「ワクチン一本足打法じゃないかと揶揄(やゆ)もされました。しかし、結果としてみなさん、どうだったでしょうか」

 衆院選が公示された10月19日。神奈川2区の菅義偉前首相は出陣式で声を張り上げた。演説ではコロナ対策をはじめ、2050年脱炭素宣言や五輪開催など、8割近くを成果の列挙に費やした。

 うつろな目、ろれつの回らない舌で原稿を棒読みしていた政権末期と違い、元気そのもの。原稿を読まずに語り、時に「どうでしょうか、みなさん!」と聴衆をあおるなど“舌好調”。演説後は支持者たちにもみくちゃにされ満足げな笑顔を見せたが、この1年間のコロナ対策への世間の評価は辛く、楽勝ムードではない。菅氏に挑む野党統一候補の立憲民主党の岡本英子氏はこう意気込む。

「街頭で多くの有権者から『菅さんを倒してくれ』と声をかけられます。前回の衆院選では野党票が分散しましたが、今回は一騎打ち。票の上乗せができればチャンスがあると思っています」

 逆風の兆しは、神奈川13区の甘利明自民党幹事長にもある。19日の出陣式では甘利氏本人は応援演説のため欠席するなど余裕があるかに見えるが、対立候補の立憲陣営幹部はこう耳打ちする。

「選挙区内に多くの“アンチ甘利”がくすぶっていると感じています。自民党支持者から『もっとたたかなきゃ甘利さんには勝てないよ』と活を入れられることもある」

 甘利氏は5年前のUR(都市再生機構)をめぐる口利き金銭授受疑惑が晴れておらず、説明責任が問われている。同区の野党統一候補である立憲・太栄志氏は20日の街頭演説で語気を強めた。

「不祥事が起きても説明責任も果たさず、責任も取らない、役人、秘書のせいにする。こんなことがまかり通ってしまう社会を変えていく」

 演説の途中、「甘利さんは許せない。何とかしてくれ」と男性が太氏に声をかける場面もあった。

 神奈川11区の小泉進次郎前環境相は、新政権では無役。“冷や飯”組とも揶揄されるが、人気は不動だ。当選は盤石と見てか、連日、他候補の応援に全国を飛び回る。

 22日には、さいたま市内での自民党候補の集会に登場。600人超収容のホールはほぼ満席。地元参院議員や県議も登壇するなか、小泉氏の演説時のみ「写真撮影タイム」が設けられるなど、スター性は健在だった。

 演説では「岸田総理の言う『新しい資本主義』とは、私の解釈では環境と経済を両立させる社会をつくること」と、気候変動対策を主張した。

 だが、同区の共産党候補・林伸明氏陣営は、小泉氏の「二枚舌」を批判する。地元・横須賀市では今、地球温暖化の原因となるCO2を大量に排出する石炭火力発電所建設が進んでいるのだ。

「本気で地球温暖化対策を進めるなら、まずは地元の石炭火力発電所建設をやめるべきなのに、小泉氏は何もしない。コロナ禍だからと理由をつけて駅立ちもしない。そんなことせずとも勝てるとなめられているのでしょうが、立会演説会で政策論争ができればもっと変わると思っている」(林氏陣営幹部)

 近年の異常気象のように、思わぬ波乱が起きないとも限らない。(本誌・秦正理、亀井洋志、大谷百合絵)

※週刊朝日  2021年11月5日号