参院選が公示され選挙戦が始まった。投開票は7月10日。物価高、経済格差、ウクライナ侵攻、環境問題……。課題は山積なのに、驚くほど盛り上がっていない。だが、私たちは肝に銘じなければならない。この一票が私たちの生活を左右するのだと。有権者は何に注目し、選挙に臨めばいいのか。AERA 2022年7月4日号は、信州大学特任教授・山口真由さんに聞いた。

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 参院選の最大の焦点は「物価高」になると思います。近年の国政選挙で経済問題が争点になりにくかったのは、物価が低く抑えられていたからです。選挙に一番効くのは、私たちの「生活実感」です。

 日本銀行の黒田東彦総裁が「家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言し、批判が集まりました。これに対し「上から目線だ」と感情的なエリート批判に終始するのではなく、その発言が起点になって円安基調がさらに強まったという批判をする方が的確です。例えばインフレの背後にある「円安」について、資源や穀物価格の世界的な高騰で国内の物価も高くなっている印象が強まり、その要因が円安に結びつきやすい状況にありますが、輸入物価の上昇のうち円安が原因なのは3分の1程度といわれています。

 私たちが見るべきなのはイメージではなく、経済指標の数値です。経済成長率やインフレ率はどれくらいなのか、物価高の要因はどこにあるのかを考えるべきです。

 例えば「悪いインフレ」の「悪い」とは何を指すかといえば、景気後退局面でのインフレです。景況感は、日銀短観などで確かめられます。

「悪い円安」の論拠は大きく二つあります。一つは円安が日本の国力低下を示しているのではないかという指摘。もう一つは、産業構造が変化して生産拠点が海外に移り、円安の恩恵は限定的だとの見方です。これらは、円安になってインフレが起きれば景気が良くなる、という理屈で円安を誘導したアベノミクスは本当に正しかったのか、という論点に直結します。

 岸田文雄政権の経済政策が「アベノミクス寄り」に映る今、アベノミクス批判を現政権の批判につなげやすい状況にあります。このため、参院選の実質的な論点はアベノミクス政策の是非になり得ると見ています。

 アベノミクスは壮大な実験だったと思います。賛否いずれの議論も、これまでは机上の空論でした。なぜなら、私たちはアベノミクスが始まって以来、誰も物価高の世界を見たことがなかったからです。だから、どっちが正しいのか分からないよね、という感覚でした。

 私は物心がついてからずっとデフレレジームでした。「明日はもっとモノが安くなる」と信じ、「明日買えばいいや」と思ってきました。それが今は「明日はもっとモノが高くなる」と実感せざるを得ない状況です。

物価高騰のイメージがあるバブル期ですら、平均すると物価上昇率は2%を下回ります。そんな状況の中で「2%の物価上昇率」を目標に掲げ、そこに突き進んでいったのがアベノミクスです。一時的であれ物価が目に見えて上がりはじめた今、これから賃金は上がるか、企業の設備投資は進むか、といったことを具体的に議論できる材料がそろいつつあります。初めてアベノミクスの是非の答え合わせができうる状況が生まれているわけです。

 今まさに日本は岐路に立っています。アベノミクス路線の継続でいいのか、立ち止まって考え直すのか。その審判を下す絶好の機会です。

(構成/編集部・渡辺豪)

※AERA 2022年7月4日号