開での登板が続くが、ここで結果を残さなければ首脳陣の信頼を勝ち取れない。今季初登板となった今月10日の広島戦では、3点差を追いかける8回1死二、三塁のピンチで登板したが、先頭打者の代打・宇草孔基にストレートの四球。満塁として次打者は三振にしとめたが、続く同学年の小園海斗に押し出しの四球。マウンド上で天を仰いだ。
 2度目の当番となった冒頭の阪神戦、6回から救援登板したが、安打と四球で1死一、二塁のピンチを作り、原口文仁に左翼席へ3ラン。2ボールとカウントを悪くして146キロの直球を痛打された。

■投げた瞬間にボールと分かる変化球

 中日を取材するスポーツ紙記者は渋い表情を浮かべる。

「150キロ台を計測していた直球が140キロ台後半に落ちたのは、球の質を求める方向性として決して間違っていないと思います。ただ、これだけ制球がばらつくと厳しい。阪神の村上頌樹や西勇輝のように剛速球がなくても先発で活躍できる投手は、制球力と変化球の質が抜群にいい。根尾の場合は投げた瞬間にボールと分かる変化球が多く、打者に見極められやすい。また、右打者の懐に食い込むシュート系の球がないので投球の幅が狭くなる。正直、課題は多いです」

    野手時代の根尾。打者に戻ることはあるのか

 アマチュア時代は世代のトップランナーだった。藤原恭大(ロッテ)、横川凱(巨人)、柿木連(日本ハム)と共に大阪桐蔭で全国制覇を3度達成。投打の二刀流として活躍し、2018年のドラフトでは中日、日本ハム、ヤクルト、巨人の4球団から1位指名を受け、抽選の結果、中日に入団した。遊撃手として球界を代表する選手になると将来を嘱望されたが伸び悩み、外野にコンバートを経て、22年のシーズン途中に投手と野手の二刀流へ。翌23年から投手に専念した。

 根尾が登板すると、スタンドがわく。絶大な人気は今も変わらない。一方でインパクトのある結果は残せていない。昨年は春先に投球フォームのバランスを崩し、シーズンの大半がファーム暮らし。終盤に1軍昇格して2試合登板で防御率0.71をマークし、今年は大きな飛躍が期待されたが、停滞している感が否めない。

■「評価しているのは投手でなく野手ですね」

 セ・リーグのスカウトは、こう漏らす。

「甲子園のスター選手がプロの世界で思うような結果を残せず、消えてしまうのは不思議ではない。でも、根尾は高校時代の野球センスを見ていたので、もったいないなあと。素材としては間違いなくいい。彼は同学年の小園と比べて粗削りで、遊撃の守備の安定感で言えば小園の方が当時から上だった。でも根尾には攻守で伸びしろを感じていた。評価しているのは投手でなく野手ですね。他の球団もそうだと思いますよ。頭のいい選手でチームリーダーになれる。素材としては間違いなくいい。送球に不安を抱えているならセカンドという選択肢もある。打撃もまずプライドを捨てることからですね。もう高校ナンバーワンスターではないですから」

 かつて、中日でコーチをしていたOBも同意する。

「根尾は頭がよすぎる。これは褒め言葉じゃないんです。教えたことを根気よく続ける忍耐力がない。打撃フォームを修正してすぐに打てるものではないのに、結果が出ないとコロコロ変えてしまう。根尾の場合は『二度引き』という悪癖が修正できなかった。トップの位置からバットをそのまま出さずに、もう一度引いてしまうので速い球に差し込まれてしまっていた。能力が高いから色々と小細工してしまう。もう少し何とかできたかなという思いは今でもあります」

 プロ野球の歴史を紐解くと、遊撃で入団した選手が、そのまま遊撃で大成するケースの方が珍しい。高校ナンバーワン遊撃手と形容された内川聖一(横浜、ソフトバンクほか)は送球難のため、守備の負担が少ない外野にコンバートされて打撃の素質を開花させた。福留孝介(中日、阪神ほか)、山田哲人(ヤクルト)、浅村栄斗(西武、楽天)も入団時は遊撃だったが、他のポジションで球史に名を刻む強打者として大成している。

「根尾は山田、浅村とはタイプが違いますが、野手として育てたら面白いという思いは今でもありますよ。ドラフト1位の人気選手なので中日がトレードで放出は考えづらいかもしれないけど、高卒6年目で伸び悩んでいる現状を考えると期待の若手という位置づけではなくなってきている。実際にドラフト1位で入団した同学年の吉田輝星も、昨オフに日本ハムからオリックスにトレード移籍していますしね。根尾の場合は投手でなく、野手で評価してトレードを打診する球団があっても不思議ではない」(セ・リーグの編成担当)

 同期入団で下位指名の戸郷翔征(巨人)、万波中正(日本ハム)が球界を代表する選手に駆け上がっている中、アマチュア時代に世代のトップランナーだった根尾や吉田が伸び悩んでいる。これがプロの世界の厳しさ、奥深さとも言える。

■「生き残る道は投手しかない」の声も

 野手・根尾に他球団の評価が集まる中、スポーツ紙デスクは「僕は根尾の投手転向を決断した立浪監督を評価しますね」と違う見方をする。

「1軍で活躍する選手は、ファームで高卒3年目以内に打撃面で際立った成績を残している。でも、根尾は確実性を欠いたままで打率が上がって来なかった。あのまま野手を続けてブレークするかといったら厳しい。時間はかかるかもしれないが、プロで生き残る道は投手しかないと思います。個人的にはリリーバーだと思いますね。瞬発系の選手なので、多少粗くても思いっきり腕を振ってほしい。『野手投げ』と言われていましたが、投手に転向した当初の方が相手打者から見ると怖さを感じたと思います。投手としての土台を築くのは大事ですが、器用なタイプではない。制球重視で小さくまとまってほしくないですね」

 シーズンはまだ三分の一も消化していない。根尾が結果を残せば、重要な役回りを託されるようになるだろう。先発陣が盤石と言えない中で、チャンスが巡ってくるか。マウンドで光り輝く姿を、中日ファンは待ち望んでいる。

(今川秀悟)