レッドソックスの吉田正尚(USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 大谷翔平(ドジャース)の活躍が、日本のメディアで連日報じられている一方、他の日本人野手は苦戦している。

 吉田正尚(レッドソックス)はチームが83試合を消化した時点で38試合のみの出場。打率.246、2本塁打、13打点(数字は7月2日現在)。メジャー挑戦1年目の昨季は140試合出場で打率.289、15本塁打、72打点をマークしたが、今年は成績が著しく落ちている。オリックス時代は首位打者を2度獲得するなど通算打率.327をマーク。22年オフにレッドソックスと5年契約を結び期待が大きかったが、今季はレギュラーをつかめていない。米国で取材する通信員はその理由をこう語る。

「メジャーは守備位置と打力の相互関係が重視されます。吉田は安打を打つ能力が高いですが、左翼の守備範囲が広いとは言えず肩も強くない。指名打者で起用するにしては長打力に物足りなさが残る。そもそも、オリックス時代は30本塁打に到達したシーズンがなく、長距離砲ではありません。今年は長打を増やす狙いなのか強引な打撃が目立ち、広角に打ち分ける本来の打撃が影を潜めている。レッドソックスがア・リーグ東地区で優勝争いから脱落するようだと、来季以降の立て直しに向けてトレード要員として放出される可能性があります」

 大谷と同学年で、吉田と同様にNPBを代表する強打者として活躍した鈴木誠也(カブス)は評価が難しい。昨年は138試合出場で打率.285、20本塁打、74打点をマーク。日本人の右打者がメジャーで20本塁打に到達したのは初の快挙だった。今季はさらなる活躍が飛躍され、春先は打撃好調だったが4月中旬に右わき腹を痛めて戦線離脱。約1カ月後に復帰したが好不調の波が激しく、59試合出場で打率.258、10本塁打、31打点は満足できる数字ではない。

「ケガは不可抗力なので致し方ない部分があり、シーズンを完走すればそれなりの成績は残せると思います。打率3割、30本塁打はハードルが高いですが、目指してほしい。大谷を除いた日本人野手の中で、長打力とミート能力を兼ね備えたトップ選手です。鈴木が結果を残せないようだと、日本人野手は厳しくなる」

カブスの鈴木誠也

■ゴジラ松井もメジャーでは中距離打者に

 日本球界から強打者、巧打者が多く海を渡ったが、成功したと言える選手はそれほどいない。

 ヤンキースで松井秀喜を取材した番記者は、「彼はクラッチヒッターとして本当に勝負強かった。イチローと松井は印象に残っている日本人選手だ。あとマリナーズでプレーした城島健司もいい捕手だったね」と振り返る。

 日本球界で長距離砲として活躍した松井も中距離打者にシフトした。松井だけではない。岩村明憲(レイズなど)、井口資仁(ホワイトソックスなど)も長打に固執せず、打線の「つなぎ役」として首脳陣の信頼を勝ち取った歴史がある。

 日本とプレーしている時とスタイルを変えず、米国でもスラッガーとして活躍している選手は大谷ぐらいだろう。今年のシーズン途中にDeNAに復帰した長距離砲の筒香嘉智もメジャー3年で通算.197、18本塁打、75打点と思い描いた活躍ができなかった。ではコンタクト能力に活路を見出した方がいいかというと、それほど簡単な話ではない。

「イチローのようにメジャーで前人未到の10年連続200安打を打つ選手は別枠ですが、一塁、三塁、外野の両翼を守る選手はある程度の長打力が求められます。二遊間は守備力が重視されますが、このポジションで日本人選手がレギュラーを勝ち取るのは非常に難しい。中南米系の選手は身体能力が高く、どんな体勢からも力強い送球ができる。松井稼頭央、西岡剛と日本の名ショートたちがメジャーに挑戦しましたが守備で通用しなかった。侍ジャパンは昨年のWBCで世界一に輝きましたが、野手としてメジャーで通用する日本人選手はまだまだ出てこないのが現実です」

 NPBで現在プレーする選手の中で、メジャーに最も近いと評されているのが村上宗隆(ヤクルト)と岡本和真(巨人)だ。

令和の三冠王、ヤクルトの村上

■「村上、岡本はメジャーで30本打てるか?」

 村上は22年に日本記録の56本塁打を樹立。打率.318、134打点で令和初の三冠王を獲得した。昨年も春先は打撃不振に苦しんだが、3年連続30本塁打をマーク。今年5月には史上最年少での通算200号本塁打を達成した。岡本は巨人の4番を務め、18年から6年連続30本塁打をマーク。昨年は自己最多の41本塁打で、3度目の本塁打王のタイトルを獲得した。

 村上は3年契約が切れる25年オフにポスティング・システムでメジャーに挑戦する可能性が高い。岡本も巨人がリーグ優勝を飾れば、夢が叶えられるかもしれない。

 ただ、メジャーの代理人はシビアな見方を示す。

「村上、岡本は強打者だが、メジャーで30本塁打を打てるかというとクエスチョンマークがつく。村上は三塁の守備に問題を抱えている。指名打者での起用でスランプが長いようだとスタメンは厳しくなる。岡本も鈴木誠也と比べると見劣りする。複数の守備位置を守れるのは魅力的ですけどね。個人的には近藤健介(ソフトバンク)が日本で№1の野手だと思います。メジャーでも初対戦の投手に対応できる打撃技術を持っている。FA移籍したソフトバンクと長期契約を結び、30歳という年齢を考えるとメジャーに挑戦するのは現実的ではないですけどね」

メジャーからも評価されるロッテの佐々木朗希

■「草刈り場」なのは投手だけ

 そしてこう続ける。

「メジャーのある球団の編成担当には『日本人の野手はいらない。投手が欲しい』と言われました。日本人投手はメジャーの各球団で需要が高い。平良海馬(西武)、宮城大弥(オリックス)、戸郷翔征(巨人)、森下暢仁(広島)、伊藤大海(日本ハム)、高橋宏斗(中日)……。彼らは投球のクオリティーが非常に高い。ケガが多いが、佐々木朗希(ロッテ)も規格外の投手です。先発陣の駒不足に悩む球団が多いので米国に来るなら争奪戦になることは間違いないでしょう」

 NPBがメジャーの「草刈り場」になると懸念されているが、もっぱら投手の話。野手に当てはまるとは言えないようだ。

(今川秀悟)