誰のためだったのか──。9月27日に開かれた安倍晋三元首相の国葬。本誌記者(28)も式場に入り、4時間にわたる儀式を見届けた。国葬を支持する意見が多かった同世代の若者たちの目には、どう映ったのだろうか。

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「これが果たして『国』の儀式なのか……」

 日本武道館の2階席に設けられた記者席からは、やや遠いが真正面に安倍氏の祭壇が見えた。参列者が着席し終えると、厳粛な雰囲気が高まった。だが、そんな印象を一本の動画が吹き飛ばした。

「はい、いいですか?」

 そう話すのはピアノの前に座る安倍氏だ。おもむろに弾き始めた曲は「花は咲く」。安倍氏の奏でるピアノの音をBGMに、第1次政権からの“功績”が紹介された。

 安倍氏のおちゃめな姿も挟まれる。リーマン・ショックについて触れた演説で「もし、リーマンブラザーズがリーマンブラザーズ&シスターズだったら破綻(はたん)しなかったと思います」。直後、笑う聴衆の映像が続く。

 極めつきは、そのオチだ。曲終わりに間違って鍵盤を押してしまい音が出てしまう、恥ずかしそうにほほ笑む安倍氏が「もう一回いきます?」と言って動画は終わる。

 テレビの中継やニュースでご覧になった人も多いだろう。「モリ・カケ・桜問題」など負の側面に触れることなどないとはわかっていたが、仲間内でやるべきものを、国を挙げてやっているという感じを強く受けた。

 ほかにも、献花中にポップな曲が演奏されるなど、荘厳さをイメージさせる「国葬」という言葉と、目の前で繰り広げられる式とのギャップに、違和感だけが胸に残った。

 ネットニュースでは菅義偉前首相の弔辞が話題になり、コメント欄には賛美する声があふれた。その場面だけを見ると、さも素晴らしい式典だったかのように見える。私より若い人たちには、どう映ったのだろうか。

 若者と政治の関係に詳しい高千穂大学経営学部の五野井(ごのい)郁夫教授が言う。

「(学生に)『菅さんの弔辞見た?』と質問したら、『見てないです』と言っていました。『国葬は自分にとって外野』と言う学生もいましたね」

 もちろん国葬に関心を払い、献花に訪れた若者もいる。朝日新聞の世論調査(9月10、11日)では、18〜29歳の回答者の58%が国葬に賛成した。ただ当日の様子を見る限り、実際は大して興味がない……。そんな若者たちも多かったのではないだろうか。

 デモクラシー論などを研究する駒澤大学法学部の山崎望教授は、現時点での仮説としながら、次のように分析する。

「生まれたときから競争や自己責任を重視する新自由主義の時代を過ごしてきた若者は、社会よりも個人の目線を重視します。国全体に関わる国葬というイベントにどう応じてよいのかわからなかったのではないでしょうか。もう一つは、安倍政権が長期であったこともあり、ほかの政権と比較してどう位置づけるべきか、難しかったのかもしれません」

 記者が成人してから大半の期間は、安倍氏が首相だった。学生時代から安倍氏の“業績”については、冷静に見ていたつもりだ。だが、政治について同級生と話した記憶はあまりない。そうした話題を交わすのは、決まって一回り、二回りも年上の人たちだった。

 しかし、記者より若い人たちが安倍氏に“共感”する場面を目の当たりにすることがあった。

 それは、安倍氏が襲撃された事件現場でのことだ。記者も事件が起きた直後、奈良に急行した。現場近くに設けられた献花台には、多くの若者たちの姿があった。

「おじいちゃんみたいで親しみがありました」と話す高校1年生や、「功績を残されて、尊敬している」と語る予備校生が目を潤ませて話してくれたことに、「これだけ若い人が熱烈に支持しているなら、自民党が与党なのも当然だ」と妙に納得したのを覚えている。

 安倍政権といえばネットでの広報戦略に力を入れていた。安倍氏への共感はそこから生まれたのだろうか。

 政治とインターネットの関係に詳しい東京工業大学の西田亮介准教授はこう語る。

「自民党内では、以前から若者や女性から支持を得られていないという認識がありました。その層へリーチするためにネットの活用を進めていきました。ただ正直これがそこまで効果を発揮しているとは思っていません」

■いずれ薄まる安倍氏への共感

 西田氏が続ける。

「野党が弱すぎたことや、安倍政権下で新卒の就職状況が上向いたことなどが自民党の支持率の高さにつながったのでしょう。広報の効果もあるとは思いますが、影響の程度は小さい印象です」

 前出の山崎教授は言う。

「自民党を支持しているとは言っても、非常にあいまい。特定の理由があるわけではなく、彼らが強く持つ経済成長願望を実現してくれそうなのが自民党だからに過ぎません。それから、若者が権威に対して従順、というデータもあります。学生と話していると『長年、首相を務めているんだから、その人を批判するのはおかしい』と言うんです。国葬についても、『人が亡くなったんだし、悼むのは当たり前。だから賛成』という感じでした」

 多くの若者は安倍氏や自民党を熱狂的に支持しているわけではなさそうだ。安倍氏への共感も、国葬が終わればいずれ薄まっていくだろう。前出の五野井教授が言う。

「ロシアによるウクライナ侵攻などもあり、これからは経済の状況は悪くなっていくでしょう。その際に若者が自民党を支持し続けるかはわかりません。スペインやイタリアを見ると、極右や極左政党が票を伸ばしています。日本も同じ状況になる可能性がある。若者たちの一番の関心は経済ですから、彼らが『この党は私たちに何かしてくれる』と信じるに足り、政権運営能力がありそうな政党が出てきたとき、彼らはそちらに流れます」

 国葬を巡っては「国民を分断した」と分析する意見も多かった。だが、記者が普段つきあっている同世代にとっては、そこまで大きな関心事ではなかったように思う。むしろ賛否を争っている人々の姿のほうが、奇異に映ったのではないか。……いや、そもそも映ってすらいないのかもしれない。(本誌・唐澤俊介)

※週刊朝日  2022年10月14・21日合併号