万年与党と万年野党が支配する緊張感ゼロの国会に、モウ我慢ならん。それなら自分が出るしかない! 4月投開票の統一地方選では、そんな候補者が増えている。いま、地方政治の現場が熱い。
* * *
「キャ〜、かわい〜」
今年1月、千葉県市川市で開かれた「二十歳の集い(旧成人式)」で、振り袖姿の女性たちが黄色い声をあげて、演説中の男性に近づいてきた。
演説をしていたのは、4月23日投開票の市川市議選に立候補する予定の野口淳(じゅん)さん。1級建築士で、所属するNPOでは市川市の街づくりをしてきた。政治の世界を目指したのは、新型コロナウイルスがきっかけだった。
「生活が苦しい人に食品を配るフードバンク事業を始めたら、民間のボランティア団体と市川市の行政が連携できていないことを痛感しました。『それなら僕が市川市政の中に入って、つながりをつくろう』と思ったのがきっかけでした」
演説では、生まれ育った市川市への熱い想いを語る。ただ、若い女性が「かわい〜」と言っていたのは、残念ながら野口さんではない。お目当ては、横にいる愛犬のシロ。ソフトバンクのCMに出てくる白犬にソックリで、女性たちはシロを触りに近寄ってきたのだった。
シロは体重が40キロある雑種の大型犬だが、性格はおとなしい。誰からも愛される人気者だ。一方、「犬を政治活動に利用している」との批判もあるが、そうせざるをえないのだという。
「公職選挙法の規定で、任期満了日の6カ月前になると、僕の顔写真が入ったポスターは掲示できなくなります。それで、シロをイメージキャラクターにしたポスターを作って街中に貼りました。今では、市川市ではシロのほうが有名になってしまいました」(野口さん)
なお、任期満了日まで6カ月以内になっても、本人以外の政治家や著名人と2人以上で写ったポスターは掲示しても問題ない。政治の世界で「二連ポスター」と呼ばれる合法的抜け穴だ。野口さんも二連ポスターを制作するつもりだったが……。
■規制多い公選法 新人候補に不利
「有名な政治家の知り合いもいないので、シロと並んだ二連ポスターを作ろうとしたら、選挙管理委員会から『動物との二連ポスターはダメです』と言われてしまいました」
公選法は公平な選挙を実現するための法律だ。ただ、時代に合っていない規制も多く、知名度を上げたい新人候補者に不利な法律だ。今年に入ってからは、公選法をめぐる“事件”も起きた。
4月23日投開票の東京都杉並区議選で、区の選管は、若年層の投票率を向上させるためにボートマッチ(投票マッチング)事業の準備を進めていた。これに対し総務省は今年2月、区の選管が主体となったボートマッチは、公平性の問題から公選法に抵触する可能性を指摘。事業断念に追い込まれた。
ボートマッチはドイツやオランダなどでは公的な団体が実施していて、選挙期間中では当たり前の光景だ。それが日本ではできない。杉並区関係者は「投票率を上げたくない政治家がそれだけいるということ」と嘆く。
政治家の新規参入を妨げる規制はいつまでたっても改善されない。そのため、日本の政治は遅れてしまっている。
内閣府の「全国女性の参画マップ(地方議会編)」によると、全国に1741ある市区町村議会のうち、女性議員がゼロの議会は全体の15.8%にあたる275。女性議員が比較的多い市区議会でも、女性が占める割合は17.5%だ。
国会議員はもっとひどい。2021年10月の衆院選当選者のうち、女性が占める割合は9.7%。世界各国で女性議員の比率が増えるなか、日本だけが横ばいだ。ちなみに、日本で初めて女性の国会議員が誕生したのは1946年。39人の女性が衆院選で当選し、割合にすると8.4%だった。それから77年経つが、日本の女性議員の比率はほぼ変わっていない。
台東区議会議員で、女性議員のためのネットワーク団体「ウーマンシフト」の本目さよ代表理事は、女性の政治家が少ない理由を、こう話す。
「そもそも政治家になろうと思う人が少ない。なろうとしても、なり方がわからない人が多い。女性の政治家で、若い人が憧れるようなロールモデルがいないことも影響していると思います」
議会や役所は典型的な男性社会。パワハラ、セクハラも多く、無事に当選できても、2期目はあきらめる女性議員は後をたたない。本目さんの調査によると、15年の統一地方選挙で当選した東京23区の新人女性議員のうち、約3割が2期目の出馬をあきらめていた。
そこでウーマンシフトでは、政治を志す女性や現職議員向けに、勉強会やワークショップを開催している。そこでは、選挙活動や議会活動の知識やスキルから、有権者からのセクハラ対策まで、様々な学びの場を提供している。その活動を通じて、本目さんは女性が政治を学ぶ場所が少ないと感じている。
「政策を実現するためには、決定権を持っている議員にあらかじめ根回しをしておくことも必要です。これは民間企業でも必要とされる広い意味での政治技術なのですが、今の日本では、女性が仕事で政治的な経験をする機会が少ないのです」
■女性が増えると質問内容変わる
ドイツの宰相ビスマルクは、「政治とは妥協の産物であり、可能性の芸術である」との言葉を残した。むしろ「妥協こそが政治」ともいえる。本目さんは言う。
「議会で女性が発言する機会が増えると、保育や教育、福祉といった生活に密着した議題が増えると言われています。もちろん、男性議員でも子育てに参加している人は積極的に日々の生活の課題について質問しています。地方議会では生活者の目線のある議員がもっと増えてほしい」
新しい政治家を増やすにはどうすればいいのか。そこで欠かせないのが、政治活動を支えてくれる支援団体だ。国政政党であれば、業界団体は自民、創価学会は公明、労働組合は立憲民主や国民民主といったすみ分けがある。地方議員の第一歩は、規模は小さくとも支援者を組織することにある。
今回の統一地方選では、既存の枠組みにとらわれない形で議員を目指す立候補予定者もいる。
杉並区議選に緑の党グリーンズジャパン公認で立候補を予定しているブランシャー明日香さんは、気候変動問題対策を公約の柱に掲げた。ブランシャーさんは言う。
「気候変動対策というと国や大企業がするものと思われがちですが、一人ひとりの意識の変化が大切。杉並区でやれることはたくさんあります」
ブランシャーさんが手がけているのが「オトナカフェ」だ。気候変動問題をはじめとする様々な政治課題について、大人たちが真面目に楽しく議論する場を提供している。
3月19日に開かれたオトナカフェには、未就学児から60歳以上の高齢者まで、14人が集まった。名付けて「ミニ気候市民会議」。進行役のブランシャーさんが、参加者にこう呼びかけた。
「杉並区では、CO2(二酸化炭素)の総排出量のうち、52.8%が家庭から出ています。今日は、それをどうやったら減らすことができるかをみんなで考えましょう」
まずは、参加者が思い思いのアイデアを出し合う。突飛な提案でも、否定しないのがルールだ。
「焼却の時にエネルギー消費量が多い生ゴミを減らそう」「断熱効率を良くするためにガラスを二重にしよう」など、CO2排出削減の具体的なアイデアが次々に出てくる。
次は、そのアイデアを周囲の人にどうやって広げていくか。最後に、自治体や政府などの公的な団体に実現してほしい政策について話し合う。
すると「避難訓練みたいに、CO2削減を学ぶ日を杉並で制定しよう」「CO2削減に協力した人にエコポイントをプレゼントしよう」などといった具体的な政策が次々に出てきた。オトナカフェは1時間半の短い時間だったが、ブランシャーさんは「私の政策に採用したいぐらい、良いアイデアがたくさんありました」と満足そうだ。
気候市民会議の発祥は英国やフランスなどのヨーロッパで、19年から広がり始めた。
業界団体の支援を受けた議員で構成された議会では、利害関係が複雑で大胆な政策転換が難しい時もある。気候市民会議は議会の弱点を補完し、市民の声を政策に直接反映するための試みだ。メンバーはくじ引きで選ばれ、最後は性別や年齢などのバランスを調整した上で決定する。
ブランシャーさんは、気候市民会議について学ぶため、昨年8月にパリに行き、運営メンバーの話を聞いた。そこで学んだのは、ていねいに議論することの大切さだ。それを日本でも広げていきたいと考えている。
「選挙で大事なのは、投票に行くまでの過程だと私は思っています。オトナカフェもその一つ。いろんな人と政策課題について議論をして、誰に投票するかを決める。『選挙っておもしろい』と感じてもらって、投票した後も政治に関心を持ち続けてほしい」(ブランシャーさん)
■政治家支援の新しい動きも
政治家を支援するネットワークづくりを模索する動きもある。
24年度に改正が予定されている介護保険法について、現在政府内で議論が始まっている。そこでは介護サービスを利用した際の自己負担割合が2割(現行は原則1割)になる対象者を拡大することなどが議論されている。
これに異を唱えたのが、若者時代に国家権力と闘った団塊世代のグループ「アクション『介護と地域』」だ。事務局長の前田和男さん(ノンフィクション作家)はこう話す。
「今回の介護保険法改正の問題を広く知ってもらい、また、高齢化する日本の社会のあり方を考えてくれる政治家を一人でも二人でも増やしたい。組織を作ったといっても、我々が選挙に出るわけではありません。地域から日本の介護を考える運動をしていきたい」
支援を受ける一人である東京都の佐藤司さんは、れいわ新選組公認で北区議選(4月23日投開票)に出馬する予定だ。自身も介護事業所を経営し、北区の介護保険行政に疑問を呈する。
「高齢者の生活支援などを市町村が展開する総合事業について、北区の報酬は特に低い。事業者の経営は厳しく、このままでは北区内の約6500人の要支援者の介護サービスが低下して、介護難民が増えます。3年ごとに、上がり続ける介護保険料も問題だと考えています」
地方自治は、「民主主義の学校」と言われる。これまでの政党任せ、現職有利、選挙戦では選挙カーで叫ぶだけの政治から、民主主義を自分たちの手に取り戻す。日本を変えるには、まずは足元から。熱い戦いはすでに始まっている。(西岡千史)
※週刊朝日 2023年4月7日号
地方政治の現場が熱い! 有権者からのセクハラ対策など選挙戦で新たな動きも

関連記事
おすすめ情報
AERA dot.の他の記事もみるあわせて読む
-
内閣支持率46%に上昇 G7で「指導力を発揮」6割 朝日調査
朝日新聞5/28(日)22:00
-
宮下氏優位、小野寺氏追う 青森県知事選情勢
共同通信5/29(月)5:24
-
岸田首相の長男が公邸で忘年会、「問題だ」76% 朝日世論調査
朝日新聞5/29(月)5:00
-
千葉・市原市長に小出氏 無投票で3選
産経新聞5/28(日)21:30
-
次期衆院選「公明選挙区」への擁立で一致、兵庫維新
産経新聞5/28(日)20:43
-
法務局の精密地図、大都市部や被災の可能性高い地域で優先整備…ルール作りの議論開始へ
読売新聞5/29(月)5:00
-
岸田日誌28日(日)
産経新聞5/29(月)5:00
-
自民・遠藤氏、内閣不信任提出なら解散も
時事通信5/28(日)19:10
-
埼玉・蕨市長選は現新一騎打ち 市議選も告示
産経新聞5/28(日)19:25
-
米、日本にアジアとの橋渡し期待 IPEF合意
産経新聞5/28(日)21:03
-
【速報】北朝鮮、31日以降弾道ミサイルの発射予告 岸田総理は自制求める指示
TBS NEWS DIG5/29(月)5:56
-
自公の亀裂「東京に限定した問題」 公明が福岡で臨時県本部大会
朝日新聞5/28(日)18:13
-
マイナトラブル、不安70% 国会会期末解散60%が反対
共同通信5/28(日)18:37
-
少子化対策の財源めぐり自民・茂木幹事長「社会保険料の上乗せ考えず」
TBS NEWS DIG5/28(日)14:41
-
少子化財源で与野党討論 自民「給付を若い人に」立民「保険料上乗せは隠れ増税」
産経新聞5/28(日)16:00
-
3大臣が異例の同時謝罪 “トラブル続出”の「マイナンバーカード」 個人情報も流出…普及拡大の裏で何が?【サンデーモーニング】
TBS NEWS DIG5/28(日)18:09
-
「異次元の少子化対策」原案 児童手当の拡充めぐり賛否の声
TBS NEWS DIG5/27(土)18:00
-
菅前首相が勝負を懸けたワクチン接種「収束する確信あった」
毎日新聞5/28(日)8:00
政治 アクセスランキング
-
1
内閣支持率46%に上昇 G7で「指導力を発揮」6割 朝日調査
朝日新聞5/28(日)22:00
-
2
宮下氏優位、小野寺氏追う 青森県知事選情勢
共同通信5/29(月)5:24
-
3
岸田首相の長男が公邸で忘年会、「問題だ」76% 朝日世論調査
朝日新聞5/29(月)5:00
-
4
千葉・市原市長に小出氏 無投票で3選
産経新聞5/28(日)21:30
-
5
次期衆院選「公明選挙区」への擁立で一致、兵庫維新
産経新聞5/28(日)20:43
-
6
法務局の精密地図、大都市部や被災の可能性高い地域で優先整備…ルール作りの議論開始へ
読売新聞5/29(月)5:00
-
7
岸田日誌28日(日)
産経新聞5/29(月)5:00
-
8
自民・遠藤氏、内閣不信任提出なら解散も
時事通信5/28(日)19:10
-
9
埼玉・蕨市長選は現新一騎打ち 市議選も告示
産経新聞5/28(日)19:25
-
10
米、日本にアジアとの橋渡し期待 IPEF合意
産経新聞5/28(日)21:03
政治 新着ニュース
-
自民と公明の選挙協力、埼玉・愛知の対応が焦点…東京では「解消」
読売新聞5/29(月)6:45
-
首相、不測事態への態勢確保など指示
共同通信5/29(月)6:33
-
LGBT法案が日本を破壊する 包括的性教育に懸念、皇室の危機も 修正でなく廃棄すべき 情報戦略アナリスト山岡鉄秀氏緊急寄稿
夕刊フジ5/29(月)6:30
-
世良光弘「国防の危機」 先端分野、無人機とミサイル技術の研究・開発こそが戦争を避ける唯一の方法 中東でしぶとく生き延びるイスラエルを見習え
夕刊フジ5/29(月)6:30
-
安倍氏の「暗殺成功良かった」発言の島田雅彦氏、ネット番組内でいまだ謝罪なし 共演した田中優子法政大学前総長は活動家を警戒
夕刊フジ5/29(月)6:30
-
「信頼関係は地に落ちた」と公明は怒り心頭 「自公亀裂」の複雑すぎて解けない方程式と萩生田政調会長の焦り
デイリー新潮5/29(月)6:03
-
前代未聞のことが起きた日本共産党 志位和夫も不破哲三も反論できず打つ手なしの大ピンチ
デイリー新潮5/29(月)6:01
-
「日本に生まれていれば自民党に?」安倍晋三の質問に習近平は回答し、側近たちは青ざめた《首脳会談秘話》
文春オンライン5/29(月)6:00
-
比例区の投票先「維新」16% 立憲を初めて上回る 朝日世論調査
朝日新聞5/29(月)6:00
-
北朝鮮が“弾道ミサイル”発射を事前通告 岸田首相、情報収集など指示
日テレNEWS5/29(月)5:59
総合 アクセスランキング
-
1
「フィッシャーズ」のンダホ、出資馬スキルヴィングの急死に悲痛「心の整理もまだ付かない」
サンケイスポーツ5/28(日)21:17
-
2
有吉弘行、夏目三久さんとの“買い物事情”明かす「頭を下げてでもカゴに入れる」ものとは?
スポニチアネックス5/28(日)21:59
-
3
北海道・礼文島の海辺に男女2人の遺体 そばに車椅子とかばん
毎日新聞5/29(月)2:25
-
4
「うるせー」「ピーピー泣くんじゃない」小学校の女性教諭暴言…怖がり休む児童も、担任交代へ
読売新聞5/28(日)23:12
-
5
ウクライナ選手にブーイング 全仏テニス、対戦相手と握手拒否
共同通信5/28(日)23:06
-
6
〈長野たてこもり〉「ぼっちとばかにされたから殺した」人質になった母は「一緒に死のう」と提案し…。孤独な政憲容疑者(31)の殺害動機と緊迫の立てこもり現場。相棒の愛犬を巡り過去には警察トラブルも…
集英社オンライン5/28(日)21:11
-
7
中国 全身が“真っ白なジャイアントパンダ”の映像が公開 北京大学の専門家「遺伝子の突然変異かも」
ABEMA TIMES5/28(日)19:35
-
8
“令和の怪物”落合が「伯桜鵬」に改名へ 新入幕が決定的な来場所から
スポニチアネックス5/29(月)3:00
-
9
「どうする家康」瀬名から千代に接触!ネット衝撃ラスト「まさか」「神展開」築山殿事件へ混沌?五徳は?
スポニチアネックス5/28(日)20:46
-
10
みちょぱ夫・大倉士門、俳優断念の影に吉沢亮&山田裕貴「睡眠2時間」に疲弊 高校偏差値68も告白
デイリースポーツ5/28(日)19:19
東京 新着ニュース
東京 コラム・街ネタ
-
喫茶室がリニューアル。老舗洋菓子店「タカセ池袋本店」で昭和レトロな純喫茶メニューを楽しむ
ことりっぷ5/28(日)20:45
-
渋谷・鹿児島おはら祭、54連2000人が踊り披露 ハンヤ節新バージョンも
みんなの経済新聞ネットワーク5/28(日)19:54
-
洋食の街・上野にある『上野洋食 遠山』で、フレンチを取り入れた新しい洋食を味わう
さんたつ by 散歩の達人5/28(日)18:01
-
「泪橋を逆に渡る」って、どっちの方角に歩けばいいのだろうか!?〜小池朝雄『ジョーの子守唄』、野狐禅『泪橋』、岡林信康『山谷ブルース』【街の歌が聴こえる/山谷編】
さんたつ by 散歩の達人5/28(日)17:00
-
新虎通りで「新虎ストリートマルシェ」 移動販売車など出店
みんなの経済新聞ネットワーク5/28(日)17:00
特集
記事検索
掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright 2023 Asahi Shimbun Publications Inc. All rights reserved.
No Reproduction or publication without written permission.