宇野昌磨 GPファイナル一番乗りでも「好調ゆえの悩みがある」

宇野昌磨 GPファイナル一番乗りでも「好調ゆえの悩みがある」

 フィギュアスケート男子の宇野昌磨がNHK杯で優勝。GPファイナルへの出場を決めた。好調に見えるが、どうしても決まらないジャンプがある。試行錯誤のなかで“何か”をつかんだ。



*  *  *
 NHK杯初優勝を飾り、グランプリ(GP)ファイナル一番乗りを決めた宇野昌磨(20)。今季は全戦全勝で、ハイペースでシーズン前半を進んできた。

 しかし輝かしいタイトルの裏で、悩みを抱えていた。それは「試合では体が動きすぎてしまい、ジャンプをミスする」という、異例の事態だ。

「練習では4回転トウループはほぼ完璧に近く跳べているんです。でも試合になると、体が動きすぎて、4回転が回転しすぎてしまって降りられない。悪いイメージではないかもしれませんが、失敗の原因になっている以上、悪い要因の一つです」

 試合になるとジャンプの感覚が変わるというのは、宇野にとってここ数年の課題ではある。しかし今季は特に顕著で、ショートプログラム(SP)で「4回転トウループ−3回転トウループ」の成功はまだない。

 動きすぎるとなぜミスをするか。もともと4回転トウループは空中での回転角度が「360度×4」より90度ほど少ない。一方、4回転フリップは完全に「360度×4」回る。だからこそ、多くの男子は4回転トウループを最初に跳べるようになるし、4回転フリップは宇野が世界初の成功者で、今でも数人しか跳べない難易度の高いジャンプだ。

 今季の宇野は、全力でジャンプすると「360度×4」きっちり回るため、4回転フリップは絶好調で、SPでの成功率は100%だ。

 一方SPの4回転トウループ−3回転トウループの連続ジャンプは、ロンバルディア杯(イタリア)でもスケートカナダでも不成功。NHK杯に向けて改めて原因を追究してきた。

「原因は気持ちだと思います。やはり試合になると、興奮したり集中したりして力が入りすぎてしまう」

 しかし、せっかく高まった興奮や集中力を落とすわけにはいかない。

 樋口美穂子コーチも言う。

「試合になると勢いよく行って(前傾になって)しまう。かといって力を抑えると失敗に繋がる。他の選手でも、試合になるとジャンプが高く上がりすぎて降りられないケースも見ますし、力の加減は難しい」

 NHK杯までの約10日間の練習では、宇野は4回転トウループは絶好調だった。ミスは試合でだけ起きるため、本番でしか原因追究ができないのだ。

「もう一度、全力で跳んでみよう。どうやったらコントロールできるのか試合で確かめたい。イメージ通りのミスをしても、失敗も成功も受け入れよう」

 宇野はそんな思いで初出場となるNHK杯を迎えた。広島のグリーンアリーナは、観客席の一番上まで超満員。オリンピック銀メダリストとして出場する宇野は、大会の主役だった。大歓声に迎えられた。

「これだけのお客さんが入るのは日本だけ。ありがたいこと。せっかく来てくれているんだから、期待に応えられるよう責任感をもって演技しよう」

 気持ちが高ぶり、知らず知らずのうちに力が入る。SPの前の6分間練習では、4回転フリップまで回りすぎて前傾になってしまった。つまり「360度×4」よりも回っていたのだ。

 宇野は即座にクールダウン作戦に出た。他の選手が必死にジャンプを練習するなか、なるべく心身をリラックスさせようと両手をブラブラとさせながらリンクをただ回遊し続けた。本番では4回転フリップもトリプルアクセルも、成功させた。

「練習ですべてのジャンプが前傾になっていました。その修正はなんとか冷静にできたけど、4回転トウループは前傾というだけじゃなくて、回りすぎたところで降りてしまいました」

 4回転トウループは転倒。今季3戦連続でのミスとなった。

「もういい加減、この『回りすぎ』というものにしっかり向き合わないといけない」

 そう宣言すると、夜のミーティングでも朝の公式練習でも、「試合での4回転トウループ」の対策を考えた。

「試合では、気持ちをコントロールするのが難しい。ならば公式練習で少しでも体を疲れさせて、回りすぎを抑制するという方法もあるかもしれない。でも、やっぱり自分の回りすぎというものに正面から向き合って、どうやってコントロールしたらいいのか試合で確かめたい」

 そう決意して迎えたフリー。2本ある4回転トウループは、前半は成功、後半はステップアウトとなった。SPと合わせて3度跳んだことで、感覚の差をつかんだ。

「SPは『どうしたらいいか分からないから思い切り行って』転倒した。フリーの一つ目は、4回転サルコウ、4回転フリップ、そして4回転トウループというリズムで練習通り跳べた。二つ目は演技後半で、ひと呼吸置いて『いつもの練習を再現しよう』と意識して跳んで、少し回りすぎました」

 試合の興奮や緊張感のなかでしか経験できない、わずかな感覚の差をつかんだことこそが、大きな収穫だった。

「プレッシャーとか緊張を、数年前までは『気にしないように』と考えていました。でも緊張するというのは現役の時だけの特別な経験なので味わっておきたいと思っています。緊張のなかでどうするかを考えていきたい。そういった意味で、緊張のなかで自分を信じることができたのは、今回のフリーが初めてでした」

 そう言って満足そうに笑う。宇野らしい考え方で、とことん自分と向き合っていくつもりだ。

 次はGPファイナル。順当にいけば、羽生結弦(23)やネイサン・チェン(19)など世界のトップスケーターが出場する。羽生とは平昌五輪以来の直接対決となるだろう。世界の最高峰の舞台で、どんな進化を見せるのか。(ライター・野口美恵)

※AERA 2018年11月26日号


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