昨季はDeNAでプレーしたバウアー

 トレバー・バウアー(メキシコシティ・レッドデビルズ)はこのまま“過去の人”になってしまうのだろうか……。本人が希望しているMLB復帰はいまだに叶わず、今季はNPBでプレーする可能性も消滅。今後はメキシコでのプレーを続けるというが、かつてのサイ・ヤング賞右腕のキャリアがどうなっていくのか野球ファンが注目している。

 5月26日、DeNAの萩原龍大チーム統括本部長はバウアーとの交渉を打ち切る方針を明かした。昨シーズン終了後に一度チームを離れたが、起爆剤的な役割を期待し今シーズンも契約することを望んでいたというが、本人の意向もあり断念したという。

「DeNAは今永昇太がポスティング制度でカブスに移籍して投手力が下がった。打力頼みの戦いが続いており、投手陣の柱の1人としてバウアーとの契約を望む声は強かった」(DeNA担当記者)

 昨季は性的暴行疑惑により、米国で所属先が見つからず電撃的にDeNAに入団したバウアー。シーズン開幕直前の契約となり一軍合流は遅れたが、それでも19試合に先発して10勝4敗、防御率2.76とメジャーの一流投手の力を見せつけた。オールスターにも出場し、グラウンド外でもYouTubeを駆使した情報発信が話題となるなど、球団の枠を超えた存在として日本のプロ野球界を盛り上げた。

「(今季バウアーと契約できなかったのは)マーケティング分野でも力を発揮していたので痛い。ユニホームなどの個人グッズ売上はチームトップクラスだった。登板日にはホーム、ロードともに多くのファンが球場へ足を運んだ」(スポーツマーケティング会社関係者)

 DeNA側は引き続き今季もプレーすることを望んでいたが、バウアーは米球界復帰を目指すことを決断。3月に5試合の登板限定で契約したレッドデビルズで“その時”を待っていたが、いまだ米球団との進展はなく、今季終了まで同球団でプレーすることとなった。

「バウアー本人の頭にはメジャー復帰しかない。しかし米球界ではアンタッチャブルな選手という評価がされている。(性的暴行を受けたと訴訟していた女性とは)和解が成立したとはいえDV疑惑を起こしたことの影響は大きい」(在米スポーツライター)

「開幕前にはMLBキャンプ地でデモンストレーションを行い、健在をアピールした。メキシコリーグでも格の違いを感じる投球を見せている。それでも獲得球団が現れないことが現状を示している」(MLBアジア地区担当スカウト)

 2020年のサイ・ヤング賞獲得から4年が経過したが球威とマウンドさばきは不変。今季メキシコでは5連勝で防御率0.50と圧倒的な結果を残している。

 現地5月26日には4連敗中だったドジャースの右腕ウォーカー・ビューラーがベンチで荒ぶる様子とともに「何を変えるべきか?」と地元のメディアがXに投稿すると、「トレバー・バウアーと契約することだ」と返信するなど、MLB球団への積極アピールは続いているが……。

「米国復帰の可能性はゼロに近いでしょう。登板時にMLBスカウトが視察に訪れることが皆無に近い現状をバウアー本人もわかっているはず」(MLBアジア地区担当スカウト)

 33歳という年齢でまだまだ余力があることは昨季のNPBでの投球などで示しているが、3年近くメジャーの舞台から遠ざかっている。加えて“問題児”としてのレッテルも貼られているだけに、もはや米国では獲得候補としてリストアップすらされなくなっているのかもしれない。

「(必死にアピールはしているが)MLB復帰が難しいのはバウアー自身も理解しているはずで、今後は本人の気持ち次第だろう。(MLB以外で)お金を稼げるNPB球団を選択肢に入れるのかどうか」(スポーツマーケティング会社関係者)

「日本に行くと決めた時にはうちが1番手になると信じていますし、その交渉はしていきたい」とDeNAの萩原チーム統括本部長がコメントしているように、来季以降は日本でプレーする可能性も残されてはいる。また、興味を持っている球団は他にもあると言われ、NPB復帰は可能な状況にはある。

「DeNA以外にもソフトバンク、オリックス、巨人などがいまだ興味を持っているという話は聞く。しかしグラウンド内外で劇薬になる可能性があるだけに、各球団は慎重な姿勢を保っている」(スポーツマーケティング会社関係者)

 今年1月には米海軍の男性が静岡県内で起こした死亡事故に関してのSNSでの投稿が物議を醸した。衝動的な言動が多いトラブルメーカーであることは間違いなく、NPB球団が獲得するには大きなリスクも同居する。

「SNSなどでの暴走はあるがファンやマスコミへの対応は良好。素晴らしい投手なので戦力になれるのも確実。もう1度NPBでプレーして欲しい気持ちを持っている人は多いはず。それがDeNAであれば文句なしなのですが……」(DeNA担当記者)

 今後は不透明な部分が多いが、韓国メディアが同国のプロ野球でプレーする可能性に言及するなど、様々な憶測も飛び交っている。だが、あくまで本人は米国でのプレーを希望しており、それが実現しなければ「気持ちが切れてしまって野球界から引退してしまうことも考えられる」(MLBアジア地区担当スカウト)という声も聞こえてくる。

 問題児であるのは日米で共通の認識であるが、一方で野球の能力や試合中のパフォーマンスなどファンに人気のある選手でもある。メジャーでのプレーが実現しなければ、また日本でプレーする姿を見たいというファンは多いはずだが……果たしてどうなるのだろうか。