ロッテの佐々木朗希

 交流戦で7勝9敗2分と負け越したロッテ。大きな痛手は佐々木朗希の戦線離脱だ。故障が多く、年間を通じてローテーションを守るのがまだ難しい。一方、佐々木朗といえば、メジャーを希望していることが報じられている。少し早いが、今オフでの動きや、球団の方針について探った。

 佐々木朗は開幕から先発ローテーションで投げていたが、5月28日に上半身の疲労回復の遅れにより登録抹消。約2週間ぶりに登板した6月8日の広島戦(マツダ)で6回3安打9奪三振1失点の好投を見せ、今季5勝目をマークしたが、13日に再び上半身のコンディション不良で戦列を離れた。1軍復帰のメドは現時点で不明だという。

■登板が計算できない投手はエースと呼べない

「投げる球は飛びぬけてすごいが、フィジカルはまだ発展途上です。出力に耐えられず体が悲鳴を上げてしまう。先発ローテーションで稼働している小島和哉、種市篤暉に比べると体の強さという点で見劣りする。厳しい言い方になるかもしれませんが、故障が多く登板が計算できない投手はエースとは呼べません」(スポーツ紙デスク)

 高卒3年目の2022年に20歳5カ月で史上最年少の完全試合を達成。プロ野球記録の13者連続三振を樹立した。直球は常時150キロ後半を計測し、落差の鋭いフォークは140キロを超える。スライダーも切れ味が鋭く、精度が年々上がっている。NPBでこれほどの才能を持った投手はいない。大谷翔平、山本由伸(ドジャース)を超える逸材であることは間違いないだろう。

 だが、プロ野球はシーズンを通したパフォーマンスで評価される。佐々木朗は入団以来4年間で規定投球回に到達したシーズンが1度もなく、2ケタ勝利もマークしていない。その原因は故障の多さだ。昨年も左脇腹肉離れで1カ月半離脱するなど、15試合登板にとどまり7勝4敗、防御率1.78。投球回数は91イニングにとどまった。

けがの心配はあるが、全力さが大きな魅力なのも佐々木朗希

 先発ローテーションで1年間通じて投げ抜く価値は、本人が一番分かっているだろう。今年は直球の球速を抑えて長いイニングを投げる投球スタイルにシフトしていた。メリハリをつけることは重要だが、制球が甘く入れば痛打を浴びるリスクが高まる。5月10日の日本ハム戦(エスコン)で6回途中8安打5失点と打ち込まれて2敗目を喫した。他球団のスコアラーはその後の投球で変化を感じたという。

「力を入れて投げる場面が増えましたよね。でも佐々木朗らしくていいと思いますよ。常に全力で投げれば消耗してしまうので強弱をつけることは大事ですが、力をセーブすることばかり考えると、出力が落ちる危険性がある」

 と指摘した上で続けた。

「力を入れて投げ続けると当然体に負荷がかかるのであちこち痛くなりますが、それでも投げ続けると力の抜きどころが分かってくる。肘、肩は消耗品ですし、時代遅れのやり方かもしれないですけど、今の投手は『違和感』という言葉ですぐにブレーキをかける。それでは投げるスタミナがつかないし、体が強くならない。佐々木朗の場合はコンディションが分からないので何とも言えませんけどね」

■ゴネ得は許されない

 気がかりなのは、周囲の視線が厳しくなっていることだ。昨オフにポスティング・システムでメジャー挑戦を希望していることが報じられ、春季キャンプ直前の1月末に契約を更改した。佐々木朗と球団が水面下でどのような交渉をしたのかは明らかになっていないため詳細は分からないが、他球団の編成担当は語気を強める。

「このタイミングでメジャーを希望しているとしたらあり得ないですよ。彼はロッテに恩返ししたと言える成績を残していない。FAと違い、ポスティング・システムは球団の容認を得られて初めて実現できるものです。“ゴネ得”が許されたら日本のプロ野球で悪しき前例となり、他の投手も要求してくる可能性がある。育ててくれたロッテに感謝の念を抱いているのなら、少なくとも3年は先発で活躍して、エースと呼ばれる実績を築いてから挑戦するべきです」

「令和の怪物」と称された右腕は異色の育成プログラムで土台を築いた。高卒1年目の20年は1、2軍で共に公式戦登板なし。1軍に1年間帯同して肉体強化を図った。その後も肉体強化に重点を置きながら、首脳陣は実戦登板で球数や投球回数に神経を使った。22年に完全試合を達成した次回登板でも「球界の宝を大事に育てる」方針はブレなかった。4月17日の日本ハム戦(ZOZOマリン)で、8回まで1人も走者を許さず、14奪三振無失点のパーフェクト投球。史上初となる「2試合連続完全試合」の期待がかかったが、0−0で迎えた9回のマウンドに上がらず。取材した記者はこう振り返る。

「何度もできる記録ではありません。一生に一度のチャンスだったかもしれません。ただ、故障のリスクを考えると首脳陣は続投させるべきではないと判断した。賛否両論の声が上がりましたが、間違っていなかったと思います。あの交代劇を見た時、批判されても佐々木朗を世界一の投手にしたいという球団の本気度を感じましたね」

完全試合の写真パネルにサインをする佐々木朗希=2022年12月、東京・日本橋

■実績を積み上げた大谷、山本らとは違う

 海の向こうに憧れの気持ちを抱くことは決して否定されることではない。昨年世界一に輝いたWBCで侍ジャパンの一員として戦ったことで、その思いが強くなったことが想像できる。だが、メジャーで活躍している大谷、山本、ダルビッシュ有(パドレス)、今永昇太(カブス)は日本球界で実績を積み上げ、チームへの貢献度が評価されてポスティング・システムでの挑戦が認められたという背景がある。

メジャーで対戦したダルビッシュ有と大谷翔平

 シーズンはもう少しで折り返しを迎えるが、佐々木朗は現時点で投球回数が59回2/3。今回の故障で長期離脱するようであれば、自身初となる規定投球回数のクリアは厳しい。それでも今オフにメジャー挑戦の意向を訴えるのだろうか。

 前出の他球団編成担当は懸念を口にする。

「気になるのは佐々木朗のモチベーションですね。メジャーにどうしても行きたい、それが叶わないときにロッテでプレーする熱い思いがあるのか。ロッテ側が1年間稼働してない投手をポスティング・システムでメジャーに送り出すことは考えにくい。今オフに球団と佐々木サイドの話し合いが平行線をたどるようだったら、チームの士気にも関わってくる」

 そうなった場合、どのような展開が考えらえるのか。

■糸井の電撃トレードの背景は球団の思惑

「国内他球団にトレード移籍という選択肢もゼロではないと思います。その場合は1、2年他球団でプレーしてメジャーに挑戦するというイメージですかね。佐々木朗を欲しくない球団はないでしょう。侍ジャパンに選ばれるような実力者と交換トレードが実現する可能性がある。もちろんロッテでプレーするのがベストでしょうけど、先が読めないですね」(前出・編成担当)

 脳裏に浮かぶのは13年1月に発表された電撃トレードだ。日本ハムの糸井嘉男、八木智哉と、オリックスの木佐貫洋、大引啓次、赤田将吾の交換トレードが成立した。「球界№1外野手」だった糸井がトレードで移籍した背景には、糸井が翌オフにポスティング・システムでメジャー移籍することを日本ハム側は認めない方針だった、と報じられた。

 糸井のケースと一概に比較できないが、佐々木朗はどのような野球人生を歩むのか。「ロッテの顔」として胸を誇れる成績を残してからメジャーに挑戦しても決して遅くはないと思うが…。

(今川秀悟)