菅義偉首相は5月28日夜、官邸で記者会見を開き、緊急事態宣言を6月20日まで延長することを発表した。会見では、「緊急事態宣言下でも東京五輪を開催できると考えるか」という質問に対し、「まず当面は、緊急事態宣言を解除できるようにしたい」と述べ、開催の可否への言及は避けた。



 IOCのジョン・コーツ副会長が同様の質問に対して「答えは間違いなくイエスだ」と言い切ったことに対し、国民から強い反発の声が出たことから、今回の会見では玉虫色の発言に徹した。

 一方、会見に参加した海外メディアの記者に五輪開催に関する意見を聞くと、「黒歴史になる」と日本に警告した。

「このままだと、ダメな意味で歴史に残る可能性があるね」

 菅首相の会見後、東京五輪開催についてこうこぼしたのは、イタリアメディア・SKYTG24のピオ・デミリア氏(67)。

 今の感染状況を「戦争中のようなもの」として、「戦争中に五輪を行うことなどあり得ない。リスクが多すぎる」と話す。

 「また緊急事態宣言を延長したのに、東京五輪は開催する、は通らない。なぜ、無理に国民に犠牲を強いるのか。日本人は対策を守り、すでに疲れている。首相は国民を守る立場なのに。良心の呵責を感じないのでしょうか。小池さんも含めて、この五輪開催を政治的な問題にするのは、NOTモラル。ありえないです」

 開催すれば、“黒歴史”になる可能性についても触れる。

「元首相の安倍さんは、日本のイメージアップを狙って開催を希望していたはずです。ですが、今やれば、イメージアップになどなりませんし、完全にイメージダウン。ダメな意味で、歴史に残ってしまう可能性がある。100年後に歴史を振り返った時に、大きな犠牲を強いた東京五輪として語られてしまうでしょう」


 香港フェニックステレビ・東京支局長のリ・ミャオ氏は、東京五輪を開催することの意義について政権は丁寧な説明が必要だと感じている。

「東京五輪はコロナ禍という前例のない状況に置かれています。ワクチンが行き届いていない中、緊急事態宣言も6月20日まで延び、日本国民のうち7〜8割が五輪開催を支持していないという状況です。菅政権がこの状況でもあえてやるべきだと言うのなら、東京五輪の意義をもっと説明する必要があると感じます」

 中華圏と比較して、日本の感染状況についての所感も語った。

「中国大陸ではすでに感染者が少なく、強力的な措置で感染を抑え込んでいる状況です。中国の友人に日本の状況を話すと、感染者数の多さに驚かれます。一人のジャーナリストとしては、この日本の状況で取材をすることに不安と難しさを感じています。いまの自粛はすごく日本的だなと感じます。ワクチンや治験など、あらゆることで長い道のりが必要になる。場合によってもっと柔軟な対応も必要なのではないでしょうか」

 ちなみにこの日の首相会見で、AERAdot.(朝日新聞出版のニュースサイト)は初めて質疑応答で指名を受けた。安倍晋三首相時代から週刊朝日、AERAdot.記者は首相会見に約10回、参加してきたが、一度も指名されていなかった。

 東京五輪は現時点で東京都をはじめ、全国各地の学校で多くの児童・生徒らが観戦を予定している。一国の首相としてどのような見解を持っているのか、質問した。

「東京都の児童生徒の五輪観戦については、新型コロナが感染拡大する前に組織委員会が了承したという風に聞いています。この計画の取り扱いについて現在どうするかということが検討されているということであります。具体的な感染対策を踏まえた上で、組織委員会において判断をすることになるという風に思っております。新型コロナの中の学校活動、これは課外活動になりますから、この活動に対しては政府が基本的対処方針として示したものを踏まえてですね、都道府県の教育委員会において判断しています。本件を含めて子どもの安全と安心を守ること、そこを第一に考えて対応するだろうというふうに思っています」

 あくまでも観戦プロジェクトを管轄する組織委や学校現場に委ねる形だという。しかし、子どもの安心安全を真摯に考えているのであれば、他人事のように語るのではなく、国のトップとして具体的な見解を示していただきたかった。 (取材・文=AERA dot.編集部・飯塚大和)


※当初の原稿では、ピオ・デミリア氏の発言内にあった「良心の呵責」をカタカナ表記にしておりました。カタカナ表記はレイシャルハラスメントの観点から不適切との指摘があり、お詫びして訂正いたします。(2021年6月2日)