「内閣不信任案」を出さない大義名分を探している立憲・野田代表 それでも「衆院解散」はあると考えられる合理的な理由 古賀茂明

AERA DIGITAL6/17(火)6:30

古賀茂明氏

 6月11日、国会で党首討論が行われた。

 7月の参議院選挙を控え、普通なら、与野党党首が、国民にアピールしようと必死の論戦が行われるところだ。しかし、実際には、なんとも生ぬるい凡戦で終わった。

 その最大の原因は何か。

 立憲民主党の野田佳彦代表に、本気で政権交代を実現しようという気持ちが全くなかったからだ。

 野田代表は、今最も国民が望むことは物価高対策だと指摘し、石破茂首相が、これまでにいくつかの対策に取り組んだことは認めたものの、その先の対策がないとして、石破政権の「無策」を批判した。

 また、政治資金改革も選択的夫婦別姓も先送りで、結局何もやっていないという批判も展開した。

 つまり、石破政権は国民の期待に全く応えていないという批判だ。

 確かに、野田代表の批判には説得力がある。

 何もしていないというのは言い過ぎだとしても、立憲の方が、消費税減税、ガソリン税の暫定税率廃止、企業・団体献金禁止、選択的夫婦別姓導入など、大きな課題について具体的提案を出して、真剣に国民の声に応えようとしているのは事実だ。

 そのいずれについても、政府は、有効な対案を出さず、野党の提案を批判するだけで終わっている。まるで与野党が逆転したかのようだ。

 そんな政権は、どう考えても信任するわけにはいかない。したがって、石破内閣の不信任案を提出し、それを可決させて、内閣総辞職か、国民に信を問う衆議院の解散総選挙の選択を石破首相に迫る。それが野党第1党の立憲に課された責務である

 どこにも迷う余地がない。

 つまり、「内閣不信任案は出す」、それで決まりのはずだ。

 ところが、野田代表は、その考えを一切表明しない。

 出すべき不信任案を出すか出さないか決められないのは、実は、出したくないからだと思われても仕方ない。それ以外に理由がないからだ。

 もちろん、野田代表も、その批判をよく認識しているようだ。

 そこで、不信任案を出さない「大義名分」を必死に探し続けている。

 つい最近も、年金改革法案について、自民党が国民の批判を恐れて厚生年金の資金を一部使って国民年金の底上げをする策を法案から削除したのに対して、立憲がそれを法案に入れる修正案を出した。自公がそれをのんだことを受けて立憲は賛成に回り、同法は成立した。

 この時、野田代表は、年金という国民にとって最も重要な制度について、政局に利用するのではなく、与野党が真摯に話し合ってより良い政策を実現することができたと胸を張り、石破首相を持ち上げて、不信任案を出さない理由にしたいと考えたのではないか。

 しかし、実際には、今回の改正は、単に課題を5年後に先延ばししたに過ぎず、国民はこれを評価しなかった。不信任案を提出しない大義名分作りは空振りに終わったのだ。

石破茂首相との党首討論に臨む立憲民主党の野田代表

■野田氏が不信任案提出を嫌がる理由

 自民との間で協力して政策を進めた方が政権交代するよりも良いと言えるようなテーマはもう見当たらない。

 そこで、野田代表が最後に頼るのがトランプ米大統領だ。6月15日からカナダで行われるG7サミットの際の日米首脳会談で、トランプ大統領に暴れてもらい、日本側が危機に追い込まれるという筋書きが野田代表にとってはもっとも望ましい。

 そうなれば、「これは国難だ。国難を乗り切るためには、衆議院を解散して政治空白を作る余裕はない。与野党が協力して対米交渉に臨むしかない」という宣言をする。国民も、「そんなに大変な状況なら」と納得して、不信任案を出さないことを評価してくれるというシナリオに野田代表はすがっているように見える。

 こうした展開に持っていくためには、日米交渉の状況の開示が必要だ。

 だからこそ、野田代表は、サミット前後に石破首相に野党党首との会談を要求し、石破首相がこれに応じると、「肯定的に評価したい」と述べた。

 あとは、帰国した石破首相から、交渉状況の説明を聞き、「国難だ」と言える材料をもらいたいのだろう。できれば、石破首相から、「国難だから与野党協力してこれに当たることを要請する」という言葉を得られれば最高だ。

 このコラムの配信直後にも、そうした展開になるかどうかがわかるだろう。

 ところで、どうして野田代表は不信任案の提出を嫌がるのだろうか。

 いくつかの理由がある。

 政権交代こそ政治改革だと偉そうに述べていた割には、野田代表は、政権交代に向けた準備を何もしていなかった。衆議院選挙の準備はできているなどと強気の姿勢を見せる立憲幹部もいるが、それは虚勢だ。22日投開票の東京都議会選挙があり、その直後に参議院選挙がある。それに加えて衆議院選挙となれば、とても準備が間に合わない。候補者を揃えるだけでも困難な状況だ。

 また、参議院選挙でさえ、野党間の選挙協力が進んでいないのに、さらに衆議院選挙で選挙協力を進めるのは難しいという事情もある。

 本来は、この日のために、野田代表や立憲幹部が、他の野党の首脳たちと頻繁に意思疎通を図り、衆議院選挙への準備をしておくべきだったが、実は、野田代表は何もしていなかったというのが党内の評価だ。その責任を自覚しているのではないか。

 さらに、コメ高騰対策で小泉進次郎農林水産相が登場し、日本中で小泉劇場一色となっている。国民の期待も高く、石破政権の支持率も下げ止まりから反転の兆しが見える。この勢いだと、総選挙になった時、下手をすれば自公過半数奪還という最悪の事態さえ懸念される。

 以上のような要因により、総選挙で政権交代できなければ、それだけでも野田代表の責任問題になる。ましてや、立憲が伸び悩めば、辞任は確定的だ。

■党首討論で見えた「小泉農相」への恐れ

 そんなリスクは冒したくない。

 また、仮に自公が衆議院でさらに議席を減らしても、国民民主党や日本維新の会が立憲に協力しない可能性がかなり高い。その結果、やはり政権交代ができない可能性がある。

 選挙後の連立政権樹立のための準備を全くしていなかったこともまた野田代表の「無策」が原因だから、この場合も辞任ということになりそうだ。

 ちなみに、野田代表が小泉農水相を本当に恐れていることを示す場面が、党首討論で垣間見えた。それは、コメ高騰対策については石破政権を全く批判せず、むしろその対策を評価して、争点化を完全に避けたことだ。本来は、昨年秋の石破政権発足以来、まともな対策を取らなかったことが今日の事態を招いたのだから、この点は強く批判すべきだが、それをしなかった。コメの話になると、相手が小泉農水相となり、全く勝ち目がないと考え、ここから逃げたのだ。

 ところで、仮に不信任案を出さないと参議院選挙の結果にどう影響を与えるだろうか。

 それを左右する要素として、一つ重要なのは、新聞の論調だ。最近の記事では、どう見ても、新聞は、解散総選挙を嫌がっているようにしか見えない。不信任案を出すべきだという論調が全くないのがその証拠だ。

 G7でもダントツの物価高騰が国民生活を脅かし、政治資金問題、選択的夫婦別姓などでも先送りしかできない自民党に対して、野党は不信任案を突きつけて信を問えという社説が出ても良さそうなものだが、不信任案提出見送り説を早々に報じたり、日米関税交渉に支障が出る恐れがあるなどという記事を書いたりしている。

 政治部記者が、最近の人員・予算削減の中で、参議院選挙の準備を整えたところで、衆議院選挙までやられたら大変だという厭戦気分があるという話もある。また、万一野党圧勝となれば、消費税減税が現実のものとなり、先週配信の本コラムで指摘した、食料品と同じ扱いを受けてきた新聞の特別扱いが今後認められなくなることを恐れているという見方もある。

 こうした新聞の論調が世論にどう影響を与えるのかには注意が必要だ。

 一方、不信任案を提出しなければ、参議院選の投票率を下げる可能性がある。なぜなら参議院選だけでは、政権交代が起きる可能性が極めて低いからだ。

 それは、今回の選挙で政治は変わらないというメッセージになる。変わらないのなら選挙に行っても意味がない。そう考える有権者が増えれば、投票率が下がる。組織票が多い自公などに有利で、立憲には不利だ。そう考えれば、立憲内で不信任案提出派が増えるだろう。

■実は自公との大連立を切望?

 そして、何よりもネットの反応が大きな影響を与える。

 最近支持率に翳りが見えるもののユーチューバーとして発信力を誇る国民民主の玉木雄一郎代表が、どのように立憲批判をするかも注目だ。支持率が落ち目の今、本当は解散はしてほしくないと考えるかもしれないが、そうした本音とは正反対に、立憲が不信任案を出さないことを強く批判する可能性がある。

 新聞だけ見ていると、不信任案を出せない可能性もかなりあるように見えるが、私は、それでも、野田代表は、不信任案を出さざるを得なくなると見ている。

 不信任案不提出の理屈はわかりにくく、ネット向きではない。出さない場合の批判を恐れる党内の声が、ネット世論を背景に高まる可能性が非常に高い。

 消費税減税について、あれだけ反対し続けたのに、最後はあっさりと減税案を出すと決めた野田代表のことだ。今回も批判に怖気付いて不信任案提出に追い込まれるのではないだろうか。

 不信任案が出れば解散になる可能性が高い。

 その先の展開は読みにくいが、衆議院選で自公が過半数をとればもちろんだが、そうでなくても、政権交代にはならないだろう。維新と国民民主が立憲に協力しないからだ。

 その場合、維新や国民民主が自公と連立を組むかというと、自公政権で石破おろしにならなかった場合は、維新との連立の可能性はあるが、国民との連立の可能性は低いのではないか。

 なぜなら石破首相は明らかに玉木代表を嫌っているように見えるからだ。政権内部からも、石破首相は、個人的な好き嫌いではなく、ネットでバズれば良いというような玉木代表の政治手法を問題視し、そういう政治家が蔓延れば、民主主義が危機に陥るというかなり真面目な理由で玉木代表を敬遠しているという話が聞こえてきた。

 もう一つ、立憲と自公の大連立はあるかという点だが、野田代表は、それを切望しているように見える。なぜなら、自分の力では、野党政権を作ることはできないと知っているからだ。そうであれば、自分が本音でやりたいこと、すなわち消費税増税を核とした税と社会保障の一体改革、さらに自衛隊明記を含む憲法改正とさらなる軍拡を中心とした安保政策を石破首相と二人三脚で実現するのが次善の道だということになる。

 ちなみに、野田代表は、そういうことさえ考えていないという解説をする立憲議員が執行部の中にもいる。つまり、何も考えていないというのだ。にわかには信じ難いが、確かに、これまでの彼の「何もしない」という行動(これが行動と言えるのか疑問だが)を見ていると、そうなのかなとも思えてくる。

 仮に大連立ということになった場合は、立憲は二つないし三つに分裂するだろう。

 それが政界再編につながるのか。

 いずれにしても、本当に日本の政治が変わるには、まだまだ時間がかかるということになりそうだ。

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