岸田政権の発足から2カ月余り。総選挙での絶対安定多数を確保するなど順調な滑り出しとなった。だが、来夏に参院選を控え、三つの難題が待ち受ける。AERA 2021年12月13日号から。

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 嶋田隆・首席首相秘書官、秋葉剛男・国家安全保障局長という「飛車・角」を実務の中核に据えて岸田文雄政権が発足したが、内外の動きは急でひと息つく暇もない。当面の難題は三つだ。

 第1に、オミクロン株への警戒や原油価格の急騰などによる経済情勢の変調である。オミクロン株に対し、岸田首相は外国人の入国禁止などを素早く打ち出したが、今後、感染が拡大するようだと、回復基調にある日本経済への打撃も予想される。

■原油高で参院選に影響

 原油価格をめぐっては、産油国の減産が続き、ガソリン価格などが高騰。米バイデン大統領は日本や韓国などに国家備蓄の放出で足並みをそろえるよう要請した。岸田首相は異例の備蓄放出に踏み切ったが、原油価格の低下にはつながらなかった。高値の原油が消費の冷え込みを招き、日本経済全体を減速させる可能性が出てきた。

 岸田首相は「新しい資本主義」を掲げ、中長期的には賃上げなどによる分配政策を進める予定だったが、経済の変調を受けて目の前の景気対策に取り組む必要が出てきた。しかし、日本の場合、年末に翌年度の予算案を編成し、年明けの1月から3月までは国会で予算案の審議が続くという政治スケジュールがある。4月までは新しい景気対策が打ちにくい構造になっており、来年春にかけて景気が急速に落ち込んだ場合、打つ手がないのが現実だ。それが政権批判につながり、来夏の参院選に大きな影響を及ぼすのではないか。自民党内ではそんな不安が出始めている。

■政策面で似る立憲代表

 第2の難題は自民党保守派からの批判だ。リベラル色の強い宏池会に所属してきた岸田首相だが、安倍晋三元首相や高市早苗政務調査会長ら保守派への配慮からリベラル色を抑えてきた。例えば選択的夫婦別姓について岸田氏は元々、賛成派だったが、保守派の意向を踏まえて先送りした。

 中国との関係では、林芳正外相が訪中の要請が来ていることを明らかにすると、保守派が反発。来年2月の北京冬季五輪についても、米国などで政治的ボイコットが検討されている中で、自民党の保守派は日本もボイコットに踏み切るよう要求する構えだ。岸田首相がボイコットを決断すれば、米国や自民党保守派は評価するだろうが、中国の反発は必至だ。日本との経済関係にも影響を及ぼす可能性がある。

 第3の難題は、泉健太代表の下で再スタートを切る立憲民主党の攻勢である。同党は来夏の参院選に向けて態勢を立て直し、1月からの通常国会では岸田首相に本格的な論戦を挑む。自民党で右派・タカ派の色彩が強かった安倍、菅義偉両氏に対して、立憲内で左派色が強かった枝野幸男氏が対抗する構図が続いてきた。これに対し、自民党内のハト派・リベラル派の岸田氏に立憲の中道派である泉代表が挑むという構図に変わった。政策面で似通った者同士の「接近戦」の論争が繰り広げられるかもしれない。

 さらに泉代表は47歳の若さ。岸田氏と誕生日が同じ(7月29日)で17歳違いだ。世代交代の流れが加速するだろう。その場合、安倍元首相や麻生太郎副総裁ら自民党内のベテラン政治家の影響力が弱まり、岸田政権の足元をぐらつかせるかもしれない。

■ドラマより静かな議論

 そうした中で、岸田氏対泉氏という構図をめぐって、私には懸念がある。理念や政策が近い岸田氏と泉氏との論争はメディアにとって「退屈」と映りかねないのだ。

 日本のメディア、とりわけテレビは、小泉純一郎首相の時から「劇場型政治」を好む傾向にある。小泉氏は郵政民営化を推し進め、衆院解散を強行。「郵政が民営化すれば、社会保障も外交も良くなる」という根拠不明のスローガンも掲げた。テレビは「小泉劇場」を大きく取り上げたが、郵政民営化の内容やその影響などを吟味する機会は少なかった。解散・総選挙でも、郵政民営化法案に反対した自民党候補者に対して小泉氏側が擁立した「刺客」との一騎打ちという「ドラマ」ばかりが大きく取り上げられた。

 小泉政権の後も、自民党の下野・民主党政権の発足を経て、安倍「一強」政治などが続いたが、テレビの関心は、落ち着いた政策論争よりも政局の「活劇」に向かいがちだ。対決型政治に慣れてきたテレビが、岸田氏対泉氏の政策論争をじっくりと伝えることができるだろうか。

 コロナ対策や経済の再生、米中対立の中での日本外交といった難しい課題が山積する。岸田首相が泉代表らと静かな議論を重ねながら課題を解決していけるかどうか。まさに岸田氏の「聞く力」が試されている。(政治ジャーナリスト・星浩)

※AERA 2021年12月13日号より抜粋