4月23日までの約1カ月にわたる統一地方選が幕を開けた。統一地方選と、同時に行われる衆参5つの補欠選挙の気になる“個性派”候補者たちに直撃取材した。

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■【函館市長選】「頼朝」の兄が決起!? 上司と部下の因縁対決

「もっと街のステータスを上げなければなりません。函館を変えていきましょう。応援の翼を大きく大きく広げてほしい」

 3月18日、北海道函館市内のホテルで、今や国民的スターとなった大物有名人に似た顔で声をからしたのは4月23日投開票の函館市長選に出馬する大泉潤氏(57)だ。俳優の大泉洋の兄である。会場には1200人の支持者が集まり、函館出身のロックバンド「GLAY」のTAKUROからビデオメッセージが寄せられた。新人候補として、4期目を目指す工藤寿樹市長(73)に挑む構図。大泉氏には立憲民主党が支持を表明、工藤市長は自民、公明が推薦しており、与野党ガチンコ対決となる。

 この選挙がおもしろいのは両氏が同じ早稲田大学法学部を卒業し、市役所の上司と部下の関係だった点だ。函館市保健福祉部長だった大泉氏は函館市長選の準備をするため、昨年7月、工藤市長に退職願を出した。

 大泉氏は出馬の経緯をこう語る。

「別に工藤市政に弓を引きたくて出馬するわけではありません。やっぱり、観光面でこれだけのポテンシャルを持っている函館市ですけど、市役所時代から市民や業界団体の方と話すと、多くの人が函館を諦めてしまっている。人口減も激しく、中核市の中でも最悪レベルの減少率ですから若者も市外に出てしまう。市役所の一部長がやれることは限られていますから、函館を変えるためにも立候補を決意しました」

 対する工藤陣営は、思わぬ部下の出馬にも表向き平静を装う。工藤陣営の選対幹部は「大泉洋さんの兄という意識よりも、どなたが出ても同じと考えている。選挙戦は誰が出るから歩く、誰が出ないから歩かないということはない。人口減少など他の自治体と課題は同じだ。あくまで財政再建など3期12年の実績を訴え淡々とやっていく」

 ある市政関係者は「あの大泉洋氏の兄貴であるがために、マスコミがタレントの兄だと過剰に取り上げる。それは大泉陣営にとって有利で、話題性だけが先行する。そこに現職は普通の選挙と違って危機感を持っている。本人ではなくて弟たる有名タレントと戦っているような感じになる。やはりそこはきちんと実績、政策を比べて良識ある判断をしてほしいはずだ」と工藤陣営のジレンマを語る。100万ドルの函館山の夜景の輝きが照らし出すのは、どちらか。

■【東京都北区長選】「最年長区長」に挑む元アイドルの仰天プラン

 東京都北区長選も注目度は高い。アイドルグループ「光GENJI」の元メンバー・大沢樹生氏ら5人が出馬を表明している激戦区。6選を目指す現職の花川與惣太(よそうた)区長は投開票日時点で88歳で、当選すれば最年長区長のギネス世界記録になる。大ベテランに挑む大沢氏に話を聞いた。

 12歳で芸能界入り、今年で54歳になる大沢氏。政治に興味を持ったのは、コロナ禍の3年間の中で経験した出来事が影響しているという。

「昨年8月にコロナをテーマにした映画のオファーを受けて、北区内の零細、中小企業さんらが参加してくれた。北区の皆さんがいなければ完成しない映画で、すごいご縁を感じてしまって。本当に下町気質で、自分も江東区の下町育ちなんで、肌が合ってしまった。これから30年あるかないかの残りの人生を、社会や地域に貢献できる立場としていこうと決意して、出馬を決めました」

 政策は子育て支援、高齢者対策に加えて、コロナ禍の影響で苦しむ区内の中小企業のために、経済の立て直しを重視したいという。さらには、こんな仰天プランも……。

「2009年に死去した米人気歌手、マイケル・ジャクソンさんの米カリフォルニア州にある自宅兼遊戯施設だった『ネバーランド』をイメージした『ノースランド』プロジェクトを提唱したい。区内を流れる荒川の河川敷にトラックの荷台を利用したステージを配置して音楽イベントなどを開催したり、ドッグランを設置したりといったことを計画しています」

 今回が政界初挑戦となる大沢氏に対し、相手は5期20年、区議、都議を合わせると50年の政治キャリアを持つ。

「正直、政治力ではかなうわけはないですが、花川氏が作り上げてきた北区をさらに素晴らしくする自信はあります。大沢という新風を北区に入れたい。負け戦をするつもりはないです」

■【衆院千葉5区補選】ウイグルのルーツに誇り7カ国語を操る国際派

「優しい社会を目指したいというテーマを掲げて政治活動をしたいと思っています」

 こう語るのは、衆院千葉5区補選に自民党公認で出馬する新人・えりアルフィヤさんだ。1988年、福岡県北九州市生まれ。両親は中国の新疆ウイグル自治区出身で、99年に家族で日本国籍を取得した。同年、父親の転勤に伴い10歳からは中国で育つ。米国ジョージタウン大学外交政策大学院修了後、日本銀行や国連でキャリアを積んだ。7カ国語を操る国際派だ。

 えりさんが政治を意識するようになったのは、東アジアの安全保障関係の激変にある。

「米国の国防族だけでなく、リベラルなアカデミックな方々も東アジアの安全保障関係は危ないと言いだした。本当に国際情勢の転機だと思います。民主主義対権威主義、この構造がすごく緊迫化している。自分は公共政策のキャリアを持っているので、米国と日本の橋渡しになれるのではないかと思いました」

 公募に応じた72人の中から勝ち抜いて党千葉5区支部長となった。政策は改憲論者の保守そのもの。尊敬する政治家は安倍晋三元首相だという。森山裕選対委員長も、「自民党の女性活躍の最先端の人」と絶賛する。

 SNSを駆使して選挙活動を展開中だが、ネット上では「帰化1世を公認する自民党は国賊だ」などと、心ない誹謗中傷を浴びることもある。「ネットに書き込まれる議論のクオリティーにウッと感じるところもある」と本音も漏らす。

「生まれが北九州なので、自分を日本人としか思ったことはなく、日本人として海外でも経験を積んできました。その上で、ウイグルにルーツを持っていることも非常に特別なことで、誇りを持っています。ルーツを大事にしつつ、日本の政治家として頑張っていきたい」

 初当選を目指し、分刻みのスケジュールで走り回る毎日だ。(本誌・村上新太郎)

※週刊朝日  2023年4月7日号より抜粋