床置きのモノが散乱しているリビング/ビフォー

 5000件に及ぶ片づけ相談の経験と心理学をもとに作り上げたオリジナルメソッドで、汚部屋に悩む女性たちの「片づけの習慣化」をサポートする西崎彩智(にしざき・さち)さん。募集のたびに満員御礼の講座「家庭力アッププロジェクト®」を主宰する彼女が、片づけられない女性たちのヨモヤマ話や奮闘記を交えながら、リバウンドしない片づけの考え方をお伝えします。

■case.74  片づけ方を知って激変した毎日 夫・子ども2人/教育関係

「“片づけで人生が変わった!”みたいな言葉って、ネット上によく出てきますよね。見るたびに、“はいはい”って思っていました。私はそこまで求めていないから、家の中がきれいにさえなればいいなーって」

 こう話すのは、夫と2人の子どもと暮らすママ・みかさん。

「実際に片づけると、片づけ以外でも“こうなったらいいな”と漠然と思い描いていた環境が、頑張らなくてもやってきたという感じ! こんなに変化があるものなんだと驚きました」

 みかさんに大きな変化が起こる前、家の中はモノであふれていました。

記憶の中の実家も、小さな頃からモノが散乱している状態。実家の近くにある祖母の家も散らかっていて、きれいな家で生活をしたことがないまま、みかさんは大人になりました。

 片づけたいという気持ちはあったものの、片づけ方を知らないのでどうしていいかわかりません。床置きされているモノをどかさないと、部屋のドアは開かない。取り込んだまま放置している洗濯物に汚れ物が混ざり、区別がつかなくなる。毎日がこんな感じでした。

「掃除をしようと思ったら、床にあるモノをテーブルに上げることから始まります。そうこうしている間にごはんの時間になってモノをまた床に戻す、ということのくり返しです」

 “子どもが幼稚園に通い始めるまで”と決めた片づけの期限は、“小学校に入学するまで”に延び、気づけば達成できないまま10年が経過。

モノでごちゃごちゃの家では、「友だちを家に呼びたい」「料理のお手伝いをしたい」という子どものささやかな願いも叶えてあげられません。

 みかさんが家の片づけについて調べていると、家庭力アッププロジェクト®が目に留まりました。人にお願いして片づけてもらうよりも、自分自身が学べるというプロジェクト内容に魅力を感じたのです。

床のモノがなくなって広く使えるようになりました/アフター

「他人に家の中をきれいにしてもらっても、きっと元に戻ってしまうと思ったんです。あと、片づけられない親に育てられると、子どもも片づけられなくなってしまう。子どもたちには私と同じ道を歩んでほしくなかったから、私が変わらないといけないと思って」

 こうしてみかさんは、家庭力アッププロジェクト®で家を片づけようと決めました。

 プロジェクトで学ぶうちに、片づけられない大きな原因はモノを手放す判断基準がなかったからだとわかります。

 例えば、子どもが赤ちゃんのときの洋服。

「もう着られないから手放そう。あ、でもリメイクすれば何かに使えるかもしれない。ぞうきんとか。いや、思い出もある洋服をぞうきんにするのも……」と、決断できないまま置きっぱなしになるというモノばかり。

はっきりとした基準をもとに“いる・いらない”を判断すれば、スムーズに手放すことができるようになりました。

小学5年生の娘にもコツを伝えると、自分でいらないモノを次々と手放すように。今まで片づけられないと思っていましたが、みかさんと同じようにやり方がわからないだけだったのです。

家の中から出た45リットルのゴミ袋は、合計でなんと65袋!

「娘も私もどんどん片づいていくことが楽しくなって、コミュニケーションも円滑になりました。反抗期だった娘は、片づけ終わる頃にそんな素振りをまったく見せなくなったんです」

 家が散らかっていたときは家事がしにくかったり、捜し物が多かったり、みかさんはいつもイライラしていました。娘は学校であったことなどをみかさんに話したかったのに、余裕のないみかさんはあまり聞いてあげられず、娘もイライラして反抗的な態度につながっていたのです。

 家が片づいてからは気持ちも時間も余裕ができて、娘の話をたくさん聞いてあげられるようになりました。

定位置のないモノをとりあえず詰め込んでいた納戸/ビフォー

 片づけによる変化は、息子にも起こります。

「息子は重度の知的障害があって、自分で片づけはできません。でも、学校ではリュックを自分の場所に置いたり、校内着に着替えたり、ルーティンはこなせると先生から聞いていました。家ではやらせたことがなかったんですが、片づけてから試してみたんです」

 モノの定位置を決めて、取り出しやすく、戻しやすい仕組みを作りました。すると、「脱いだ上着はどうするんだっけ?」と声をかけると、自分でハンガーにかけられるようになりました。

「お風呂から出た息子に“シャツを着てね”と言うと、引き出しから出せるようになったんです! 子どもたちのためにも、片づけてよかったと感じましたね」

 家がきれいになると、夫は「システマチックになって、きれいなままキープできているね」と暮らしやすさを喜んでくれました。さらに、夫も手放すことが苦手だったのに、自分のモノを“いる・いらない”で分けるようになりました。

「片づけで、自分の気持ちがこんなに変わるものかと思いました。家族へかける言葉も変わったし、家族からの言葉も素直に受け取れるし。なにより、スッキリした家だと毎日起きたときに気分がいいんです。“今日もいい一日になりそうだ!”って」

 こう話してくれるみかさんの笑顔はキラキラと輝いていました。

ストック品やかさばるモノなどを収納できる機能的な空間に/アフター

 自分の家が片づいたので、今後の目標は実家と祖母の家を片づけること。

「本人の意識が変わらないと家の中も変わらないということが、身をもってわかりました。私の経験を交えて片づけたら暮らしやすいこと、片づけは楽しいことを話しながら、ちょっとずつでも進めたいなと思います」

 近々、片づけの資格取得にもチャレンジするというみかさん。大人になるまで片づける習慣がなかったことを考えると、ものすごい変化ですよね。

 でも、この変化は魔法のように一瞬で起きたことではありません。毎日少しずつ努力したからこそ起きた小さな変化が積み重なったものです。みかさんが「変わりたい」と願ったように強い気持ちを持てば、誰にでもできると思います。