先日、病気が判明した日に救急外来で点滴をした時の写真です。この時点ではどんな病気なのか分からず、もしこのまま入院になったり、万が一命に関わる状態だったりしたら、介護が必要な長女はどうすれば良いのかということばかり考えていました(撮影/江利川ちひろ)

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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 つい最近、自分の身体に不調を感じ、受診したところ、ある病気が見つかり、夏に手術が必要になってしまいました。体調に不安を感じる時、自分の体以上に心配なのが、重症心身障害があり、さらに医療的ケアも必要な長女の預け先の確保です。幸い今回の病気は命には別状なく短期間で解決する予定ですが、この年齢になると「自分がいなくなった後のこと」を考えてしまうこともあります。

 今回は、障害のある子を育てる保護者が体調不良になった時のことについて書いてみようと思います。

■術後は長女を抱っこできない

 以前このコラムにも書きましたが、おととしのちょうど今頃、帯状疱疹が顔に出てしまい、10日間ほど入院したことがありました。この時はたまたま翌日から長女が大学病院でのレスパイト(介護の軽減を目的に利用できる短期入所)の予定が入っていたため、そのまま私の退院日まで数日延長してもらうことができ、夫が少し仕事の調整をしただけで乗り切れました。帯状疱疹の入院は決められた日数分の薬を点滴で入れることが目的だったので、退院日にはすでに完治し、翌日から長女のケアをすることができました。

 でも今回の入院は、術後の日常生活が1〜2カ月ほど制限されるようです。特に、「重いものを持つことは厳禁」と言われたのですが、今、私が持ち上げる一番重いものは長女なので、しばらく抱っこをしたりお風呂に入れたりすることができません。さすがに夫も1カ月も仕事を休むことはできず、いつも利用している大学病院のレスパイト以外でどんな支援を利用できるか考えることにしました。

■18歳の壁にぶちあたる

 まず思い浮かんだのは、制度を使った「措置(保護)」です。これは保護者が何らかの理由で養育ができなくなった場合に、児童相談所が窓口となって介入し、一時的に病院や施設で子どもを預かるというしくみです。以前、足が不自由な息子が足の手術をした時に、この制度を使って長女を4週間入院させてもらったことがありました。この時は入院先が当時レスパイトでお世話になっていた療育センターだったこともあり、安心してお願いすることができました。でも、長女は今年5月に18歳になったため、もう児童相談所を利用することができません。18歳のお誕生日が来ると担当窓口は児童相談所から市に替わるとのことだったので、どうすれば良いかを市役所の障害支援課に相談してみることにしました。ところが、5月に18歳になったばかりでまだ障害区分認定も決定されていない状態であることや、長女は夜間に人工呼吸器が必要なことなどから、「前例がない」「情報がない」「担当者がいない」と言われてしまい、有益な情報を得ることができませんでした。ここにも18歳の壁と言われる移行期の問題があることを知りました。無駄と分かっていながらも児童相談所にTELをしてみましたが、やはり「市の障害支援課に相談してください」とのことで、支援先につながることはできませんでした。

■大学病院と国立病院をはしご

 いつも利用している大学病院のソーシャルワーカーさんに相談すると、すぐに動いてくださいました。大学病院での通常のレスパイト利用は約1週間ですが、他にどこにも受け入れ先がないことから、普段より少し長めにレスパイト入院できるように病棟と調整してくださるとのことです。そして、自宅から車で2時間ほど離れた場所にある国立病院の在宅支援部ともつながることができました。 

 この病院は、長女が特別支援学校を卒業する今年度いっぱいで大学病院のレスパイトが利用できなくなることを見越して、4年前に登録をしたところです。これまで国立病院のレスパイトについては、大学病院のレスパイトがコンスタントに利用できていることと、自宅から遠いことから、まったく利用していませんでしたが、改めて診療情報提供書を郵送して現状を相談したところ、国立病院のソーシャルワーカーさんと小児科のドクターが前向きに検討してくださり、急遽、「来月の平日に2泊のお試し入院を経て、受け入れ可能」というお返事をいただき、大学病院のレスパイト期間が終わったら、続けて国立病院でのレスパイトを利用することになりました。

 大学病院は「医療証」、国立病院は「障害福祉サービス受給者証」を使ってレスパイト入院をする予定です。それぞれ使う制度が違うため、組み合わせて利用することが可能となり、約1カ月は安心して長女をお願いすることができそうです。

■親自身が調整する厳しさ

 私はたまたま医療ソーシャルワーカーでもあったので、自分で考えて動き、支援につながることができましたが、保護者が制度や病院の情報集めの段階からひとりで調整するのはかなり厳しいと思います。それでも現実は、ほとんどの場合、自力で動くしかありません。

 医療的ケアが必要な子どもは増加傾向であり、さらに18歳を超えて生きることが珍しくなくなりました。安心して子どもを育てたいという願いは、障害の有無に関わらず叶えられてほしいと思います。「保護者の万が一」を支える切れ目のない支援体制づくりは喫緊の課題です。

※AERAオンライン限定記事