4日、性的少数者(LGBTQ)や同性婚への差別発言で荒井勝喜首相秘書官が更迭された。荒井氏は3日夜にオフレコを前提とした記者団の囲み取材に対し、LGBTQや同性婚に関連して「僕だって見るのも嫌だ」「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」など差別的な発言をしたと報じられた。初報した毎日新聞は、オフレコ発言を実名で報じた背景を自社サイトでも解説しているが、オフレコ発言の扱いについては議論が分かれている。政治家への取材において、オフレコ発言はどのような意味を持つのか。また、オフレコを実名報道に切り替える時、現場ではどう判断しているのか。かつて日本テレビで官邸キャップを長く務め、現在は政治ジャーナリストとして活躍する青山和弘氏に永田町取材の実態を聞いた。
* * *
青山氏は1994年から政治記者として永田町の中枢を取材してきた。歴代政権のキーパーソンとなる人物のさまざまな“本音”を聞いてきたはずだが、今回の荒井氏の発言についてどう感じたのか。
「LGBTQに対する偏見と無理解に基づいたひどい発言だと思います。言語道断であり、とんでもない差別的な発言ですが、一方で、メディアのオフレコ発言への対応は、もう少し考える必要があったのではないかとも思います」
青山氏は長年の永田町取材の経験から、政治家のオフレコ発言の扱いについてこう見解を述べる。
「政治取材において、オフレコ取材は必要不可欠なものです。もちろん、オフレコ破りを絶対にしてはいけないというわけではなく、極端に言えば、命の危険や犯罪に関わることであればオフレコを破らざるを得ません。いずれにしても、ルールを破ってまでも報道する価値があるのか、社会的な意義があるかが最大の焦点になります」
荒井氏の問題発言を最初に報じたのは毎日新聞で、3日午後11時には自社のニュースサイトに記事をアップした。同サイトの検証記事によれば、「現場にいた毎日新聞政治部の記者は、一連の発言を首相官邸キャップを通じて東京本社政治部に報告した。本社編集編成局で協議した結果」、荒井氏の発言を実名で報じることにしたという。そして、「オフレコという取材対象と記者の約束を破ることになるため、毎日新聞は荒井氏に実名で報道する旨を事前に伝えたうえで」掲載したとしている。
青山氏は政治記者として、一連の経緯をどう見たのか。
「オフレコという約束があるのですから、基本的には約束を守らなければならない。しかも、取材現場には毎日新聞だけではなくて、他社の記者もいたわけです。私は10社くらいいたと聞いていますが、他社は、まずはオフレコを守ろうとしたわけです。毎日新聞だけが抜け駆けしたことになり、他社に対する信義則も踏みにじってしまったと思います」
今後は、官邸取材で記者が本音を引き出しにくくなるのでは、という危惧もある。
「少なくとも、当面は官邸で秘書官がオフレコ取材に応じることはないと思われます。オフレコ取材によって官邸の判断の遅れや総理の決断のぶれなど不都合な真実を知ることもある。その機会が失われると、ある意味、国民の知る権利を阻害することにもなるわけです。そのリスクをてんびんにかけて、何をどのように報道すべきか考えるのも政治記者の知恵であり、センスだと思います」
青山氏の日本テレビ時代の官邸取材はのべ10年になるが、政治家や官僚のオフレコ取材は当たり前の日常だったという。オンレコでは聞けない“本音”や“裏側”を探り、決断の背景や問題点、今後の政治の行方を確かめることがオフレコ取材の目的だが、取材した内容の扱いが特に明文化されているわけではない。その根底にあるのは、信義則なのだという。
青山氏は永田町におけるオフレコ取材の実情をこう話す。
「結局、記者会見や会議の頭撮りなど表ではない場所は、すべてオフレコ取材なんです。設定された懇談の場合は『政府筋』などで引用が可能な場合もあれば、『完オフ』となれば、話そのものを引用してはダメだというパターンもあります。夜回り、朝回りは基本的にはオフレコですから、『オンのコメントお願いします』と言わない限りはオフレコです。オフレコ取材ではメモを取ってもダメですし、もちろん録音もできません」
元厚生労働大臣で国際政治学者の舛添要一氏は荒井氏の更迭後、ツイッターで「大臣時代に私は、記者たちに求められて『記者懇』(オフレコ)を開いたが、ルールを破って内容を週刊誌に漏らす記者がいた。給料の安い新聞社の記者でカネ稼ぎのためだった。それ以来、私は記者懇を止めた」とつぶやいた。
この意見に対して、青山氏はこう話す。
「記者は仕事で取材しているので、みんな上司にメモを上げています。だから誰に伝わるかわからないし、デスクが週刊誌に流す可能性だってゼロではない。そのリスクについて荒井氏が『知りませんでした』と言うのだったら、あまりにもナイーブだし、素人すぎる。首相秘書官という立場のある人が、オフレコとはいっても記者に話すにはあまりにも緊張感のない内容だったのは間違いありません」
一方で青山氏は、オフレコ取材の場にいた記者たちの対応にも問題があったのではないか、と語る。
「この発言を聞いたときに、これはオフとはいえ問題になりますよ、とその場で荒井氏にちゃんと言った記者はいたのか。荒井氏と議論したのか。問題だと思ったら『秘書官の考えをもう一度オンレコでお願いします』と言ってもよかった。その場でフンフンと聞いて帰って、上にメモを上げたら、こうなっちゃいましたという経緯だったら、現場の記者も情けないのではないか。私は政治記者になりたてのころ、先輩記者から『知ったことはどこかでは書かなければならない』と繰り返し言われました。今回のように、当日に実名報道するのはルール違反だとしても、たとえば『総理秘書官の一人』とか『総理周辺』というクレジットで書くこともできます。今後LGBTQ問題を記事化するときに、岸田官邸の雰囲気を伝えることはできる。また少し時間が経った後に、回想録的にオフレコ発言を書くこともあります。あのときはオフレコで聞いたけれど、実はこんなやりとりがあったんだよと明らかにすることはよくあることです。いろんな知恵を使って、書くべきことを書くのは、記者がやるべき仕事だと思います。取材対象者との信義を守りながら、そのタイミングとやり方を考えるのが腕の見せ所だということです。ただその考え方ややり方が、メディア一社一社、記者一人一人で異なるのがこの問題の難しいところです」
岸田文雄首相には2人の政務秘書官がいる。岸田首相の息子の翔太郎氏と嶋田隆秘書官。それ以外に事務秘書官が6人おり、荒井氏もその1人だった。翔太郎氏も外遊先で公用車を使って観光していたという疑惑が持ち上がったが、結果的に、岸田首相は息子はかばい、荒井氏を更迭するという判断をした。
青山氏は「霞が関の中では、今回の更迭劇を鼻白んでいる人はいるし、今後、少なからず反発も出ると思う」としたうえで、岸田政権の行く末をこう語る。
「岸田政権は場当たり的な判断が目立ちます。チーム岸田という体制が非常に脆弱(ぜいじゃく)で、あまり緊張感がありません。将来のカレンダーをきちんと描いている秘書官がいない。すべて首相が抱え込んでしまって、調整もしないで判断するから、場当たり的になっているのだと思います。非常に危うく、フラジャイル(壊れやすい)な政権だという印象です。これからもこうした問題が続くのではないかと危惧しています」
(AERA dot.編集部・上田耕司)
元日本テレビ官邸キャップが語る オフレコ破り「する時」「しない時」 荒井元秘書官報道は正しかったのか

関連記事
おすすめ情報
AERA dot.の他の記事もみるあわせて読む
-
日中外相、関係安定へきょう会談 初対面、王毅氏と面会も
共同通信4/2(日)5:40
-
大阪の「ダブル選」は維新優位、保守分裂の徳島知事選は接戦…統一選情勢分析
読売新聞4/2(日)5:00
-
出産費用の保険適用化…結局自己負担高くなる?安くなる?
日テレNEWS4/2(日)10:00
-
北海道知事選は現職・鈴木直道氏優位、有権者の2割は態度不明…読売情勢分析
読売新聞4/2(日)9:33
-
「4月9日は何がある?」 大津と草津で10代と20代に聞いた
朝日新聞デジタル4/2(日)10:15
-
兵庫県議選、神戸市議選の期日前投票始まる 前回は投票総数の3割弱
朝日新聞デジタル4/2(日)10:15
-
林外相、中国の李強首相、王毅氏と面会へ
共同通信4/2(日)10:06
-
岡山県各地で支持訴え 選挙サタデー 統一地方選前半
朝日新聞デジタル4/2(日)10:15
-
保守分裂の奈良県知事選、自民が劣勢に危機感…維新は弾みに期待
読売新聞4/2(日)10:40
-
岸田日誌1日(土)
産経新聞4/2(日)5:00
-
サル発言、放送法追及に影響も=立民・小西氏に「報道圧力」批判
時事通信4/1(土)14:29
-
政府、同志国軍の支援制度決定へ ODA外で無償協力
共同通信4/1(土)21:10
-
共産、唯一議席ゼロの愛知県議選に異例の対応 初日から党幹部が応援
毎日新聞4/1(土)19:20
-
障害者の投票支援呼びかけ 総務省、統一選控え対応例
共同通信4/1(土)21:02
-
南西シフト、進むミサイル配備=「反撃能力」拠点化も―対中最前線、地元に不安
時事通信4/1(土)14:09
-
マイナカードの政府目標「8900万だった」 河野デジタル相明かす
朝日新聞3/31(金)18:00
-
「サル発言」で小西議員を更迭 立憲代表が厳重注意 一方、別の問題も 立憲・幹部「これじゃ“記者恫喝会見”」
TBS NEWS DIG3/31(金)18:44
-
10代前半の9割以上が「自分は幸せ」 内閣府調査
テレ朝news3/31(金)23:47
政治 アクセスランキング
-
1
日中外相、関係安定へきょう会談 初対面、王毅氏と面会も
共同通信4/2(日)5:40
-
2
大阪の「ダブル選」は維新優位、保守分裂の徳島知事選は接戦…統一選情勢分析
読売新聞4/2(日)5:00
-
3
出産費用の保険適用化…結局自己負担高くなる?安くなる?
日テレNEWS4/2(日)10:00
-
4
北海道知事選は現職・鈴木直道氏優位、有権者の2割は態度不明…読売情勢分析
読売新聞4/2(日)9:33
-
5
「4月9日は何がある?」 大津と草津で10代と20代に聞いた
朝日新聞デジタル4/2(日)10:15
-
6
兵庫県議選、神戸市議選の期日前投票始まる 前回は投票総数の3割弱
朝日新聞デジタル4/2(日)10:15
-
7
林外相、中国の李強首相、王毅氏と面会へ
共同通信4/2(日)10:06
-
8
岡山県各地で支持訴え 選挙サタデー 統一地方選前半
朝日新聞デジタル4/2(日)10:15
-
9
保守分裂の奈良県知事選、自民が劣勢に危機感…維新は弾みに期待
読売新聞4/2(日)10:40
-
10
岸田日誌1日(土)
産経新聞4/2(日)5:00
政治 新着ニュース
-
鯖江市長の偽証を認定 鯖江市百条委 ごみ焼却施設の入札過程めぐり
朝日新聞デジタル4/2(日)11:00
-
岸田総理がゴルフ 去年8月以来
テレ朝news4/2(日)10:59
-
保守分裂の奈良県知事選、自民が劣勢に危機感…維新は弾みに期待
読売新聞4/2(日)10:40
-
岡山県各地で支持訴え 選挙サタデー 統一地方選前半
朝日新聞デジタル4/2(日)10:15
-
「4月9日は何がある?」 大津と草津で10代と20代に聞いた
朝日新聞デジタル4/2(日)10:15
-
兵庫県議選、神戸市議選の期日前投票始まる 前回は投票総数の3割弱
朝日新聞デジタル4/2(日)10:15
-
林外相、中国の李強首相、王毅氏と面会へ
共同通信4/2(日)10:06
-
出産費用の保険適用化…結局自己負担高くなる?安くなる?
日テレNEWS4/2(日)10:00
-
北海道知事選は現職・鈴木直道氏優位、有権者の2割は態度不明…読売情勢分析
読売新聞4/2(日)9:33
-
日中外相、関係安定へきょう会談 初対面、王毅氏と面会も
共同通信4/2(日)5:40
総合 アクセスランキング
-
1
“NHK御用達”“灘から東大”超エリートピアニストの不倫密会を女性が告発 「妊娠したらどうしようと不安だった」
NEWSポストセブン4/2(日)7:15
-
2
競輪選手の野原雅也さん死去 福井支部所属の103期 昨年全てのG1出場、12月伊東で2度目のG3優勝
スポニチアネックス4/2(日)6:00
-
3
落胆の藤浪晋太郎 デビュー8失点KO負け「悔しい」大谷は「世界最高峰の選手」【一問一答】
デイリースポーツ4/2(日)9:16
-
4
山下愛翔、SNSで存在知られ日韓40事務所がオファー 上京し「木村拓哉さんのような」俳優目指す
スポーツ報知4/2(日)5:30
-
5
他人事じゃない!日テレ「旧本社跡地開発」の混沌 住民が猛反発、町会長が訴えられる異例の事態に
東洋経済オンライン4/2(日)6:00
-
6
櫻井翔、相葉雅紀、星野源&新垣結衣…「一粒万倍日」に結婚発表する芸能人が考えていること
NEWSポストセブン4/2(日)7:15
-
7
早くもドラフト1位指名が有力!? 今秋ドラフト会議の注目選手5人。世代屈指の逸材たち
ベースボールチャンネル4/2(日)6:30
-
8
「朗希にもらったお菓子で一番は…」WBCで脚光を浴びたチェコ代表のエスカラが母校HPで赤裸々告白!「本当の日本文化を体感した」
THE DIGEST4/2(日)5:09
-
9
沖縄・読谷のチビチリガマ「集団自決」から78年 生存者が不在の初の慰霊祭
琉球新報4/2(日)7:00
-
10
大谷翔平、今季初マルチの2安打2打点 エンゼルス大量得点で今季初勝利 藤浪晋太郎の初登板は3回途中8失点でKO、明暗くっきり
ABEMA TIMES4/2(日)7:32
東京 新着ニュース
東京 コラム・街ネタ
-
渋谷『Reg-On Diner』でランチ。バンズ、パテ、秘伝のBBQソースのバランスが決め手のABCバーガー
さんたつ by 散歩の達人4/2(日)8:30
-
【東京・東池袋】待望のフィンランドサウナ新設!「タイムズ スパ・レスタ」でととのってきた
Walkerplus4/2(日)8:00
-
放送時間が30分拡大!堀潤×豊崎由里絵が新タッグ!『堀潤モーニングFLAG』リニューアルスタート!#モニフラ
TOKYO MX+(プラス)4/2(日)7:00
-
春の広陵、満開ならず…第95回センバツ振り返り、もう夏は始まっている…
ひろスポ!4/2(日)6:23
-
優雅なインテリアに囲まれて、ストロベリーパフェを堪能♪ 東京・銀座「資生堂パーラー 銀座本店サロン・ド・カフェ」
ことりっぷ4/1(土)20:45
特集
記事検索
掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright 2023 Asahi Shimbun Publications Inc. All rights reserved.
No Reproduction or publication without written permission.