自民党は3月3日から10日までの日程で、次期衆院選東京18区の候補者を「日本国籍を有する満25歳以上の女性」を条件にして公募した。女性候補者を積極的に登用するための施策だが、これに対し、身内である地元の自民党東京都連傘下の武蔵野、小金井、西東京の3総支部は猛反発。「男性が選ばれる余地がない」などとして撤回を要求する事態になっている。こうした状況について、自民党の女性議員は何を思うのか。自民党女性局長を務める松川るい参院議員など関係者に話を聞いた。

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「時と場合によりますが、女性限定公募はありだと思います。衆議院の小選挙区制度の下では、議席が空いたときに積極的に女性候補を擁立しないと女性議員が増えない現実があるからです。もちろん、本来は男女を限定すべきではないと思います。でも、日本は衆議院議員に占める女性の割合は9%台と世界最低レベルです。何らかの方法でこの現状を変えていく必要があります。もっとも、東京18区の選挙区事情について私は承知していないので、あくまで一般論としてはということです」

 松川るい参院議員は、今回の公募についてこう見解を示す。

 2022年7月に世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数でも、「政治」の順位は146カ国中139位と最下位レベルだった。

「議員のなかでも衆院議員、参院議員、地方議員といろいろありますが、その中でも衆議院が最も女性を増やすのが難しいのです」

 前回の21年の衆院選では当選した465人のうち、女性は45人で女性比率は9.7%。前々回の選挙を下回る結果になった。逆に参議院は、昨年7月の参院選で全体に占める女性議員の割合は25.8%となった。なぜ、衆議院だけ女性議員が増えにくいのか。

「衆議院は小選挙区制で、各党から出馬できる候補者は1人だけ。しかも、現職優先ですから、何らかの事情で現職が不在とならない限り、女性に限らず、新人は手を挙げる余地がほぼないシステムなのです」

 衆議院のなかでも、自民党は特に女性議員の比率が低い。会派別にみると、自民260人(女性20人)、立憲97人(13人)、維新40人(4人)、公明32人(4人)、国民10人(1人)、共産10人(2人)、有志5人(0人)、れいわ3人(2人)、無所属4人(0人)となっている(23年2月13日時点)。自民党の女性衆議院議員は、党全体で7.7%しかいない。

 東京都の三多摩地区には、東京18区を含む9つの選挙区があるが、女性議員は一人もいない。

「女性の衆議院議員が一人もいない地域なのであれば、今回の女性限定公募には地域全体にとっても大いに意味があると思います」

 昨年の参院選では、候補者や議席の一定割合を女性に割り当てる「クオータ制」を選挙公約にする政党が多かった。だが、自民党は選挙でそれには触れず、実際にクオータ制も採用していない。今回の女性限定公募では、「クオータ制も取っていない自民党が、公募を女性限定にするのはおかしい」という批判もある。

 だが、松川氏はこう反論する。

「それは的外れな批判のように思います。クオータ制を取れないから、いまだ男性ばかりなのです(笑)。クオータ制を導入すれば女性議員が増えることは、国際的に実証されています。日本はまだそこまでは進んでいませんが、機会があった時に女性候補を積極的に擁立していくことは、現状を変えていくために有益なことだと思います」

 国際的に実証されているのであれば、自民党もクオータ制を選挙公約にすればいいと思うが、松川氏は「参議院と衆議院では困難さが違う」と指摘する。

「たとえば参議院の全国比例候補者だったら、3割を女性候補者にしようという目標を立てることは無理ではありません。女性候補を優先して比例名簿に載せるようにすればいいわけです。実際、前回の参議院選挙においては、自民党の全国比例代表における候補者の3割は女性で、過去最多比率でした。しかし、衆議院の小選挙区は違います。クオータ制の対象となり得るには“空き”選挙区の数が少なすぎて、数値目標をアプリオリ(先)に設定するのは容易ではありません。選挙の度に事情も変わります。小選挙区で多く勝っている自民党だからこそ難しいのです。他党の場合は多くの“空き”があるので、クオータ制も主張しやすいのでしょう」

 実際、前回の衆院選で、小選挙区の当選者は定数289人のうち、自民は189人と65%を占める。以下、立憲57人、維新16人、公明9人、国民6人、共産1人、社民1人と続く。他党よりも、小選挙区に空きがないという事情はあるようだ。

 東京18区は、1票の格差を是正するための「10増10減」により、府中市がはずれ、西東京市が東京19区から18区に入った。比較的リベラル色が強い土地柄とされ、今までは立憲民主党の菅直人元首相の地盤だった。

 そこで、自民党東京都連は女性限定の公募に踏み切ったが、同党都連傘下の武蔵野、小金井、西東京の3総支部は、法の下の平等を定めた憲法14条や男女雇用機会均等法に「違背する蓋然性が高い」「男性が選ばれる余地がない」と指摘し公募撤回を求める文書を都連などに送った。

 公募締め切り前、武蔵野総支部の近藤和義総支部長はAERA dot.の取材にこう答えていた。

「公募するのなら、女性も男性も平等に公募してもらえないかというだけです。男女ともに公募をした結果、女性候補になるのだったら、それでもいいんです。ただ、公募時点から女性に限定するのは、逆差別みたいなものだと思います。衆議院議員が就業にあたるとするならば、男性を排除している時点で(男女雇用機会均等法の)違反にあたる可能性があるのではないか」

 前回の衆院選では、長島昭久衆院議員が東京21区から18区に回った。18区は立憲の菅直人氏が長く当選を続ける牙城。菅氏と長島氏の対決は「師弟対決」とも取りざたされ注目選挙区となったが、結果は菅氏が6000票余りの差をつけて勝利した。小選挙区で敗れた長島氏は比例で復活当選した。

「前回の衆院選で、長島さんが18区に決まる経緯にもいろいろと問題があったんです。地元では“この人を出したい”と勘案していたところに、(党から)最初から長島さんありきで話が来た。それはないだろうということで、さんざん話し合ったのですが、結局、長島さんを受け入れました。長島さんはとてもいい人でしたが、こちらになじむのに2年くらいかかりました。そういう経緯があり、次は独自候補を出そうとしていた矢先に、また上からポンと来るのはいかがなものか。(党側は)もう二度としないと言っていたのに、また同じことをしたので腹を立てているところもあります。私どもとしてはあまり協力はできないことは伝えてあります」

 選挙は総力戦。地元とのコミュニケーションは不可欠だが、自民党の東京18区の候補者選びはどう転ぶのか。今後も注目される。

(AERA dot.編集部・上田耕司)