五輪とコロナ騒動で隠れてしまった重要なニュースがある。横浜市長選が予想外の乱戦になっているのもその一つだ。

 先週、横浜市の市民活動に携わる知人から電話をもらった。「古賀さん、共産党に立憲民主党の山中(竹春)さんじゃなくて田中康夫さんを応援するように言ってください」という驚きの内容だった。

 横浜市長選は8月8日告示、22日投開票の予定だ。3期務めた現職の林文子市長は、菅義偉総理の子分。カジノ誘致に熱心で、前回選挙ではカジノへの態度を曖昧にしたまま当選し、その後カジノ推進に舵を切った。大半が反カジノの横浜市民を裏切る行為だ。

 この選挙は、一政令指定都市の選挙ではあるが、実は、国政に大きな影響を与える可能性がある。第一に、横浜は菅氏の地元で陰の市長は菅氏だと言われて来た。そこで負ければ、菅不人気を全国に印象付ける。第二に、国政選挙や重要な地方選挙で負けが続く菅自民が、秋の衆議院選挙に向けてその流れを反転できるかが問われる。負ければ、やはりダメかとなる。第三に、菅総理の看板政策であるカジノ推進に反対する勢力に負ければ、菅氏の求心力は一段と低下する。

 当初、カジノ推進の林氏では勝てないということで、自民の候補者選びが難航。菅氏側近の小此木八郎前国家公安委員長がカジノ反対を掲げて立候補宣言するという驚きの展開となった。菅氏としては、地元横浜で市長ポストを死守し、コロナ終息後に小此木氏をカジノ推進に転換させればよいと考えたのだろう。

 これに対し、反カジノ陣営では、立憲推薦の元横浜市立大教授の山中竹春氏の他、元長野県知事の田中康夫氏、元検事で弁護士の郷原信郎氏らの有力候補が参戦し、乱戦状態となった。菅氏の支持率急落の中で、カジノ反対票をまとめれば楽勝だったはずが、陣営内の調整に失敗したことが原因だ。立憲は、何とか市民グループの山中支持を取り付けたが、裏では、冒頭の電話のように、反旗を翻す市民活動家も増え、田中氏や郷原氏も支持を広げる。

 この中で、私が特に注目するのが田中氏だ。彼は生粋の市民派で、長野県知事時代に、県庁入り口にガラス張りの執務室を置いたことでも有名だ。脱ダム宣言で既得権を排除し、市民の声を反映した行政で実績を上げた。今回も、田中氏の公約が具体的でわかりやすく、市民のニーズに合致していると他陣営関係者も脱帽する。田中氏は勝手連的選挙を得意とするが、これもカジノ反対の市民グループとの相性が良い。

 一方、こうしたリベラル陣営の混乱に乗じ、日本維新の会の前神奈川県知事・松沢成文氏もカジノ反対を掲げ立候補。反カジノの保守派の票を狙う。ここまで反カジノ陣営の票が割れれば、カジノ推進派でも十分に当選可能だ。そこで、当初菅総理に見捨てられた林文子氏が、カジノ推進を掲げて立候補表明した。林氏当選なら、結果オーライで、菅氏は「地元で勝利」と喧伝するだろう。

 実は、21日現在では、立憲の裏で糸を引く連合の影響で、立憲と共産の選挙協力が未成立だ。この選挙で負ければ、不協和音が残り秋の衆院選にも響く。

 菅総理にとっても立憲にとっても負けられない選挙。五輪騒動に惑わされずに注視して行きたい。

※週刊朝日  2021年8月6日号

■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『官邸の暴走』(角川新書)など