中学受験は「親に勝手に決められた」と言われて悩む小6男子の母に、プロが読み解く子どもの心理とは

AERA DIGITAL6/16(月)16:30

(写真はイメージ/GettyImages)

「詰め込み」「偏差値」というイメージが強い中学受験。「受験のための勉強は子どもの将来に役に立つの?」「難易度より、子どもを伸ばしてくれる学校を選びたい」といった悩みを抱えている親御さんも増えています。思い切って「偏差値」というものさしから一度離れて、中学受験を考えてみては――。こう提案するのは、探究学習の第一人者である矢萩邦彦さんと、「きょうこ先生」としておなじみのプロ家庭教師・安浪京子さん。連載「偏差値にとらわれない中学受験相談室」、今回は、中学受験を「勝手に決められた」と子どもに言われて困惑しているお母さんからの相談です。

安浪:小6になって急に「勝手に決められた」って言われると、お母さんとしては戸惑いますよね。

矢萩:小6でそういうことを言い出す子、実は多いんですよ。「今さら?」と思うかもしれないけれど、精神的に大人に近づいてくるのが小6あたりなんです。特に男子はこの頃にようやく成長が追いついてきて、自分の状況をちょっと俯瞰して見られるようになってくる。だから、今の状態に対して違和感を持ったり、「このままじゃ厳しいかも」と見通しを立てたりするようになる。

安浪:それはありますね。あと6年になると勉強もハードになってくるし、お住まいが兵庫とあるので、地域特性もあると思います。やはり関西の塾は6年になるとどんどん追い込んでいくので。今までは楽しくやっていたかもしれないけれど、想定と違うしんどさが出てきたんだと思います。

■子ども扱いをやめ、腹を割って話す

矢萩:だからこのタイミングでは、子ども扱いをやめて、一度ちゃんと腹を割って話してみることが大切だと思います。これまでは主体性がないんじゃなくて、親の期待に応えようとしてきたんだと思います。小学生って、やっぱり「親にいい子だと思ってもらいたい」っていう気持ちが強いですから。でも、成長してきて、その「いい子であろうとする自分」に違和感を持ち始めた。これは成長の証です。つまり、自分が本当にやりたいことや、自分らしいやり方というのが他にあるんじゃないかって、ようやく感じ始めているんですね。

安浪: 指導先のご家庭で親御さんがこうやって言っていたら、私はまず本人と話しますね。「勝手に決められたって思ってるんだね」といったん受け止めてあげて、「でも、受験はしたいの?」って聞いてみる。そこから、「なんで受験したいの?」と対話を広げていく。やっぱり親に決められたって思っているうちは踏ん張れないし、頑張れないんですよ。

矢萩:その通りですね。今こそ受験の目的だとか、あなたにとってどんな意味があるのかとか、そういうことを一緒に再確認をしてみるべきです。もちろんその結果やっぱり受験はやめましょうってなるのも織り込み済みで。親が誘導しようとしたらダメです。6年のこの時期になると、合格するための戦略みたいな会話にすぐ行きがちなんですが、そうじゃなくて双方が納得できる目標設定をすることが大事だと思うんです。どういう学び方をするのが自分らしくいられるのか。自分らしくいながら成長していくためにはどうしたらいいだろうね、みたいなことです。

矢萩邦彦さん

安浪:「親に勝手に決められた」と言いながらも、なぜ引き続き受験したいと思うのか、わからないわけじゃないんですよね。子どもなりに損切りができないってのもあるだろうし、今まで親に刷り込まれた中学受験に対する何らかの価値を自分の中で持っているのかもしれないし。

矢萩:そう、今まではそういう対話ができてなかったっていう話だと思うんですよね。たまたま受験しましょうよっていう母の意見と、本人の受験するという意見が同じほうを向いていただけで。さんざん話し合ったと書いてありますが、本当に細部まで具体的に話し合ったのか、ちゃんと対話になっていたのかは、怪しいんじゃないかなと思います。

安浪: このお子さんはけっこう上位層にいるのかな、って思うんです。今までは親の言う通りに振る舞えるし、勉強もそれなりに楽しくて、やったらやった分結果が出ていた。つまり、成熟度が高くて、塾の勉強についていけていたのかな、と。でも今、はじめて壁にぶつかって戸惑っている部分もあるんだと思います。本当に嫌なら、「受験はする」なんて言わないし、何かもうちょっと違う形でSOSというか、行動が出てくると思うんですよね。

■「受験はするみたい」の背景を言語化して

矢萩:大事なのは、いま「受験はするみたい」という曖昧な言葉の背景にある感情や状況を、親子でもう少し具体的に言葉にしていくこと。どうして「みたい」なのか。どういうときに「やらない」という選択肢が出てくるのか。たとえば「この教科が苦手でつまずいている」とか「勉強が面白くなくなってきた」とか。4科目受験が厳しそう、と思っている可能性もある。そのあたりを明確にしないと、親としてもどうフォローしたらいいのかわからないと思うんです。

安浪:そうですね。今まではある程度、順調に来ていたのかもしれないけれど、ここに来て「これまでのやり方じゃうまくいかない」と感じている。そして、ちょっと逃げたくなっている。でも、それこそが「受験生らしさ」でもあると思うんです。だから「やっと本当の意味で受験という土俵に上がったね」って、笑いながら話し合ってもいいぐらいですよ。

安浪京子さん

■「ごちゃごちゃ言い始めること」は成長のサイン

矢萩:改めてこのご質問を読むと、「親の言うとおりにしてほしかった」のかもしれない。本人も納得していたはずなのに、今になって「ごちゃごちゃ言い始めてる」感じがしている。でも、その“ごちゃごちゃ”こそが成長のサインでもあるんですよ。ただ、お母さんの語り口からは、「もういいから、やるならしっかりやって」というニュアンスも感じられる。「受験はするみたいなんですけど…」という表現に、ちょっとした自嘲が含まれているような。

安浪:それ、ありますね。本人も「やると言わざるを得ない雰囲気」で育ってきた可能性もある。親の期待に応えようとして、ここまで来てしまった。だからこそ今、話し合うことが大事ですね。

矢萩:あなたの意見と私の意見を今の段階で、最新のものにアップデートしましょうよ、と言った感覚ですね。

安浪: 場合によっては、塾の先生に間に入ってもらうのが効果的かもしれませんね。子どもって親には言えないことも、先生には話せるということがよくあります。ずっと一緒に頑張ってきた塾の先生ならば、自分の現在の状況を客観的に見て話してくれるはずです。信頼できる先生に今の様子を伝えて、本人としっかり話してもらう。そこから親子の対話もうまくいくケースも多いと思います。

(構成/教育エディター・江口祐子)

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