支持率低迷で「力尽きた」と辞意を表明したニュージーランドの首相とは対照的に、どれだけ支持率が落ちても日本の岸田文雄首相に辞める気配がない。むしろ、精力的に外交日程をこなし、バイデン米大統領から“異例の待遇”を受けたと胸を張る。ちらほら聞こえてくる「岸田降ろし」の声も意に介さない。派閥会長に居座り、人事も駆使する。これも首相としての“処世術”なのか。岸田首相の考えは? 政治ジャーナリストの安積明子氏に聞いた。
* * *
かねて辞意を表明していたニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相が1月25日、正式に辞任した。2017年10月に同国最年少の37歳で首相に就任して以来、20年にはコロナ禍に対して厳格な水際対策を敢行。SNSを通じて国民に自粛を呼びかけ、2020年5月21日に公表された“1 NEWS Colmar Brunton Poll”によれば、内閣支持率は63%を記録した。
しかしコロナ禍による景気低迷に加え、世界的な物価高に内閣支持率は低迷し、最近では29%まで下落した。19日の会見でアーダーン首相は“I know what this job takes, and I know that I no longer have enough in the tank to do it justice.”と述べた。ようは「力が尽きた」というわけだ。
一方で岸田文雄政権の支持率も下落傾向が止まらない。NHKが行った最新の世論調査では、1月の内閣支持率は33%と昨年11月の支持率と並んで最低を記録した。さらに時事通信が13〜16日に対面式で実施した世論調査では、内閣支持率は26.5%と政権発足以降最低で、不支持率は43.6%と最高を記録した。
にもかかわらず、岸田首相に心が折れている様子は見られない。昨年は内閣から4人の閣僚を辞任させ、臨時国会閉会直前に防衛増税をぶち上げて、自民党を混乱させた。
そもそも岸田首相自身は5月の広島サミットで頭がいっぱいのようで、年明け早々、1月9日から14日まで、参加主要国首脳との「地固め」のためにフランス、イタリア、イギリス、カナダ、アメリカを訪問(帰国は15日)。“異次元のパワー”をもってタイトな日程をこなしたのは、ひとえに故郷に錦を飾りたいがためだろう。
なかでも防衛費を対GDP2%への増額という“手土産”を持参しての訪米では、バイデン大統領が自らホワイトハウスの玄関で岸田首相を出迎えるという“異例の待遇”を享受。まさに「この世の春」の思いだったに違いない。
しかしそんな岸田首相に対し、自民党内からも不満が出始めている。例えば菅義偉前首相は「文藝春秋」2月号に、派閥会長の座に座り続ける岸田首相に「理念や政策よりも派閥の意向を優先してしまう」と苦言を呈し、1月18日のラジオ番組でも防衛増税についての財源議論が足りなすぎたと明言。メディアはこれを「岸田降ろし」と騒ぎ始めている。
だが、そうした声は岸田首相に響くはずがない。そもそも2021年の総裁選では「しっかりと人事をやりたい」と述べた岸田首相だ。昨年10月4日には周囲の反対を押し切って長男・翔太郎氏を首相秘書官に抜擢した。しかし翔太郎氏には山際大志郎経済再生担当相(当時)の辞任について、親しい民放の記者に漏らした“疑惑”が噴出し、“子育て”の甘さが露見した。
党内第4派閥にすぎない43人の宏池会会長の座にしがみつくのも、そうした人事権を手放したくないからだろう。派閥のナンバー2は首相の座を狙う林芳正外相で、2021年の衆議院選で参議院から転出する際に、山口3区の河村建夫元官房長官を追い出した。
河村氏の長男・建一氏は自民党山口県連にさえ入れてもらえず、同年の衆議院選では比例北関東ブロックの当選圏外に追いやられた。隣県の広島県に選挙区を持つ岸田首相は、それを横目で見て岸田家を守るべく、長男優遇策に出たのかもしれない。
このように身近な人事には細かいが、岸田首相は政策や理念などについてはおおざっぱだ。しかも「イケイケドンドン」で進めていこうとしているのは、防衛増税ばかりではない。
岸田首相は1月4日の会見で「物価上昇率を超える賃金アップ」や「異次元の少子化政策」をぶち上げたものの、効果的な具体策については詰め切れていない。例えば500兆円を上回る内部留保を持つ大企業はともかく、労働者の7割が勤める中小企業に賃金の大幅なアップを実現できるのか。物価がさらに上昇すれば、こうした格差はいっそう拡大しかねず、社会の不安定化の原因にすらなりかねない。
人口500万人のニュージーランドのアーダーン首相は、「首相という仕事は力が満タンでなければ続けるべきものではない」と辞意を表明したが、1億2477万人の人口を抱える日本の首相は果たして“満タン”なのか。ただ、低支持率にあえぐ野党や自民党内の人材不足に助けられ、力の真空の中にうまく浮かんでいるだけではないか。
なお、岸田首相の右腕である松野博一官房長官は1月20日の会見で、「岸田内閣としては今掲げている政策を国民のみなさんに丁寧に説明し、ひとつひとつ着実に実行していくことだ」と意気込みについて述べるにとどまった。
1月23日に始まった第211回通常国会では、エネルギー難や食料不足にあえぐ世界の中で日本がどのように生き抜いていくのかが審議される。ただ単に「運がいい」だけのリーダーを戴いていては、この国はとうてい生き残れるはずもない。
(政治ジャーナリスト・安積明子)
■あづみ・あきこ 兵庫県出身。慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格し、政策担当秘書として勤務。その後テレビなど出演の他、著書多数。「『新聞記者』という欺瞞|『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)などで咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を3連続受賞。近著に「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)。趣味は宝塚観劇。
「岸田降ろし」もどこ吹く風 政権発足以降、最低の支持率でも岸田首相が強気でいられる理由

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