共産党に党首公選制や現実的な安全保障政策を求める著書『シン・日本共産党宣言』(文春新書)を出版した元党安保外交部長でジャーナリストの松竹伸幸氏は、党から除名処分を受けた。事の真相を聞いた。

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──処分は、党首公選や安全保障政策などの主張ではなく、いきなり外部から党を「攻撃」したことが理由とされました。

 私はこれまで共産党を良くするために、自分の意見を好き勝手に表明してきましたが、不自由を感じたことなどありませんでした。実際、6年前に出版した著書でも自衛隊の活用を巡って、志位(和夫委員長)さんと意見が衝突したことを書いて周囲から心配されましたが、何のお咎めもありませんでした。友人の党員から「松竹さんのおかげで共産党が幅広く見える」と言われるなど、党の印象を変えるのに役立っているかなという思いがありました。

──共産党多様性の象徴みたいな感じ?

 そうそう(笑)。それに当時は、新安保法制成立を受けて、共産党は自民党政権打倒のため国民連合政府構想を打ち出し、新しい野党共闘の道筋を示したことで国民からも一定の支持を得られました。志位さん自身も高揚感があり、党員も元気づいていましたから、異論が出てもほとんど影響はなかったのでしょう。

 ところが、2021年衆院選、22年参院選で野党は敗れ、共産党も議席を減らした。野党共闘が行き詰まり、閉塞感が漂いました。あまり表面化しませんが、選挙に負け続けたことで党内の志位さんに対する批判は大変厳しいものになっています。異論が党内で影響を持ち、正論になってしまう前にその芽を摘んだということかもしれません。

──十分な反論の機会も与えられず、処分は唐突な印象を受けます。

 特に注意したのは「分派活動」と見なされないようにすることでした。共産党は戦前に国家から弾圧を受け、戦後は党内で激しい路線対立を繰り広げてきた歴史的経緯があり、党内に派閥・分派はつくらないという民主集中制が組織原則です。そこだけは気をつけようと本を書く時も出版を発表する段階でも、党員に協力を呼びかけるようなことはしませんでした。

──松竹さんが編集主幹を務めるかもがわ出版から、党員でジャーナリストの鈴木元(はじめ)氏がやはり党首公選制の導入を求めて『志位和夫委員長への手紙 日本共産党の新生を願って』を出版しています。それが分派活動と認められたのですか。

 私の本とほぼ同時期に出したら、処分の理由書に「事前に本の内容も知っていた」「時期を調整した」と書かれたのです。私は党京都府委員会から調査を受けた時に、「だって編集者なんだから本の内容を知っていて当然でしょう」、出版時期を合わせたのは「単体では注目されないけど、一緒に出たら話題になるかもしれないし、書店も並べやすい」と説明すると、調査に来た人も「そうだよね。販促活動の一環としてやったことなんだよね」と言ってくれて、その場に居合わせたみんなも頷(うなず)き合って終わったんです。納得してくれた様子でしたから、分派認定は見送られたものと思っていたんですが、私と鈴木さんが分派を形成したことにされてしまったのです。

 鈴木さんは1960年代、立命館大学在学中に8人しかいなかった党員を1千人以上に増やした大功労者。京都府委員会や地区委員会には鈴木さんが育てた専従スタッフがたくさんいます。府委員会は絶対に処分したくなかったはずです。私との整合性を取ることを理由に、鈴木さんを処分してはなりません。

──志位さんは00年に委員長に就任し、20年以上が経過します。やはり党首の在任期間として長すぎたのでしょうか。

 混乱の時代にあって、理論的支柱として党を統一してきた宮本顕治さん、不破哲三さんと違って、志位さんは大変な重圧の中で3代目の党首を務めてこられたと思います。現代において、党首に昔のような権威付けはできません。次の大会で志位さんが誰を指名したとしても、こんなに何十年も党首を続けることなど絶対に無理です。選挙にたった一度負けただけでも、責任論が噴出することだってあり得ます。次のトップになる人のことを考えても、いまこそ党首がきちんとした根拠をもって選出されるシステムを導入しておくべきです。

■党の防衛政策は信頼得られない

──松竹さんは、共産党が掲げる安全保障政策として「核抑止抜きの専守防衛」を提言しています。

 日本は専守防衛に徹するべきであり、日米安保条約と自衛隊の維持を前提にしますが、米国の核抑止には頼らず、通常兵器による抑止にとどめることを基本政策にするのです。集団的自衛権の行使を容認した安保法制により専守防衛を逸脱した与党と、専守防衛を堅持する野党との間の対立軸が明確になり、野党間で政権構想などを議論する「共通の土俵」もできます。

 核抑止抜きでは、安全保障は成り立たないという主張が現在の国際政治の専門家の間では多数を占めています。しかし、ロシアのプーチン大統領の核による威嚇発言は世界中から非難を浴びることになりましたが、日本がいざという時に米国の核に頼るのはそれと同じことです。戦後の反核運動を担ってきた政党としても譲れない一線です。

──共産党は選挙の時に立憲民主党などとの政権構想に、党綱領に掲げている安保「廃棄」などを持ち込まないと表明しました。

 党と政権とで基本政策を使い分けるというのは、あまりにご都合主義的で国民の理解を得られないと思います。00年の党大会決議では、軍事力のない社会に至る道筋を三つの段階に分けています。第1段階は、日米安保も自衛隊も存在していることが前提です。第2段階で日米安保が廃棄され、第3段階で自衛隊も解消するというものです。私は、この3段階論を支持します。

 ですが、第1段階では他国から侵略されたら日米安保も自衛隊も使うと明言しながら、党の基本政策は安保廃棄・自衛隊解消のままですから、国民に説明がつきません。しかも、国民の意思を踏まえなければ次の段階には進めないことになっていますから、北朝鮮のミサイル発射実験や台湾有事が憂慮される現在、第1段階がかなり長期間に及ぶことが予想されます。共産党が国民から信頼を勝ち取るための基本政策こそが「核抑止抜きの専守防衛」なのです。

(構成/本誌・亀井洋志)

※週刊朝日  2023年3月31日号