ジャーナリストの田原総一朗氏は、菅首相に会ったら言いたいことがあるという。



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 菅義偉首相に会ったら、ぜひ進言したいことを記す。

 安倍前内閣が行ったことは、私はだいたい是認しているが、大失敗したことがある。小泉純一郎内閣の時代から、マネースキャンダルというものがほとんどなくなったので、安倍内閣の森友・加計疑惑に関心を持たず、まったく取材していなかったことである。

 桜を見る会問題が共産党によって暴露されたとき、私は、これはとんでもない税金の私物化だと捉えた。そこで、当時官房長官であった菅氏に、強い口調で主張した。

 かつての自民党であれば、安倍首相が自分の後援会のメンバーを桜を見る会に送り出したら、実力者の誰かが、「安倍さん、それはやめなさい」と言ったはずだ。安倍氏は素直な人物だから、誰かに言われればやめたはずである。だが、どの実力者もそのことを言わず、誰もが自分の後援会のメンバーを桜を見る会に送り出した。

 これでは自民党の国会議員の誰もが、税金の私物化をしていることになり、自民党が腐っていると言われても仕方がないのではないか。

 私がこう主張すると、菅氏は「田原さんの言うことには弁解も反論もできない」と答えた。

 そして、なぜこんな有り様になってしまったのかと問うと、「野党が弱すぎるのと、自民党の国会議員がみんな安倍首相のイエスマンになってしまったのだ」と述べた。

 私は改めて、森友・加計疑惑について調べてみた。

 森友事件で、決裁文書の改ざんなど、やはりする必要がなかった。財務省の佐川宣寿理財局長が国会で、自分の地位を守るために忖度(そんたく)を働かせて適当な答え方をした。そのつじつまが合わなくなって、改ざんをせよ、と命じたのだ。それを財務省の誰一人として、改ざんの必要がないと言えず、改ざんさせられた赤木俊夫氏は自殺せざるを得ないことになったのである。

 加計疑惑にしても、安倍首相は加計孝太郎氏とは40年来の友人だが、かまわず厳しくやれと言っておけば、問題はなかったのだ。厳しくやれと言ったって、文部科学省は忖度をする。それを「知らない」などと言ったので、とんでもないことになったのである。

 桜を見る会でも言えるのだが、招待した後援者の名簿など破棄する必要はなかった。

 安倍内閣のころから、公文書の類いを隠すのがなぜか当たり前のようになってしまった。たとえば、この間、収容中のスリランカ人女性が死亡した事件でも、出入国在留管理局は監視カメラのビデオ映像の開示を拒んでいる。とんでもないことだ。

 そこで、菅首相に会ったら何としても言いたい。今後、公文書の類いはすべて保存して、国会で開示を求められたら開示することに、抜本的に改革すべきである、と。

 実は日本では、公文書を破棄することが歴史的な伝統になっているようで、江藤淳という有名な学者は、日本では戦時中、戦前の公文書がすべて焼却されているので、それを調べるために何年も米国に留学していた。米国では、自国にとって都合の悪い公文書も、すべて保存されているからである。民主主義の国としては、それが当然だ。私は、菅首相に、そのように切り替えるべきだと進言するつもりである。

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数

※週刊朝日  2021年7月2日号