元NHKの伝説の相撲ジャーナリスト94歳が「肝に銘じるべき」立ち合いの逃げは 「品格の点で“許せない”」と厳しく批判する横綱とは
AERA DIGITAL10/2(木)11:30

横綱・大の里の5回目の優勝で幕を閉じた大相撲秋場所。70年にわたって大相撲を見続けてきた伝説の相撲ジャーナリスト・杉山邦博さん(94)は、横綱・豊昇龍との激闘をどう見たのか。また「ひと枠空いている」大関に、最も近いのは誰なのか。根掘り葉掘り話を聞いた。
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──秋場所の賜杯は千秋楽に両横綱による優勝決定戦で決着という、ファンにはたまらない展開でしたね。
久しぶりに理想的な展開で最後まで盛り上がり、大相撲の奥深さをファンの皆さんにあらためてわかってもらえたのではと思います。
大の里(横綱/13勝2敗)の優勝は立派すぎるほど立派でした。これで入門して3年足らずで、優勝5回。しかも横綱2場所目で優勝するのは容易なことではない。今後が楽しみであり、末恐ろしいですね。相撲内容も組むことにこだわらず、まず突き放して前に出るという攻めの相撲に徹していた。それがよかったと思います。
■肝に銘じるべき
──豊昇龍(横綱/13勝2敗)との対戦はさすが横綱同士、豊昇龍が勝った本割、大の里が勝った決定戦ともに見ごたえがありました。
本割では、豊昇龍のもろ手突きで一気に前に出る相撲が功を奏しました。でも大の里はここで敗れたことで気持ちが吹っ切れて、決定戦では思い切って自分の相撲がとれたと思います。豊昇龍は決定戦でも一気に行けば面白かったと思いますけどね。左に動いて左上手を取りに行ったことが大失敗でした。そこをすかさず右を差した大の里は土俵際の体の寄せ方も素晴らしかった。完勝でした。
──久しぶりに強い豊昇龍が戻ってきた感もありました。
休場明けで本人も期するものがあったでしょう。最後まで優勝争いに残ったことは評価すべき。ただ、私は厳しく批判したい。14日目の若隆景(関脇/6勝9敗)との一番で、なぜ立ち合いで変化したのか。横綱昇進の際の日本相撲協会の推挙状には、「品格、力量抜群につき横綱に推挙す」という言葉があるんです。本人は「きょうは勝ちにいった」と言ってましたが、横綱は堂々と相手を受けて立つべき存在であり、あのような立ち合いの逃げは、品格の点で「許せない」とあえて言いたいですね。あのときの観客の落胆、ブーイング、ざわめき。豊昇龍は忘れず、肝に銘じるべきです。

──このところぱっとしなかった大関の琴桜(9勝5敗1休)は、13日目に豊昇龍を一気に寄り切って破った一番をはじめ、どう評価しますか。
今場所は久しぶりに「いいな」と思わせる相撲を多くとりましたね。琴桜の師匠によると、左ひざがずっと悪かったのが、だいぶんよくなってきていたそうです。ところがその豊昇龍との一番で今度は右ひざを痛めて翌日から休場になってしまった。不運としか言いようがありません。カムバックの兆しがあるだけに、なんとか早く回復してほしいです。
──いま、大関はずっと琴桜一人で、枠が一つ空いている状態。「次の大関」を狙う両関脇に期待が集まった場所でもありました。
今場所こそ成就する、と思っていた若隆景はまさかの負け越しでしたね。相撲が消極的すぎました。相手の懐に飛び込んで、攻めながらさらに自分の体勢を良くして白星に結びつけるのが持ち味なのですが、「立った瞬間、もう相手の十分」という取組も多かった。粘りもなかったし、残念としか言いようがありません。若隆景も霧島(関脇/6勝9敗)も最大のチャンスを逃してしまいました。
■例がないくらいの力士
──まだ、2人には引き続き、大関獲りのチャンスがあるでしょうか。
霧島は難しいかもしれない、と見ています。でも若隆景には、まだ可能性があると思いたい。ここで彼を見限るのは、あまりに酷です。大けがをして、また三役に返り咲いて、大関候補になった。そんな彼の根性をもう一回見たいし、それを貫けばチャンスはあると思います。ただ、もう30歳。若手がどんどん伸びてきている中で、厳しい道であることは確かです。
──では若手で、大関をうかがう存在と言えば誰でしょうか。
まず挙げたいのは、技能賞もとった安青錦(小結/11勝4敗)です。ここまで毎場所のように2けた勝っていくいまの彼の姿を、私は想像できていませんでした。とにかく徹底して頭を低くして攻める。そしてそのとき、前に落ちない。本当にいままでに例がないくらいの力士です。今場所は左を差して食い下がる体勢にこだわらず、低く下から突き上げて押して出る、そんな立ち合いも何番かあり、進歩も見られました。こういう相撲を続けて、次の九州場所(11月9日から)で12勝したら、来年1月場所には100%大関にすべきだと私は思います。11勝でも「大関に」の声は出るかもしれません。

──これまでの取材で何度か、杉山さんは王鵬(前頭2/10勝5敗)や草野(前頭6/8勝7敗)も「将来の大関候補」として挙げておられましたね。
王鵬は今場所10番勝ったのは立派です。粘っこい相撲がとれるようになりました。相手に差されそうになってもおっつけて、相手を押し返し、突き放すという相撲がかなり見られるようになった。九州場所では間違いなく、久しぶりの三役。楽しみですね。
今場所気になったのが、草野の相撲です。10番は勝つと思っていたので、「かろうじての勝ち越し」は想定外でした。十両で2場所連続優勝したときのあの馬力、勢い、周囲を寄せつけない強さが感じられなかった。やはり平幕ではそう簡単にはいかないということでしょう。ずいぶん勉強になったと思います。これを糧にして九州場所にのぞんでいけば、彼の良さはまた発揮されると思います。
──とはいえ、まだ「将来の大関候補」ではありますか。
もちろんです。草野に関しては、僕はまだ「わからない部分」がたくさんある。その可能性をいまのところ、買いたいですね。王鵬は、負けるときは意外にあっさり負けてしまうので、そこをどう克服していけるかにかかっていると思います。いずれにしても、大関への最短距離にいる安青錦、そして草野、王鵬は、大の里に並ぶところまで行けなくても、その存在をただ見上げるだけじゃなく、「ついていける存在」になってほしいし、そうなりたいという強い気持ちを持ってほしい。期待しています。
(聞き手・構成/小長光哲郎)












