都知事選に出馬表明をしている石丸伸二・前安芸高田市長

 日本維新の会は6月20日に告示が迫る東京都知事選に、自主投票で臨む方針を12日に発表した。独自候補を擁立できず、不戦敗となる。実は維新は、この決定をする前に、不戦敗を避けようと出馬予定の候補予定者たちに支援を呼び掛けて断られていた。

「維新? ないないない、絶対ない。無所属でいきますよ。いったい、誰がそんなこと言っているの?」

 6月8日、AERA dot.の直撃を笑い飛ばしたのは、広島県安芸高田市の前市長で東京都知事選への出馬を表明している、石丸伸二氏だ。

 石丸氏は5月17日に都知事選への出馬表明をした際の記者会見では、無所属で立つと表明しつつ、
「政党からの推薦ではなく、支持ならあっていいかもしれない。話をしている党もある」
 と述べていた。

 石丸氏は京都大学をへて三菱UFJ銀行に入行し、ニューヨークなどで働いた。2019年の参院選で起きた公職選挙法違反事件で、当時の安芸高田市長が現金を受け取ったとして辞職。この後継を選ぶ20年の市長選に前市長の継承を掲げる副市長が出馬するのを知って、「この人に任せちゃ安芸高田市は終わってしまう」と会社を辞め、出馬した。
 当選後は市の定例記者会見や市議会の様子を、自ら「炎上商法」と呼ぶSNSやYouTubeを駆使して発信し、市政に注目を集めた。同市の公式YouTubeチャンネルは登録者が激増。登録者は26万人超と、東京都も上回り、全国自治体トップになった。

 その発信力に目を付けたのだろう。維新内部で、「石丸氏を推薦してはどうかという話が出た」のだという。

 日本維新の会は、前回、2020年の都知事選では小野泰輔氏(現衆院議員)を擁立し、小池百合子知事の360万票には引き離されたが、アウェーの東京で約61万票を獲得し、それなりの存在感をみせた。

維新の馬場代表

■石丸氏は開口一番「推薦はいらない」

 維新幹部が内情を明かす。
「今回の都知事選では、小野氏ではなく東京選挙区の参院議員である音喜多駿・政調会長が候補にあがった。SNSでも、一時はやる気があるような投稿もして、記者会見前に冗談っぽく、『都知事選に出る音喜多です』と笑いをとっていた。が、本気で出る気はなかったようです。都知事選に誰かいないのかという話になったときに、石丸氏が出馬というニュースが流れた。安芸高田市を劇的に改革した石丸氏は、維新からみてもシンパシーがあり、政策も似ている。ぜひ、維新からどうかという話にはなった」

 そこで、維新は馬場伸幸代表と藤田文武幹事長、柳ヶ瀬裕文総務会長、音喜多氏と幹部がそろって石丸氏に会ったという。その様子を知る関係者が、こう話す。

「石丸氏は開口一番、『政党推薦はいらない』と藤田氏に言いました。藤田氏は都知事選なので、音喜多氏、柳ヶ瀬氏ら東京から選出されている人が決めるべきと対応を任せた。石丸氏も『維新と考えが共通する点はある』というので話を重ねたそうです。しかし、推薦はいらないと貫く石丸氏の前に維新が撃沈した格好になります」

 一方、維新の国会議員によると、こんな話がある。

「柳ヶ瀬氏は『オレから石丸に断ってやった』と触れて回っていた。けど、石丸氏から袖にされたことは、党内では有名。素直に断られたと認めればいいのですが、メンツが許さないのでしょう」

 それで、冒頭のように石丸氏を直撃して確認したのだが、

「私から維新にお願いしたことはまったくありません。それより有名な会社の創業者からご支援もいただけそうです」

 とのことだった。石丸氏の関係者に確認したところ、大手コーヒーチェーンの創業者が支援している模様だ。

 石丸氏に袖にされた維新が、最後にすがろうとしたのが小池知事だった。「大阪都構想」が霧散し、看板政策がない維新。今は来年春の大阪・関西万博を成功させることが「維新の手柄」という戦略だ。

3選を目指して都知事選出馬を表明した小池百合子知事

■小池氏には相手にされず

「小池知事に『万博に協力と選挙で言ってくれれば、維新が支援する』『歴史的和解はどうか』と打診しました。しかし、まったく相手にもされませんでした。小池知事は自ら選挙の情勢調査をして、蓮舫氏にかなりの差でリードしているという手ごたえをつかんでいた」(前出・維新の国会議員)

 そんな経緯を経て6月12日、馬場代表は、
「独自の候補者擁立は断念したい」
 と白旗をあげ、自主投票とすることが決まったのだ。

 自民党が4月の衆院3補選、5月の静岡知事選など、不戦敗も含めて選挙に負け続けていることが岸田政権を揺るがす事態になっているが、実は維新も選挙に負け続けている。

 衆院補選では候補を擁立した東京15区、長崎3区で敗退。馬場代表は、
「関西以外で勝つのは難しい」
 とコメントしたが、おひざ元の大阪でも、4月の大東市長選で擁立した候補が敗れた。大東市は藤田氏の地元でもあり、衝撃は大きい。

 関西でも勝てなくなってきた維新。さらなる迷走が続きそうだ。

(AERA dot.編集部・今西憲之)