今国会で提出が見送られた「LGBT法案」。この法案をめぐる自民党内の動きを見てみると、菅首相の「敵」が党内にも潜んでいることがわかる。AERA 2021年6月21日号から。



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 ワクチンや五輪・パラリンピックの成功はいまだ未知数であると同時に、行政の最高権力者であっても、自民党内では派閥を持たない菅首相にとって、党内におけるプレゼンスは極めて限定的だ。それが露呈したのが今国会で提出が見送られた「LGBT法案」だった。五輪憲章で明確に性的指向を理由にした差別を禁止していることから、五輪開催を目指す菅首相にとって同法案は前のめりではないにしても、否定はしない立場だった。

 自民党を含む超党派の議員連盟が内容の修正を繰り返し、合意。あとはこの修正案を自民党が了承すれば国会提出できる段階だった。

■「これは闘争」と攻勢

 しかし、最後の最後で党内の保守派から「待った」がかかる。法案の国会への提出を了承する「総務会」で保守派が巻き返しを図ったのだ。同法案に積極的だった自民党議員はこう内情を明かす。

「ある総理経験者が『これは闘争だ』と言って、(議連がまとめた修正案を)絶対に通すなと総務会役員に直接、攻勢をかけたというのです。その人物は、選択的夫婦別姓や慰安婦問題の急先鋒。拍車をかけたのが同法案の自民党の取りまとめ役が、その人物と縁が深い、稲田朋美衆議院議員だったからです」

 その人物とは安倍晋三前首相だと複数の関係者が証言している。結局、同法案は6月16日の会期末を前に「審議日程が確保できない」ことを理由に提出を見送られた。しかし、ある国対委員長経験者はこう断言する。

「総理が鶴の一言で『やる』と決めれば、自民党以外の党は了承しているのだから、1日あれば衆参で審議の上、成立することが絶対にできる。つまり、総理といえども総務会、そして党内最大派閥である細田派を事実上率いる安倍氏に弓を引けないということだ」

 五輪開催中に混乱が発生するなどし、歴史に汚点を残すようなことになれば、復権を狙う「安倍・麻生」氏らが総選挙前に総裁選を行い、新しい顔で総選挙を戦うために「菅降ろし」に動く可能性がある。菅首相の政敵は、野党だけでなく、党内にも潜んでいる。(編集部・中原一歩)

※AERA 2021年6月21日号から抜粋