岸田文雄首相の長男で政務秘書官を務める翔太郎氏が、首相の欧米5カ国の歴訪に同行した際、現地で公用車を使って土産を購入し、閣僚に配っていたことが国会で問題になっている。元議員秘書の専門家によると、「派閥の長や幹部には数十万円、同僚議員らには数万円程度と差をつけてお土産を配る習慣がある」という。

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 岸田首相の息子・翔太郎氏の“公務”が批判の的になっている。

 翔太郎氏は1月9〜15日にかけて、岸田首相の欧米5カ国の歴訪に同行した。その際、公用車を使い、土産を購入したなどと『週刊新潮』(1月26日発売)で報道された。その後、閣僚にネクタイを贈った、約半数の閣僚がお土産の受領を認めた、という報道も出ている。

 岸田首相らは、翔太郎氏が公務として首相のお土産を購入したという立場をとっている。

 27日、木原誠二官房副長官は定例会見で、現時点でわかったこととして「政治家としての総理のお土産等の購入」や「ご自身や私用目的での買い物等はない」などと答えた。

 さらに31日の衆院予算委員会で岸田首相は「全大臣に買ったと承知している。具体的な内容については控えるが、私自身のポケットマネーで買ったことは間違いない」と答弁した。他方で、政務秘書官が首相のお土産を購入することは「本来業務、すなわち『公務』であると思う」と答えた。

 いったい何が起きているのか。衆議院議員秘書の経歴のある明治大客員研究員でコラムニストの尾藤克之さんは「あしき風習がいまでも残っているのだと思います」と指摘する。

 首相や大臣に限らず国会議員が外遊に出ると土産を買ってくる風習があるという。派閥の長には数十万円の食器類、幹部や部会長には同額程度の酒類、同僚議員らにはネクタイといった具合だ。

 実は、以前からこういった問題は指摘されている。支払いは領収書が不要の「官房機密費」と見られてきた。過去の報道などでは「首相の外遊時にお土産など必要経費として1千万の官房機密費を持っていった」、「サミットのときに2千〜3千万持参し、食事会やお土産代などに充てた」といった証言が出ている。

 今回の支払いについて岸田首相は「ポケットマネー」と弁解したが、尾藤さんはこう見る。

「土産購入が公務なら、その費用は公費で払うべきです。それを『ポケットマネー』というのは不可解。批判を受けてそういうことにしたのでしょう。公務だとしても、派閥や党内融和のために使うとなれば、それは国のためというより党のためなのではないでしょうか。また、ネクタイは土産のランクでいえば最も低く、派閥議員や同僚議員への土産のように見える。これまでの慣習を踏まえると、土産を受け取ったのは閣僚以外にも増える可能性があります」

 政治資金問題に詳しい神戸学院大の上脇博之教授も、公務でポケットマネーを使うことは矛盾しているとしたうえで、問題が起こる背景についてこう指摘する。

「公私の区別が明らかについていません。安倍首相が主催した『桜を見る会』に後援会の関係者を多数招待していたのも『公費の私物化』として問題視されました。日本経済はバブルがはじけてから不況ですが、自民党は政党交付金でバブルな状況があり、さらに官房機密費まで使える。お金があふれ、庶民感覚を失っているのでしょう。一度、余分なお金を断つ“金断治療”をしないと、公金のありがたみがわからないのだと思います」

(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)