総務省の処分でふるさと納税制度から除外され、謝罪する洲本市の上崎勝則市長(中央)ら(2022年4月)

〈2021 ふるさと洲本応援商品券(10枚綴り)【重要印刷物】〉
 というステッカーが貼られた箱が積み上げられている写真がある。

 兵庫県・淡路島の洲本市役所の職員がこう危惧する。

「商品券の箱は以前、市役所の南庁舎1階という人気のないところにおいてあり、写真はそのときのものだと思う。それが(ネットメディアの報道で)バレて騒ぎになり、最近、別の場所に移動させた。今は入り口にカギがかかっているが、万全のセキュリティーではない。億単位の商品券なので、これが表に出れば大変だ」

■温泉券問題でふるさと納税から除外処分

 洲本市といえば、2年前からふるさと納税の返礼品の問題が噴出している。

 市がふるさと納税で受け入れた寄付額は2020年度で約54億円(全国8位)、21年度は約78億円(全国7位)と全国でもトップクラスだった。特に人気の返礼品が市内の旅館で使える「温泉利用券」だったが、10万円の寄付で5万円の温泉利用券がもらえるなど、「返礼品の調達にかかる費用は寄付額の3割以下」とする国のルールを超えていることが問題となり、総務省は22年4月、洲本市をふるさと納税制度から除外(同年5月から2年間)する処分を決めた。

 市は、その後、9月に弁護士らによる第三者委員会を設置して事実関係の究明を進めるとともに、市議会も23年10月に調査特別委員会(百条委員会)を設置し、ルール違反があった事務処理について調査を進めている。調査のなかで、温泉利用券とともに、冒頭に書いた商品券が市から発行され、返礼品などに使われるとともに、ずさんな管理をされていたことが問題となった。

 洲本市は、コロナ禍の経済・生活支援策として、2020年に市内全世帯に1万5千円分の商品券を配布し、21年にも全世帯に2万円分の商品券を配布した。商品券は3種類あり、A券はスーパーやコンビニ、大手量販店向け、B券は地元商店向け、C券は飲食店などサービス業とされていた。それにヒントを得て、洲本市民に限定しない商品券を発行し、返礼品の「おまけ」としても使用されるようになっていた。

山積みになった商品券が入った段ボール

■商品券に使用期限の記載なし

 商品券は2020年には41万枚(1枚1000円、4億1千万円相当)、2021年は66万枚(6億6千万円相当)が印刷された。そのうち換金実績で2020年は約32万枚、2021年は約46万枚が使用された。2020年は約9万枚、2021年は約20万枚、あわせて約2億9千万円相当が、配布されて未使用のままか、配布されずに余っている計算になる。

 段ボールで山積みされている2021年発行の「ふるさと洲本応援商品券」を見ると、シリアルナンバー(通し番号)はない。「2021年」という表記はあるものの、使用期限も書かれていないため、いまでも使えるように見える。

商品券には使用期限が書かれていない

 洲本市に商品券の管理状況について聞いた。

「市では、2020年の商品券は1万5549枚をカギ付きのロッカーで保管しています。券面に2020年などの日付、有効期限がなく、今も使用できると思われかねない状況。2021年の商品券については、段ボール箱で大量に山積みにしているのは事実。こちらは商品券に『2021年』と大きく印刷してあるので、もう使用も換金もできないと市では理解しており、ただの紙です。いずれかの時期に処分します」

 しかし、市議会で商品券の問題を追及している生田進三市議はこう指摘する。

「商品券に有効期限は印刷されていません。券面に、年の記載があるなしで使用可能、不可能という洲本市の独自の解釈が本当に通用するのか疑問だ。まだ市中に出回っている商品券はあり、ふるさと納税のおまけでも広くわたっている。コロナ禍もあって、商品券を使うにも使えなかったという人がかなりいるはず。洲本市が使えないと抗弁しても、無理がある」

返礼品の「3割ルール」を超えて問題となった温泉利用券

■元課長が商品券を持ち出しパソコン購入

 また、商品券を見ると、発行者として「洲本市」ではなく、「洲本市魅力創生課」と記され、役所のひとつの課が発行しているように見える。

 実際、この魅力創生課のS元課長(23年3月で退職)が、商品券を私的に流用していたことが発覚している。
第三者委員会や市議会の調査で、S元課長が、あわせて104万円相当の商品券を持ち出し、パソコンとプリンターを市内の事務用品店で買っていたことが明らかになった。これ以外にも、S元課長が、商品券でパソコン2台を買ったことや、イベントでの食事代や民間企業のために消耗品を購入していた疑惑も浮上している。

 これについて市は、
「管理がずさんだったことは、その通りです」
 と認める。商品券を私的に使った疑いがあるS元課長は、市民から兵庫県警に刑事告発された。

■温泉利用券の「使途不明」も発覚

 一方、洲本市がふるさと納税から除外される理由となった温泉利用券でも、さらなる問題が明らかになってきた。

 温泉利用券はふるさと納税の返礼品の目的で発行されていたが、6月24日の市議会で、1万円券が1万600枚、5千円券が205枚、印刷されたが発行されずに「使途不明」になっていることが、生田市議の質問で明らかになった。総額で、1億702万5千円相当となる。

 温泉利用券を見ると、1枚ごとにシリアルナンバーが打たれ、使用期限は令和7年9月末までとあり「転売禁止」と印刷されている。

 だが、メルカリやヤフーオークションなどのサイトを見ると、洲本市の温泉利用券が多数、出品されていることが確認できる。たとえば、
〈洲本温泉利用券 1万円分×35枚(35万円分)〉
 が出品され、すでに落札されていた。

 また、今年1月には、温泉利用券の「偽造品」が発覚し、洲本市もホームページなどで注意喚起している。

 洲本市によれば、
「温泉利用券は一度、同じものを印刷し直したことがあり、それが使途不明となっていると思われます。ただ、いつどのシリアルナンバーのものが何枚、再印刷となったのかは記録がなくわからない。使途不明のものが持ち出されて、転売となっているのかどうかもよくわかりません。偽造品があることは確認して、警察に相談している」
 という。

ふるさと納税制度への復帰時期が見えない洲本市

■「原資は税金なのに…」

 この問題を追及してきた生田市議が憤る。

「10万円をふるさと納税として寄附すると、1万円券の温泉利用券5枚、つまり5万円分の金券が返礼品としてもらえた。そこに『おまけ』として洋菓子やコーヒー、さらに商品券までつけていた。総務省基準の30%ルールをはるかにオーバーしているのははっきりしており、洲本市のずさんさがよくわかる。返礼品という名目なら市議会の同意やチェックもなく、温泉利用券や商品券がふるさと納税担当の魅力創生課の判断でいくらでも印刷ができた。それを容認してきた市の幹部にも大きな責任がある。温泉利用券は、現在もオークションサイトなどで出品されている。商品券も少し前までは出品されていた。出品は数万円というものもあり、かなりの金額なので、温泉利用券、商品券とも使途不明の分が流れているのではないか。どちらも原資は税金なのに、市は調査すらできないという。あきれるばかりだ」

 総務省の処分期間の「2年」は今年4月末で終了したが、まだ市では調査が続いており、ふるさと納税制度への復帰時期は未定だ。だが、前出の市職員はこう話す。

「商品券、温泉利用券だけでも問題ばかりある。それなのに、『2年が過ぎたのでふるさと納税に復帰すべき』という市幹部や市議がいます。今も百条委員会が継続していて、まだ問題点がはっきりしていないのに、いったいうちの市役所はどうなっているのやら」

(AERA dot.編集部・今西憲之)