「ポスタージャック」された都知事選の掲示板。画像を一部加工しています(撮影/板垣聡旨)

 6月20日に告示された東京都知事選は候補者の「選挙ポスター」が物議をかもしている。ほぼ全裸の写真や風俗店のポスターが貼られ、一部候補者や政治団体が警視庁から警告を受ける事態に発展した。さらに、ある政治団体は候補者を乱立させ、そのポスター枠を事実上「販売」していることも波紋を広げている。“売名”など本来の目的とは異なる形で掲示板が利用されており、対策を求める声も出ている。では、ポスター枠を“買う”側は世間からの批判に何を思うのか。「55万円」でポスター枠を買った男性に取材した。

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「掲示板ジャックに参加したのは、都知事選の判断材料として有権者の皆さまに私個人の主張を伝えるためです。マスメディアの情報はどうしても偏りがちですし、(公の場で)一個人の意見が取り上げてもらえる場は限られています。こうして名もない一個人が主張できる機会を得られたので、私はお金を払ってポスターを出したのです」

 こう語るのは、愛知県に住む50代の男性。候補者を擁立する政治団体に“経費”を払い、自身が作成したポスターを都内36カ所に掲示した。ポスターには、赤ちゃんが怒っている様子が写っており、「ダメ!一極集中。投票に行こう。東京を住みよい街に」というフレーズが記載されている。

「これは私の生後8カ月になる息子です。未来の子どもたちのためにも投票して(暮らしを)改善していこうというのが私の主張ですので、子どもたちの未来のために投票に行ってほしいという気持ちを込めて、わが子の写真を使いました」

ポスターに掲載されているQRコードを読み取るとこのLINEアカウントに誘導される

■自らは立候補はしない理由

 だが、道理としては、自らが都知事選に立候補して堂々と有権者に政策を訴えればいいはずだが、男性はなぜそれをしないのか。

「私が立候補すればいい、考える人はそういないのではと思います。人には能力がありますし、分相応ということもあります。私は緊張しやすいですし、人前でうまく喋れるタイプではありません。都民だったとしても立候補など全く考えられません」

 では、実子の写真を使ってまで男性が有権者に知ってほしいという主張は何か。

「経済停滞、待機児童や出生率低下など多くの問題が東京一極集中に起因しています。それらを解消し、子どもたちの生活しやすい東京をつくってほしい。電車では通勤ラッシュで押しつぶされても我慢して、車でも渋滞していて時間に間に合わずイライラが募ります。高いビルや地面のアスファルトなど、街全体がコンクリートに囲まれていて熱がこもっています。車もエアコンも熱を放出し続けています。また、災害被害も人が多くなるほど甚大になり、大災害で救急車が出払ったら、人の命は救えません。大勢の人が混乱した状態では逃げ場もふさがれるでしょう。地価高騰で都心の新築マンションは1億円以上出さないと買えなくなっています。家賃も高く、ウナギの寝床みたいなところに住めば、閉塞(へいそく)感や圧迫感のある生活になってしまいます。これらを改善するには、東京一極集中を解消するしかありません」

都庁内にある選挙管理委員会事務局(撮影/板垣聡旨)

■都の選管は「前代未聞の事例」

 男性がポスターを掲示するためにかかった費用は55万4040円。内訳は、①ポスターを1カ所貼るのに1万円の寄付(=36カ所のため、計36万円)、②貼り出しの作業代が税込みで1カ所3300円(=36カ所のため、計11万8800円)、③ポスター900枚の印刷代に7万5240円、だった。男性は「今後はポスタージャックはできなくなるかもしれない。1回だけのチャンスと考え、今回はできる限りの出費をしました」と話した。

 都選管によると、6月21日(告示日の翌日)までに、選挙ポスターについての苦情が1200件以上寄せられたという。選挙ポスターの意義を問うものが多く、全裸写真ポスターなどについては「ポスターをはがせ」などの意見もあったという。都の関係者は「今も選管は電話が鳴りやまない。他部署から選管に電話してもつながらないことがある」と打ち明ける。

 男性が加担した“ポスタージャック”についても苦情はあるのか。担当者は、「前代未聞の事例です」と述べたうえで、「公職選挙法違反があれば、警察が対応します」とだけ答えた。苦情件数については「まだ集計が出ていないのでわからない」とのことだった。

 一部のポスターが警視庁から警告を受けていることについて、男性は「公序良俗に反しない、誹謗(ひぼう)中傷をしない、事実と異なることを示さないなどのルールは守られるべきだ」とした上でこう答えた。

「ポスター枠は候補者に使用の権利が与えられている以上は、ルールの範囲内であれば候補者の自由に使わせてあげればいいのでは。候補者が自らの意思で使わない自由も尊重するべきかと思います」

 都知事選の選挙ポスターをめぐっては、よく「表現の自由」「選挙活動の自由」がうたわれるが、それが本当の意味で「自由」を守ることにつながるのか、われわれはよく考えるべきだろう。

(AERA dot.編集部・板垣聡旨)