「六重苦」。岸田文雄総理が党首討論などで頻繁に用いる言葉だ。「アベノミクスは『六重苦』と言われた旧民主党政権の経済苦境から脱し、デフレでない状況を作り出し、GDPを高め雇用を拡大した」というような使い方をする。

 一般の有権者で、「六重苦」の内容がわかる人はほとんどいないが、岸田総理はそれを承知でわざとこの言葉を使う。「六重苦」と言えば、いかにも民主党政権のせいで日本経済が六重もの苦難に苛まれていたのだというイメージを作れるからだ。

 しかし、「六重苦」の中身を具体的に見ると、実は自民党にとっては、不都合なことばかりである。その第一は、「円高」だ。確かに、民主党政権の時代はかなりの円高だった。

 アベノミクスは、異次元の金融緩和とバラマキ財政出動で円安を実現したのだが、実は、これは本来はカンフル剤でしかない。円安は、日本の賃金を国際的に安くする「低賃金政策」でもある。これに頼った経団連企業の経営者は企業努力を怠り、生産性向上に失敗した。

 その結果、日本の労働者の実質賃金は減少を続けたのだ。最近では、資源価格の高騰と円安のダブルパンチで、日本経済のコストアップ要因となり、燃料や食料の大幅価格上昇で、貧しい家庭を中心に国民生活に大打撃を与えつつある。

 第二は、「高い法人税率」。安倍政権は、経団連企業のために法人税率を下げた。その財源として消費税を上げたから景気は良くなるはずがない。

 大企業はおかげで増益を続けたが、前向きな投資はせず、株価上昇と役員給与の大幅アップになっただけ。格差拡大の原因でもあり、世界では大企業の法人税率引き上げの議論が始まっている。

 第3は、「厳しすぎる労働・解雇規制」。自民党政権は、労働法制を無定見に緩和し、非正規雇用を4割にまで増やした。一方で最低賃金は低いままで労働時間も異常に長い。パワハラ・セクハラも事実上放置。これを「厳しすぎる」と言っていたのだから驚きだ。



 第4の「経済連携協定の遅れ」も自民党による農業過保護政策が足かせになっていたのは周知の事実である。

 第5の「厳しい温暖化ガス削減目標」に至っては、笑止千万。先進国の中で断トツに環境規制が緩いのが日本。おかげで再生可能エネルギー産業や電気自動車などの成長分野で日本は世界の競争から脱落してしまった。

 第6は「電力不足」。原発が動かないから電力が足りないと叫んでいたが、大嘘だった。本来は原発に頼るより、再エネ比率を上げてエネルギー安全保障を高めるべきだったができなかった。

 こうしてみると、「六重苦」という主張自体が、単なる経団連のないものねだりであり、経営者たちの自社の業績が上がらないことへの言い訳だったことがわかる。

 実はこの「六重苦」は、岸田総理が、アベノミクス批判をされた時に、反論として持ち出す言葉だ。議論を刷りかえるために「六重苦」という言葉を使っているのは、安倍元総理の「悪夢の3年」と同じだ。

 アベノミクスは失敗だった。その失敗について、根本から反省できない岸田政権。反省のないところでは同じ過ちが繰り返される。発足直後ではあるが、岸田政権の経済政策は失敗に終わる予感しかない。



※週刊朝日  2021年11月5日号より