防衛政策の大転換が図られようとしている。山崎拓・元衆院議員は“筋を通すべき”と語る。

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 防衛費増額で避けられないのが財源の問題だ。

 計画では2023年度から5年間で防衛費をこれまでの約1.5倍にあたる総額43兆円に増やす。財源の4分の3は歳出改革等で確保し、残りを法人税等の増税による税収で賄う方針だが、ここにきて浮上しているのが、「60年償還ルール」の廃止や延長だ。

 政府が発行する国債は満期に全額返済するのではなく、借金を返済するための国債を新規に発行して少しずつ返済している。「60年償還ルール」は国債を全額返済するまでの期間を60年とし、毎年度の予算で60分の1に相当する1.6%の国債を返済することで、60年後に債務の完済を義務付けるルールだ。

 見直し論では60年という期間を延長することで、毎年の返済に充てる費用を減らし、浮いた分を防衛費の財源にするという。例えば60年の償還ルールを延長して80年償還とした場合、毎年の返済は80分の1に相当する1.25%となり、60年償還での1.6%との差額である0.35%分の債務償還費を防衛費に回せるという主張だ。

 しかし、この案には専門家から疑問の声も上がっている。元財務官僚で法政大学の小黒一正教授は問題点をこう指摘する。

「『60年償還ルール』の延長で新たな財源を生み出せるというのは錯覚です。毎年国債の返済に充てている債務償還費が減ることは確かですが、日本財政はすでに膨大な借金を抱えており、国債の返済は新たな国債の発行によって行われている。国債残高の増加分が財政赤字であり、80年償還にして債務償還費が減った場合、財政赤字を増やさないためには、その分、新規の国債発行額も同額を減らす必要がある。そうしないと、財政赤字が拡大してしまう。つまり、新しい財源は1円も生まれないのです」

 防衛力整備計画の別表にはイージス・システム搭載艦2隻、早期警戒機5機、護衛艦12隻など、今後5年間で導入が計画される防衛装備の数々が列挙されているが、本当に必要なのか。

「各装備の有効性を本当に吟味して内容を決めたのか。予算規模ありきだとしたら、戦前の臨時軍事費特別会計を彷彿とさせます。自衛隊には人員不足の問題もあり、装備だけを増強すればいいわけではない。日米同盟は絶対に堅持しつつも、対立する米中両大国が突然手を握った場合でも対応可能な対中国外交や、東アジア諸国との関係強化など、さまざまな戦略を検討していく必要があります」(小黒氏)

「60年償還ルール」の見直し案については、松野博一官房長官が「財政に対する市場の信認を損ねかねない」と問題を指摘。安倍派を中心に、増税反対を主張する議員たちからは反発も起きている。国民の理解どころか自民党内でも議論が紛糾しているこの体たらくに、防衛庁長官を務めた山崎拓自民党元幹事長はこう苦言を呈する。

「43兆円という防衛予算の中身の議論が伴っていない。反撃能力と表現しているが実際は敵基地攻撃能力で、それを持つということは軍事大国にならず専守防衛に徹するというこれまでの防衛政策を大転換することになる。これは憲法9条の解釈を超えた問題で立憲主義に反します。大幅な防衛費の増額をするのであれば、まずはきちんと国民的議論をしたうえで、憲法改正を実現してから行うのが筋です」

 なし崩しは許されない。(本誌・佐賀旭)

※週刊朝日  2023年2月10日号