3月23日、統一地方選が始まった。4月23日までの約1カ月にわたり、全国で1千近い首長選や地方議員選、衆参の統一補選が行われる。支持率上昇に自信を深める岸田文雄首相だが、思わぬ落とし穴にハマる可能性も……。

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 今回の一連の選挙で、政権への影響という点で最も注目されるのは、岸田文雄首相への「中間評価」という位置づけになる衆参五つの選挙区で行われる補選だ。

「(衆参5補選)全部勝つつもりで万全の態勢でやってほしい」

 3月14日、自民党本部総裁室を訪れた森山裕選挙対策委員長に対し、岸田首相はこう強く指示した。森山氏によると、岸田首相は「日に日に自信を深めている」という。既にこの時点で、21日からのウクライナ電撃訪問の予定は固まっていた。2日後の16日には韓国の尹錫悦大統領が来日し、徴用工問題の「解決策」を説明。日韓関係の正常化で一致するなど、外交成果をアピールできる条件は整いつつあった。

 政府関係者は語る。

「当初、岸田首相は衆参5補選の勝敗ラインを3勝2敗と想定していたが、報道各社の世論調査で支持率が40%台に乗ると、周囲には『(支持率が)どんどん上がるぞ』と語るなど、意気揚々としている。今は強気に5勝も可能と見ているはずだ」

 自民党岸田派幹部も次のように話す。

「新型コロナウイルスの感染状況がやっと収束に向かいつつあり、春闘で満額回答が相次ぐなど大幅な賃上げもめどが立ってきた。日韓外交も国民の印象は良いはず。最近は打つ手打つ手が当たって、自信を深めている」

 ただ、「一寸先は闇」なのが選挙。自民党「5勝」の現実味はいかばかりであろうか。

 まず衆院補選では、引退した岸信夫前防衛相の長男が立候補する山口2区と、昨年銃撃され亡くなった安倍晋三元首相の同4区については、「鉄板」(党幹部)と、自民党は必勝を期す。

 だが、二階俊博元幹事長と世耕弘成参院幹事長という大物2人の地元で圧倒的に有利なはずの和歌山1区は「保守票が予想以上に日本維新の会の新人女性候補に流れており、自民党二階派の候補を猛烈に追い上げている状況」(同)だという。

 薗浦健太郎元首相補佐官の議員辞職に伴う千葉5区には、立憲民主党をはじめ野党4党がそれぞれ候補を立ててきたため、自民党の新人女性候補が有利と見る向きが多い。「野党が割れてくれて大変ありがたい追い風だ」(陣営幹部)

 しかし、地元の石井準一参院議員が自身に近い経済人を押し込もうとしたところ、麻生太郎副総裁が岸田総裁(首相)に直談判してトップダウンで女性候補擁立に道筋を付けるなど、「選挙戦に至る経過に落ち度があった」(森山氏)ことも事実。

 選対関係者によると、「麻生氏は側近の薗浦元補佐官の復帰の芽を残すため、いずれは選挙区を明け渡してもらうつもりだろう」と明かす。当然のことながら「石井氏は怒りが収まらず、党県連の動きは鈍い」という。

 参院大分選挙区はもともと野党系が議席を保持しており、野党にとって議席維持は至上命題。かつて社民党党首を務めた立憲民主党の吉田忠智氏が参院比例代表からのくら替え出馬を決めたことで、現時点で選挙戦を優位に進めると見られている。しかし、「吉田氏の出馬に出身母体の自治労が難色を示していたしこりが残る」(党関係者)など、立民のもたつきも目立つ。

 山口を除く、千葉、和歌山、大分のいずれも自民党が地力を発揮し全勝する可能性はある。だが、山口以外を落として2勝にとどまれば、政権を取り巻く空気は一変し、首相は一気に追い込まれる展開にもなりかねない。

 実際、自民党選対幹部の間では「2勝3敗の負け越しもありうる」との危機感があるという。その理由は「分裂しているかに見える野党が実は『死んだふり』で、土壇場で統一候補に一本化しかねない」(自民党選対幹部)からだという。

■有田氏の出馬が争点にも影響か

 政治ジャーナリストの野上忠興氏はこう語る。

「千葉、和歌山で土壇場の一本化が仮になされれば、自民党は負けるでしょう。岸田首相は周辺に『今回の選挙で負けたからといって、政権の行く末とは関係ない』と予防線を張っているそうだが、総裁としての責任が問われるのは必至です」

 さらなる懸念材料が、公明党の支持母体である創価学会の集票力低下だ。昨夏の参院選で比例区の得票は約618万票と、2021年の衆院選での比例票の合計から約93万票減り、01年に「非拘束名簿式」が導入されて以降、最も少なかった。

「支持者の高齢化などから、今回はさらに減らすだろう。その上、山口4区の衆院補選に立憲民主党から前参院議員の有田芳生氏が出馬することによって、波乱要素が出てきた」(野上氏)

 有田氏といえば、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に詳しく、立民としては自民党と教団の関係を統一選全体の争点に位置付ける狙いもある。

 ある自民党幹部は「問題を蒸し返されかねない。票にどう影響が出るか。不満票が日本維新の会に流れかねない」と強い懸念を示す。そもそも、報道されてきたように多くの議員がこれまで旧統一教会関係者から選挙の際に支援を受けていたとすると、今回、岸田首相が旧統一教会と「関係を断つ」と明言したことが集票にどう影響するだろうか。五十嵐仁・法政大名誉教授(政治学)は次のように話す。

「旧統一教会は、自民党系を中心に地方政治に深く浸透していたことが明らかになりました。今回の地方選で、自民党の候補者たちが本当に関係を断ち切れたか、注視する必要があります。さらに、昨年末の安保3文書改定により戦後日本の安全保障政策の大転換がなされて初めての国政選挙になります。有権者がどういう判断を下すか、蓋を開けてみるまで読めません」

 どうせ国民は忘れている、などと慢心していると、命取りになりそうだ。(本誌・村上新太郎)

※週刊朝日  2023年4月7日号より抜粋