「汚ねぇんだよ!」梅雨時に電車内で起こる“傘ツンツン”トラブル なぜ当事者は傘が当たっていることに気づかないのか?

AERA DIGITAL6/15(日)10:30

雨に濡れた傘の先端、周囲の人にツンツン当たっていることに気がついている!? 画像はイメージ(PIXTA)

気象庁は10日、関東甲信と北陸地方が「梅雨入りしたとみられる」と発表した。これから傘が手放せない時期になるが、「傘のトラブル」で多いのが電車の中。満員電車で他人の傘先がツンツンあたって嫌な思いをしたことはないだろうか? ジメジメしてただでさえ憂うつな季節ゆえ、傘先ツンツンが発端で乗客同士がケンカになることも。なぜ傘を持っている人は他人に当たっていることに気がつかないのか。実際の事例と専門家の見解を取材した。

*  *  *

 そのトラブルは都営地下鉄大江戸線の中で起きた。

 午前9時過ぎ。身動きが取れないほどではないが混雑した車内で、座席に座るスーツ姿の男性(推定60代)の前に20代と見られる女性が立っていた。男性は不快そうな表情でチラチラと女性を見ていたが、どうやら女性の肘にかけた傘が、その男性のひざ下あたりにツンツン当たっているようだ。

 電車の揺れや女性が体を少し動かすたびに、ツン、ツン、ツン。そしてついに……。

「汚ねぇんだよ! 当たってんだよ!」 

 突然、男性の大きな声が響き渡った。水と打ったようにシーンとなる車内。しかし、傘先でツンツンしていた女性はイヤホンをしてスマホの動画に集中しており、男性の怒りには気づいていない。

 業を煮やした男性は、女性の傘先をどかすように傘を軽くつま先で蹴った。

 そこでやっと女性はスマホから顔を上げ、“え? 私!?”という表情。自分の傘先が男性にずっと当たっていたとは思っていなかったようで、むしろ“ヤバ!、この男”という顔をしながら、次に停車した駅で降りていった。その駅が女性の目的地だったかわからないが、傘ツンツンを謝ることなく、逃げるように去っていった……。

■傘が長靴にブスッと刺さった人も

 もちろん、怒鳴った男性に対して「それほどのことか」という批判はあるかもしれない。ただ実際、電車内での傘の扱いにイライラしている人は多いようだ。取材を進めると、ツンツンどころか長靴に傘をズブッと突き刺された人もいた。

スマホを操作していると、傘は肘にかけてしまいがち。そうすると傘先はハの字に開き、周囲に傘先が向く。(写真はイメージ/GettyImages)

「仕事帰りの夕方の電車で、斜め後ろに立っていた男性の傘が私のふくらはぎに当たっていました。最初は“混んでる時はお互いさま”という気持ちで我慢していたんですが、ツンツンあたる傘先から水滴がスーッとふくらはぎをつたって落ちてきました。『ああ〜、気持ち悪いなあ』と思いながらも耐えていたんですが……電車が揺れた瞬間、ツンツンしていた傘先が私の長靴の中にブスッ! ショート丈の長靴に傘が入ってきて、とっさに振り向いて“オイ!”と男性に言ってしまいました」(40代、女性)

 他にも、電車内で他人の傘が当たり不快に感じている人の声は次々と出てくる。

「たくさんの紙袋を腕にかけ、その上に雨にぬれた傘を肘にかけて、隣の車両に移動するために歩いている女性がいました。その傘先が、座席に座っていた私が手に持っていた文庫本にツンと当たりました。パッと顔を上げましたが、その車両の他の乗客にもツンツン当てていっていました。みんなイラっとしてましたね」(50代、男性)

「傘の先端は汚いわけじゃないかもしれないけど、地面につけているものが服やからだに当たるのは嫌。だけど、注意はできないから、傘先をツンツンしている人をにらんだりする」(20代、女性)

 持ち方によって、傘や水滴が他人に触れていることに気づいていない人が数多くいるのだろう。

■問題視された傘の「横持ち」

 かつて傘の持ち方で問題視されたのは「横持ち」だ。傘の真ん中あたりを手で持つ「横持ち」は、2020年にある眼科医が、目に傘先があたった場合、視力を失うこともあるかもしれないのでやめてほしいとTwitter(現在のX)でつぶやき、バズったこともある。「横持ち」はたしかに危険が伴うが、「傘先ツンツン」は、イライラ以上トラブル未満といったところか。

 傘ツンツンに私たちがイライラしてしまう心理について、パフォーマンス心理学の第一人者である佐藤綾子さんは「電車内では理想とする対人距離の理想を保てないことが原因」と話す。

 対人距離とはパーソナルスペースと言われ、アメリカの文化人類学のエドワード・ホールが、「密接距離」(0〜45cm)、「個体距離」(45〜120cm)、「社会距離」(120〜360cm)、「公衆距離」(360cm以上)と分類。それぞれの距離は、相手との関係性や、コミュニケーションの目的に応じて使い分けられる。

 この対人距離の研究のひとつとして、佐藤さんは電車内で「保ちたいと思う距離」を調査した。

「小田急線の新宿〜小田原駅間、西武新宿線の新宿〜本川越駅間で、どのくらいの対人距離がほしいかという調査を各1000人、合計2000人に実施しました。『他人・電車の中』で理想としている距離は、男性が89センチ、女性は108センチでした」(佐藤さん)

 男女ともに「理想の距離」は、意外と長い。混雑した都会の通勤電車では理想の対人距離は保てず、さらに雨の日は傘がそのパーソナルスペースに侵入し、傘先がツンツンしてくる……これではイライラするのも当然だろう。

「最近のビニール傘は60センチ以上のものが多く、100センチの大判もあります。傘を腕にかけて持つと、その先端は自分の体から離れます。長ければ長いほど離れる。スマホなどを見て手元に注意していると、傘の先端までは注意が届きません。でも、その傘の先端は、大幅に『理想の距離』をはみ出ています。手や肘が他人の体に当たっていたらハラスメントと捉えられかねませんが、傘先だからといっていいわけがないので注意が必要です」(佐藤さん)

 あなたの傘先は、もしかしたら「理想の距離」から大幅にはみ出しているしているかもしれません。ご注意を。

(AERA編集部・太田裕子)

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