苦しいシーズンになった西武の松井稼頭央監督

 最下位に低迷する西武が窮地に立たされている。5月18日のソフトバンク戦に敗れ、球団史上最速となる39試合目で早くも自力優勝の可能性が消滅した。今季2度目の7連敗を喫するなど、5月23日現在で借金16。首位ソフトバンクとは17.5ゲーム差で、5位の楽天とも4.5ゲーム差をつけられている。

 松井稼頭央監督就任1年目の昨年は5位に沈んだが、今年の戦前の下馬評は決して低くなかった。

 先発陣は高橋光成、今井達也、平良海馬、隅田知一郎、松本航とエース級の実力者がズラリ。大学№1左腕・武内夏暉が加入したことでさらに強固になった。山川穂高がFAでソフトバンクに移籍したことは打撃面でマイナスだが、人的補償でセットアッパーの甲斐野央を獲得したことで救援陣の層が厚くなった。現代の野球は投高打低のトレンドが進んでいる。強力な投手陣で試合の主導権を握り、白星を重ねる――。
 だが、この目論見が崩れた。

 エースの高橋光が右肩の張りにより1軍合流が開幕から2週間出遅れ、1軍登録後も勝ち星に恵まれない。もっと誤算が続いたのは野手陣だった。ポイントゲッターとして期待されたヘスス・アギラー、フランチー・コルデロの両新外国人が機能せずファームに降格。ベテランの中村剛也に負担の掛かる打線は迫力不足が否めない。
 若手にチャンスを与えられるが結果を残せず、苦肉の策で「日替わり打線」に。42試合で101得点はリーグワースト。1試合平均2.4得点では白星を積み重ねられない。

 打線がふるわないため、投手陣に「1失点も許されない」という重圧がかかり、精神的な余裕が失われる。自慢の投手陣は安定感を欠き、チーム防御率3.22はリーグ5位。救援陣のチーム防御率4.86はリーグワーストだ。

 他球団と比べ、野手陣は個々の能力が落ちる点は否めない。ただ、西武のチームカラーは野球の質が高く、試合巧者であるということだった。その伝統が失われることを、取材する記者は危惧する。

「犠打で走者を次の塁に進められなかったり、走塁ミスしたりするケースが目立ちます。外野陣の守備能力が高いとは言えず、浅いフライでも相手の三塁走者が本塁に還ってくる。昔のライオンズでは考えられなかった。ベンチを見ても緊張感が伝わってこない。頑張るのは当たり前で、結果が求められるのがプロです。松井監督が目指す機動力野球も機能していない。チーム再建はいばらの道です」

エースの高橋光成が出遅れたのは誤算だった

■休日の試合でもスタンドに目立つ空席

 ふがいない戦いぶりに、西武ファンが球場から離れている。本拠地ベルーナドームで開催された11、12日の楽天戦は土日にも関わらず、来場者が1万9482人、1万9185人。3万1552人収容の球場は空席が目立った。

 観戦に訪れた西武ファンの40代男性はこう訴える。
「勝てないからではなく、どういうチームを作るかというビジョンが見えてこないから客足が遠のいているんじゃないですかね。例えば日本ハムは新庄監督が万波中正、野村佑希を打撃不振でも我慢強く起用していた。でも、松井監督はこの選手を育ててチームの核にするという意図が見えてこない。辻発彦前監督の時は魅力的なチーム作りをしていたので比べてしまいますよね」

 辻前監督が就任したのは17年。前年度まで3年連続Bクラスに低迷するなど8年間リーグ優勝から遠ざかっていた。変革が求められる中、新人の源田壮亮を遊撃のレギュラーに抜擢。外崎修汰ら実績のない選手をスタメンで積極的に起用した。チームは7月下旬から13連勝を飾り、首位のソフトバンクを猛追。惜しくも及ばなかったが若手は結果を残すことで自信をつけた。源田はフル出場で新人王に。外崎も内外野守れるユーテリティープレーヤーの地位を確立し、初の規定打席到達で2ケタ本塁打をマークした。チーム力が大きく底上げされ、18、19年のリーグ連覇につながった。

 当時の西武を取材した記者は振り返る。
「辻さんはよく我慢して起用したと思いますよ。外崎は6月に入っても打率1割台だったのにスタメンから外さなかった。起用法で『こいつを一人前にする』という強い覚悟を感じましたし、外崎もその後の活躍で期待に応えた」

 そして、今のチームにも可能性があると言う。
「今も蛭間拓哉、渡部健人、長谷川信哉と打撃で可能性を感じさせる好素材がいます。山村崇嘉、村田怜音はケガで戦線離脱しましたが、スケールが大きく将来主軸を張れる可能性を秘めた選手です。勝つための起用法になることは当然理解できますが、中・長期的なチーム戦略として蛭間、渡部、長谷川を一本立ちさせるため、多少の失敗に目をつむって、スタメンで20、30試合使い続けてはどうかと思います」

山川の穴を埋めるスラッガーとして期待されたアギラーは、結果が出ず登録を抹消された

■得点力不足でも巨人は勝率5割キープ

 育てながら勝つのは難しい。だが、この問題に直面しているのは西武だけではない。主力の高齢化で若返りの時期を迎えている巨人は、就任1年目の阿部慎之助監督がドラフト3位ルーキーの佐々木俊輔、大卒2年目の萩尾匡也を外野のスタメンで起用。45試合でリーグワーストの110得点と西武と同様に得点力不足に苦しみながらもしぶとい戦いぶりで、勝率5割以上をキープしている。

 西武で気がかりなのは、モチベーションの低下だ。借金が積み重なれば自信を喪失する。

 球団OBは「借金が20にふくらむと、さすがに巻き返すのが厳しくなる。監督の途中退任は考えづらいが、首脳陣の配置転換に踏み切る可能性がある。でもそれは抜本的な改革ではないですからね。勝ち負け以前に、西武のプライドを持った野球を見せてほしいですね」と期待を込める。

 今月下旬から交流戦が始まる。交流戦でシーズンの流れが変わることはこれまでもあった。西武はどん底から反転攻勢のきっかけをつかめるか。

(今川秀悟)