今季からソフトバンクでプレーする山川穂高

 プロ野球界における「アンチ」の勢力図に変化が見られる。巨人に対する嫌悪感が減りつつあり、“台頭”してきたのがソフトバンクだ。

 近年は巨人に代わり豊富な資金力を武器に実績あるFA選手や助っ人を“乱獲”し、昨オフには女性問題をめぐる不祥事を起こし、獲得に反対意見もあった山川穂高(西武からFA)と契約。今季はその山川の活躍もあり、5月23日終了時点で2位・日本ハムに6.5ゲーム差の首位とパ・リーグで独走態勢となっている。5月21日、22日に行われた楽天との2試合では合計33点を奪い、1点も与えない圧倒的な戦いぶりを見せた。

 獲得した大物たちが活躍して“腹が立つ”ほどの強さが加わってきたことでアンチが増えてきているという。

「(ここ数年)信じられない額を選手獲得に費やしている。時代が違うとはいえ、かつて“金満”と批判された巨人を上回るようなレベル。また補強の進め方も周囲の反感を買うような方法だった」(スポーツマーケティング会社関係者)

 特に山川の獲得でアンチを増やした感がある。契約後には球界のレジェンドでもある球団の王貞治会長が「野球で生きていける力のある人が、その世界で生きられないことはあってはいけない。(山川は)社会的な制裁を受け、本人も反省している。挽回のチャンスは与えるべきだ」とコメントしたが、ただ戦力として獲っただけなどと炎上したほどだ。

 また、山川の人的補償としてベテラン左腕の和田毅が“プロテクト漏れ”していたのではないかと批判も集まった。結果的に2018年ドラフト1位の甲斐野央が移籍することになったが、前年は女性スキャンダルによって出場停止処分となり、ほぼ全休となった選手を獲得するために、球団の功労者を放出するのか?とファンの怒りを買った。

「山川獲得にはいまだ賛否両論ある。またそれ以上に功労者で大ベテランの和田の扱いは、怒りを超えて呆れている人も多い。プロは勝ってナンボだが、義理や人情がないと感じさせた」(ソフトバンクOB)

 さらに、今年はここまで順調なものの、大型補強を続けていながら昨年までオリックスの3連覇を許すなど勝てない時期が続き、自チームのファン離れも招いているという。2022年オフにはFAで近藤健介(前日本ハム)、嶺井博希(前DeNA)、他にも有原航平(前レンジャーズ)、オスナ(前ロッテ)、ガンケル(前阪神)らを総額80億円かけて獲得したが3位に終わっている。

「お金に物を言わせて選手をかき集めていることが他球団ファンの反発を招いている。結果にも繋がっていないので自球団ファンの怒りも買いつつある。アンチが増えるのもわかる」(在京テレビ局スポーツ担当)

 その傍ら、かつてはアンチ=巨人というほど他球団ファンに忌み嫌われていた球界の盟主だが、ここにきて“好感度”は上がっているという。

「ソフトバンクの一件で巨人が功労者を大事にするようになったことが浮き彫りになった。他球団へ放出した選手やコーチを呼び戻す。移籍加入組も現役引退後にコーチや職員として雇用する。かつてのような『生え抜き以外に冷たい』印象はなくなりつつある」(巨人OB)

 西武に移籍した内海哲也(炭谷銀仁朗の人的補償)は今季から投手コーチとして呼び戻した。移籍先の広島で慕われていた長野久義(丸佳浩の人的補償)は、球団トップが頭を下げて戻してもらったという話もある。また投手チーフコーチの杉内俊哉(元ソフトバンク)をはじめ、移籍加入組でコーチとなった者も多い。

 また、今季から阿部慎之助新監督を迎え若手主体で何とか名門復活を成し遂げようとチーム一丸となって奮闘している。5月17日の広島戦から引き分けを挟み4連敗を喫するなど、苦しい戦いも続くが巨人はもちろん他球団ファンからも「期待の若手が出てきて見ていて面白い」というポジティブな声も多い。

 一方でソフトバンクは若手育成を謳いながら現実は補強選手に頼っている部分も多い。以前の巨人のような状態だ。

「福岡県筑後市に球団施設を作り四軍制度を敷いた。自前選手の育成を掲げたが結局は補強頼みになっている。生え抜き選手が育たない球団を応援する人が減るのも仕方ない」(ソフトバンク担当記者)

 2016年に約50億円をかけ建設されたHAWKSベースボールパーク筑後は主に2軍から4軍までが使用する。施設内に寮があって野球漬けになるには最高の環境があるが、ドラフトで獲得した期待の選手がなかなか育ってこない。

「主砲として期待されるリチャードをはじめ、伸び悩んでいる選手も多い。埋もれている好素材も少なくないはずなので、補強選手に頼る今の状況は宝の持ち腐れだ」(ソフトバンクOB)

 過去には千賀滉大(現メッツ)や甲斐拓也、周東右京などが育成契約から主力に育った。現在も野手では今宮健太、栗原陵矢、投手では大関友久、東浜巨、石川柊太など主力に生え抜きがいないわけではないが、特にドラフト上位指名の選手が伸び悩み、補強で強さを保っていることは否定できない。

 対する巨人は「FAでの選手乱獲」が批判された時期も長かったが、近年は移籍市場でのプレゼンスは下がりつつある。

「巨人にはかつてのようなブランド力が無くなってFA選手などが来なくなっている。しかし育成重視の姿勢によって、ファンが愛着を持ちやすい新時代が到来しつつある」(巨人担当記者)

 古今東西、資金力を武器に他チームの主力を獲得し、圧倒的に強いとアンチが増えるのは必然でもある。

「ルールに沿った選手補強は企業努力で資本力があるならそれもアリ。MLBや欧州サッカーでも当たり前に行われていること。そういう球団が簡単に勝てないことでリーグは盛り上がる。他球団には必死で頑張って(ソフトバンク)を阻止して欲しいとも思う」(在京テレビ局スポーツ担当)

 いまだ絶対数では巨人のアンチの方が圧倒的に多いだろう。しかし、近年の大型補強に加え、山川獲得に関する一連の騒動、そして圧倒的な強さを発揮していることで一気にアンチが増えた印象を受けるソフトバンク。ただ、こういったチームが生まれることで盛り上がるということがあるのもスポーツ界の側面。ソフトバンクがこのまま独走するのか、他球団が意地を見せるのか。“強すぎる”ソフトバンクの今後の戦いぶりに注目したい。