人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、大阪都構想について。



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 大阪都構想が再び盛り上がってきた。大阪府と大阪市の二重行政は無駄が多いと、維新の会の市長と府知事が大阪の人々に問いかける。

 前回の住民投票は少しの差で反対が多く、それを受けて橋下徹氏が政治家を引退したが、今度は公明党が賛成にまわり、ひょっとすると成立するかもしれない。

 私は、軍人だった父の転勤により敗戦を大阪で迎え、小学校の終わりから中学、高校と大阪にいた。私立女子校の樟蔭中学校と公立大手前高校の出身である。

 その経験からいって、大阪と東京は全く違う文化である。正反対といっていいほど価値観が違って、東京生まれの父と、新潟は上越出身の母を持つ私は、最初そのギャップに苦労した。

 まず言葉が違う。アクセントはみんな逆、標準語で喋っていると気取っていると思われて遊んでもらえないので必死で大阪弁を憶えた。家にもどると標準語、学校では大阪弁と使い分けていたので、私は今でもバイリンガル。相手が関西だとアクセントまであっという間に変わる。NHKでアナウンサーだったのも別段苦ではなかった。

 ただ、価値観の違いで引き裂かれる思いもしたが、大阪の方が現実的でざっくばらん、馴れるとつきあいやすく、心斎橋の真ん中で「おっちゃんまけてんか」と値切るコツを憶えた。

 情感を表すにも大阪弁の方が雰囲気が伝わる。文化も東京が官僚的抽象的なのに比べて、具体的でわかりやすい。

 もともと、大阪は商人の町で、財界人も数多く出ている。

 日本には二つの文化が共存していたのが、戦後、東京一極集中になって、変化がなく面白味に欠けていた。

 そこへ大阪都構想。行政面だけではなく、文化面から考えてみると面白い。

 古都、奈良や京都をひかえ、歴史も古く、それでいて大阪は庶民の町だ。エネルギーに溢れ、芸術や芸能の世界でも、実は関西出身者や関西の影響を受けた人が多い。

 明治政府以後、官僚政治が跋扈したおかげで、東京人にはどこか気取りがある。

 かたや大阪人は反骨精神も旺盛だから、マスコミも朝日、毎日など関西から出た新聞社も多い。

 子供の頃に大阪の雰囲気を知っていることは、ありがたい。私の生き方にも大きく影響している。

 今ではお笑いを始め、芸能の世界では吉本などが多くのタレントを輩出しているのも当たり前と思える。

 それでも成功するには東京に出てくる必要があったが、大阪都が出来れば、二つの文化の拠点が出来るので、面白いかもしれない。

 大阪城の真ん前にある高校へ通い、隣には府庁があり、昼ごはんを食べに校庭に直結する裏口から毎度お邪魔していた建物が都庁になるのは、なんか楽しい。

 堅くるしいことは言わんと、おもろいことはやったらええやん。

※週刊朝日  2020年10月30日号

■下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数