女性との距離感がわからないという男子校の“弱点”は克服されるか。写真はイメージ(GettyImages)

 全国の高校の中で、男子校はわずか2%しかない。そのためか、男女差別的な世の中の空気をつくり出す諸悪の根源のようにいわれることもある。高い進学実績を誇る名門校であっても、男子校を出たばかりの学生たちには、女性との距離感がうまくつかめないところがあり、それが男子校のアキレス腱であることは明白だ。その弱点を補うべく、女子大や女子校の協力を得て、性やジェンダーについて学ぶ男子校がある。『男子校の性教育2.0』(中公新書ラクレ)を著した、おおたとしまさ氏が寄稿した。

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■甲南女子大生の助言を得る灘の生徒

 兵庫県の男子校「灘」では、近隣の甲南女子大の学生の協力を得て、月経や性的同意について学ぶ授業が行われていた。女子大学生の助言を得ながら、男子高校生たちがさまざまなケーススタディーに取り組む。

 授業後、灘生たちは下記のように感想を述べた。

「いつもは男子ノリで話すだけですが、今日はいろいろな意見を聞きながら話すことができました。知識としては知っていることもありましたが、男が頭の中で考えるだけではダメですよね。目の前に女性がいてくれることで、具体的な議論をすることができました」

「そもそもこのような知識が世の中に十分知られていないから、お互いにどこまでを前提にしていいのかわからずに、性のことや恋愛のことや生理のことなどを話題にしにくいのだと思います。このような知識をみんなが学んで、前提が共有できれば、性や恋愛のことももっと話しやすくなって、結果、みんなの不安も減らせるんじゃないかと思いました」

 以下は、甲南女子大生の感想だ。

「話すのをためらうんじゃないか?と心配でしたが、学ぼうとする意欲があるし、話もちゃんと聞いてくれました。少しでも知識がついたことで、彼らの将来に少しは役立てたかなと思います」

「男子目線でワーって言われるのかなと思ったら違いました。思っていた以上に、女性のことを考えてくれて、びっくりしました。ネットの中には男性の嫌なところや悪い面ばかりが書かれていて、私もそういうものなのかなと思っていたのですが、実際に触れてみて、そうではありませんでした。やっぱりネットの情報は偏っているんだなと感じました」

■昭和女子大生が駒場東邦の生徒にジェンダーの授業

 女子大と男子校の組み合わせとしては、東京都の「駒場東邦」と昭和女子大のコラボレーションも有名だ。2020年度に、当時の中1が中3になるまでの3年間にわたる継続的なコラボ企画が始まった。大学生がテーマを設定し、授業を進行する。

 中1のテーマは「ディズニープリンセスの変遷」「ファーストジェントルマン」。ディズニー映画に描かれる女性像の変遷を学んだり、自分が女性大統領の夫になったらどうするか?という思考実験を行ったりした。

 中2のときには、ユニバーサル・デザインやインクルーシブ教育の現状について学んだり、炎上したCMをいっしょに見ながら誰もが無意識のバイアスをもっていることを共有したりした。

 中3のときには、「歩み寄る」「男女別学」「仕事と役職」の3つのテーマについて、グループワークやディスカッションを行った。「仕事と役職」というテーマについては、「もし男子校の先生が全員女性だったら」という状況を設定し、女性に対してどのような配慮が必要か、そのような配慮を前提として、自分が経営者ならどんな制度を用意するかなどを考えた。

 駒場東邦での経験をふまえ、2023年秋には「本郷」と「獨協」(ともに東京都)という2つの男子校の希望者たちからなる合同チームを大学に招き、「無意識のバイアスについて考える」というテーマでアクティブラーニング型の授業を実施した。

桐朋の女子部と男子部が合同で行う家庭科授業(撮影/おおたとしまさ)

■桐朋学園の女子部と男子部が家庭科合同授業

 東京都の「桐朋学園」には、男子部と女子部の2つの中高一貫校がある。それぞれ別の場所にあり、普段は交流がない。しかし高2の家庭科においては年に1度、ジェンダーやパートナーシップについてともに学ぶ機会を設けている。このときだけ、桐朋が共学校になるというわけだ。

 女子部の生徒12人が男子部を訪れた。お迎えするのは男子部の希望者19人。男女混合班でのディスカッションでは、男子部の司会がためらいを見せる場面も。

「ねぇ、どうする? これ、爆弾だよね。爆弾はあとにしようか?」

 にわかにざわつく男子部生徒たち。女子部生徒はキョトン。

「じゃあ、行っちゃおう! 生理について聞いてもいいですか?」

 女子部生徒が落ち着いた様子で「それは私たちにとってはそんなに爆弾じゃないから、ぜんぜん大丈夫」と笑うと、男子部生徒たちはちょっと大げさに「ふーっ」と息をつく。

 その後、結婚相手に求めるものは外見か内面か、男性は女性におごるべきかについて議論したあと、「ねぇ、そろそろポッキー食べない?」と男子部生徒。何種類かのポッキーを開けて交換し合って、なんだかとても楽しそう。話題は、職場での男女平等をどう実現するか、へ。

男子部 世間では育児は女性の役割という思い込みが強いから、その目を気にするひともいるだろうね。

男子部 自分たちがこのままの気持ちで上の世代になったとき、変えられるかも。そしたら下の世代に育休とっていいよって言ってあげられる。

男子部 僕たち(男子部・女子部を含めた桐朋生)、まわりの目とか気にしないから。

女子部 うん、うん。

 終了時刻の2分前にピタッと議論を終え、「あぁ〜、面白かった!」と言いながら、全体会に向かった。意識の高い生徒たちが集まっているという前提ではあるがそれにしても、未来は少し明るいのかもと思わせてくれる爽やかなセッションだった。

品川女子の「CLAIR.」が獨協で行った出張授業(撮影/おおたとしまさ)

■品川女子の有志団体が男子校の獨協などで出張授業

 東京都の「品川女子学院」中等部・高等部(以下、品女)には「CLAIR.(クレア)」という有志団体がある。女性の生理についてのタブー視をなくすことで、最終的には性別を超えてお互いが尊重・理解できる社会を目指す団体だ。

 活動の一環として、男子校などへの出張授業を行っている。過去には「開成」「芝」「本郷」「攻玉社」(すべて東京都)での授業実績があり、今回、獨協での授業が実現した。

 最初の約30分間は品女生による講義。月経のメカニズムやそれにともなう心身不調への対処法を説明するだけでなく、なぜ女性の生理がこれまでタブー視されてきたのかについて、歴史的・文化的な考察がなされていることがユニークだ。

 さらに、生理で体調不良を訴えている女性に対してどう振る舞うべきかをケーススタディーするため、ロールプレイが行われた。講義で学んだことをヒントに、獨協生が即興の対応を求められる。

 終了後、獨協生たちが何かをつかめたような表情をしていたのが非常に印象的だった。女性の生理について、理屈だけでなく、実践のレベルで学べた手応えがあったのだろう。その自信がもてれば、さらに知識を得て、相手を理解しようという気持ちも強まるはずだ。

■弱点補強をアピールすべき

 拙著『男子校の性教育2.0』のために、全国の男子校を対象に行った独自アンケートの結果によれば、男子校であってもなんらかの形で他校の女子との交流をもっているケースは、いまではまったく珍しくないようだ。

 まず部活において女子校や共学校との合同練習のような機会は頻繁にある。また、生徒会や委員会活動でも昨今は学校の枠組みを超えた交流が盛んなようで、地域によっては、男子校・女子校・共学校を問わず、男女がともに活動するのが当たり前になっている。

 四六時中教室の中で同じ空気を吸うわけではないが、いまの時代、男子校であっても、同世代の女性とかかわりをもつ機会は、本人さえ手を伸ばせば届くところにあるのだ。

 男女共同での活動の目的が恋愛テクニックを磨くことでないのはいうまでもない。男女共同参画社会において肝心なのは、恋愛や結婚の対象ではないひとたちともそれぞれの違いを認めつつ対等な関係性を取り結べるかどうかである。

 その目的において、部活、生徒会、ボランティア、あるいはプロジェクト型学習などの機会に、普段は生活をともにしていない男女が“友達”とは違う適度な距離感を保ちながら協働して企画を推進する経験を積むことには、直接的な効果を期待できる。

 部活や生徒会活動は生徒主導で、プロジェクト型学習のような機会づくりについては学校主導で、ぜひ積極的に取り組んでほしい。いくつもの女子校と男子校が相互に協働学習するネットワークができれば、男子校のアキレス腱もだいぶ補強されるはずだ。

 昨今、首都圏の私立中高一貫校においては、大学との提携による高大接続や、企業との提携によるキャリア教育や、海外の学校との提携によるグローバル教育などがアピールされがちだが、もっと足元で、「女子校と男子校の提携」が盛んになり、学校選びの基準の一つとして注目されてもいいのではないだろうか。