イチロー引退【会見全文・後編】「大谷翔平は世界一の選手に」「外国人になって人の痛み想像した」

イチロー引退【会見全文・後編】「大谷翔平は世界一の選手に」「外国人になって人の痛み想像した」

 大リーグ・マリナーズのイチロー外野手(45)=本名・鈴木一朗=が21日、プロ野球選手としての第一線から引退することを表明した。この日、東京ドームで行われたアスレチックスとの開幕第2戦に9番右翼で先発出場したイチローは、4打数無安打で8回裏に守備についた直後に交代。その際には、超満員の観衆から大きな拍手を受け、チームメイトから抱擁を受けた。菊池雄星投手や愛弟子のディー・ゴードン内野手が涙する様子もテレビで放送された。



 一方、試合終了後に開かれた記者会見では「(引退後は)監督はない。人望ないから」「草野球を極める」といった“イチロー節”を展開し、集まった報道陣を笑わせた。また、現役生活に思い残したことを聞かれた時には「あろうはずがない。積み重ねることでしか、後悔を生まないとういことはありえない」と、地道な鍛錬を積み重ねて大記録を打ち立ててきた孤高のバットマンらしい回答も。会見は1時間25分におよび、「子どもたちへのメッセージ」「今後の過ごし方」「家族について」など、記者たちの質問に答えた。

 引退会見では涙を流す選手が多いが、イチローは引き際も“今までに存在したことのない”選手だった。現役生活の最後に、スーパースターは何を語ったのか。全文掲載する。(前編から続く)

* * *

──今日の試合でベンチに戻る際に菊池雄星選手が号泣していました。

 号泣中の号泣でした、アイツ。びっくりしました。それ見てこっちは笑ってましたけどね(会場笑)

──抱擁された時にどんな会話を。

 それはプライベートなんで。それは雄星がそれをお伝えするのはかまわないですけど、僕がお伝えすることではないですね。

──秘密ですか。

 それはそうでしょう。二人の会話だから。しかも、僕から声をかけているので。それをここで僕がこんなことを言いましたって。バカですよね。絶対に信頼されないもんね。それはダメです。

──アメリカのファンへのメッセージは。

 アメリカのファンの方々は、最初は厳しかったですよ。最初の2001年のキャンプなんかは「日本に帰れ」としょっちゅう言われましたよ。

 だけど、結果を残した後の敬意というのは、これは評価するのかどうかわからないけど、手のひらを返したという言い方もできるので、ただ、言葉ではなくて行動で示したときの敬意の示し方というのは、その迫力はあるなという印象ですね。

 なかなか入れてもらえないんですけど、入れてもらった後、認めてもらった後はすごく近くなるという印象で、がっちり関係ができあがる。シアトルのファンとはそれができた。僕の勝手な印象ですけど。

 ニューヨークというのは厳しいところですよね。でも、やればどのエリアよりも熱い思いがある。マイアミというのは、ラテンの文化が強い印象で、熱(あつ)はそれほどないんですけど、結果を残さなかったら人は絶対に来てくれない。そういう場所でしたね。それぞれの場所で関係を築けたような。特徴がそれぞれありましたけど。アメリカは広いなと。ファンの人たちの特徴を見るだけでアメリカは広いなという印象ですけど。

 でもやっぱり、最後にシアトルのユニフォームを着て、セーフィコ・フィールドではなくなってしまいましたけど、姿をお見せできなくて、それは申し訳ない思いがあります。

──ユニークなTシャツに「もう限界」「もう無理」とか書いていますが、心情が表れているんでしょうか。

 そこは言うと急にやぼったくなるから、言わない方がいいんだよね。それは観る側の解釈だから。そう捉えれば、そう捉えることもできないし。全然関係ない可能性もあるし。それでいいんじゃないですか。

──好きに楽しんでいただきたい。

 だってそういうものでしょう。いちいち言うと野暮ったいもんね。

──言わない方が粋であると。

 粋とは自分では言えないけど。言うと無粋であることは間違いないですよね。

──24時間を野球に使ってきたとおっしゃっていますが、それを支えてきたのは弓子夫人だと思いますが、あえて今日は聞かせてください。

 いやあ、頑張ってくれましたね。一番頑張ってくれたと思います。

 僕はアメリカで結局3089本のヒットを打ったわけですけど、妻は、ゲーム前にホームの時はおにぎりを食べるんですね。妻が握ってくれたおにぎりを球場に持っていって行って食べるんですけど、それの数が2800ぐらいだったんですよね。3000いきたかったみたいですね。そこは3000個握らせてあげたかったなと思います。

 妻もそうですけど、とにかく頑張ってくれました。僕はゆっくりする気はないけど、妻にはゆっくりしてほしいと思います。

 それと一弓ですね。一弓というのはご存知ない方もいらっしゃると思いますけど、我が家の愛犬ですね。柴犬です。現在17歳と何カ月かな。7カ月かな。今年で18歳になろうかという柴犬なんですけど、さすがにおじいちゃんになってきて、毎日フラフラなんですけど、懸命に生きているんですよね。その姿を見ていたら、それは俺がんばらなきゃなと。これはジョークとかではなくて、本当にそう思いました。

 懸命に生きる姿。2001年に生まれて、2002年にシアトルの我が家に来たんですけど、まさか最後まで一緒に、僕が現役を終える時まで一緒に過ごせるとは思っていなかったので、大変感慨深いですよね。一弓の姿は。ほんと、妻と一弓には感謝の思いしかないですね。

──3月の終盤に引退を決めたのは、打席内の感覚の変化というのはありましたか。

 いる? それここで。

──ぜひ。

 裏で話すわ。裏で(会場笑)。

──今まで一番考え抜いて決断したことは。

 これは順番を付けられないですね。それぞれが一番だと思います。

 ただ、アメリカでプレーするために、今とは違う形のポスティングシステムだったんですけど、自分の思いだけでは叶わないので、当然球団からの了承がないと行けないんですね。

 その時に、誰をこちら側、こちら側っていうと敵・味方みたいでおかしいんですけど。球団にいる誰かを口説かないといけない、説得しないといけない。その時に一番に思い浮かんだのが、仰木監督ですね。その何年か前からアメリカでプレーしたいという思いは伝えていたこともあったんですけど、仰木監督だったらおいしいご飯でお酒を飲ませたら。飲ませたらっていうのはあえて飲ませたらと言ってますけど、これはうまくいくんじゃないかと思ったら、まんまとうまくいって。これがなかったら何も始まらなかったので。口説く相手に仰木監督を選んだのは大きかったなと思いますね。

 ダメだダメだとおっしゃっていたものが、お酒でこんなに変わるんだと思って。お酒の力をまざまざと見ましたし。やっぱり洒落た人だったなと思いますね。仰木監督から学んだものは計り知れないと思います。

──WBCで優勝した日の会見と日付が一緒ですが、運命的なものを感じますか。

 聞かされればそう思うこともできるという程度ですかね。

──一番我慢したものは。

 難しい質問だなあ。僕、我慢できない人なんですよ。楽なこと、楽なことを重ねているという感じなんですよね。自分ができることを、やりたいことを重ねているので我慢の感覚がないんですけど、とにかく体を動かしたくてしょうがないので、こんなに動かしちゃダメだっていうことで、体を動かすことを我慢するというのはたくさんはありました。それ以外はストレスがないように行動してきたつもりなので。

 家では妻が料理をいろいろ考えて作ってくれますけど、ロードは何でもいいわけですよね。むちゃくちゃですよ。ロードの食生活なんて。結局我慢できないからそうなっちゃうんですけど、そんな感じなんです。今聞かれたような主旨の我慢は、思い当たらないですね。おかしなこと言ってます、僕?

──台湾にはイチローさんのファンがいっぱい。台湾に行きたいということはありますか?

 チェンが元気か知りたいですね。チェン、チームメイトでしたから。元気でやってますか。それは何よりです。

 今のところ(台湾に行く)予定はないんですけれども、以前に行ったことあるんですよ。一度。とても優しい印象でしたね。心が優しくていいなと思いました。ありがとうございます。

──イチロー選手が後輩たちに託したいものは。

 雄星のデビューの日に僕は引退を迎えたというのは、何かいいなと思っていて。「ちゃんとやれよ」という思いですね。

 短い時間でしたけどすごくいい子で。いろんな選手を見てきたんですけど、左投手の先発って変わっている子が多いんですよ。本当に(会場笑)。天才肌が多いとも言える。アメリカでもまあ多い。こんなにいい子いるのかなって感じですよ、今日まで。

 でも、キャンプ地から日本に飛行機で移動してくるわけですけど、チームはドレスコードで服装のルールが、黒のジャージのセットアップでOK、長旅なのでできるだけ楽にという配慮なんですけど。「雄星、俺たちどうする」って。アリゾナはいいんだけども、日本に着いたときにさすがにジャージはだめだろうって二人で話をしていたんですね。「そうですよね、イチローさんはどうするんですか」って。僕はまあ、中はTシャツだけどセットアップでいちおうジャケットを着ているようにしようかなと。「じゃあ僕もそうします」って言うんですよ。

 で、キャンプ地を起つ時のバスの中で、みんなも僕も黒のジャージのセットアップでバスに乗り込んできて。それで雄星と席が近かったので、「雄星、やっぱりこれダメだよな。日本に着いた時にメジャーリーガー、これダメだろ」ってバスの中でも言ってたんですよ。「そうですよね」って。そう言ってたら、まさか羽田着いた時にアイツ、ジャージでしたからね(笑)。イヤ、こいつ大物だなって。ぶったまげました。

 本人にまだ聞いてないですけど、その真相は。何があったのかわからないですけど。やっぱり左投手は変わったヤツが多いなと思いました。スケール感は出てました。頑張ってほしいです。

 翔平はちゃんとケガを治して、物理的にも(体が)大きいわけですし。アメリカの選手とまったくサイズ的にも劣らない。しかもあのサイズであの機敏な動きができるというのはいないですからね。それだけで。世界一の選手にならなきゃいけないですよ。

──野球の魅力はどんなものでしょうか。また、イチロー選手がいない野球をどう楽しめばいいでしょうか。

 団体競技なんですけど、個人競技というところですかね。これが野球の面白いところだと思います。チームが勝てばそれでいいかというと、全然そんなことはないですよね。個人として結果を残さないと、生きていくことはできないですよね。

 本来はチームとして勝っていればいいかというと、チームとしてのクオリティは高いのでそれでいいかというと、決してそうではない。その厳しさが面白いところかなと。面白いというか、魅力であることは間違いないですね。あとは同じ瞬間がない。必ずどの瞬間も違うということ。これは飽きがこないですよね。

 二つ目はどうやって楽しんだらいいかですか。2001年にアメリカに来てから2019年現在の野球は、まったく違うものになりました。頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつあるような。選手も現場にいる人たちもみんな感じていることだと思うんですけど、これがどう変化していくか。次の5年、10年、しばらくはこの流れは止まらないと思いますけど。

 本来は野球というのは……、ダメだな、これを言うと問題になりそうだな(会場笑)。うーん。(野球は)頭使わないとできない競技なんですよ、本来は。でもそうじゃなくなってきているというのがどうも気持ち悪くて。ベースボール、野球の発祥はアメリカですから、その野球が現状そうなってきているということに危機感を持っている人っていうのがけっこういると思うんですよね。

 だから、日本の野球がアメリカの野球に追従する必要なんてまったくなくて、日本の野球は頭を使う面白い野球であってほしいなと思います。アメリカのこの流れは止まらないので。せめて日本の野球は決して変わってはいけないこと、大切にしなければいけないことを大切にしてほしいなと思います。

──今日の打席で1年目のゲームで思い出したことはあったんでしょうか。

 長い質問に対して大変失礼なんですけど、ないですね。

──子供の頃からの夢であるプロ野球選手になるという夢を叶えて、今、何を得たと思いますか。

 成功かどうかってよくわからないですよね。じゃあどこから成功で、そうじゃないのかって、まったく僕には判断できない。だから成功という言葉は嫌いなんですけど。

 メジャーリーグに挑戦するということは、大変な勇気だと思うんですけど、でも成功、ここではあえて成功と表現しますけど、成功すると思うからやってみたい。それができないと思うから行かないという判断基準では、後悔をうむだろうなと思います。できると思うから挑戦するのではなくて、やりたいと思えば挑戦すればいい。その時にどんな結果が出ようとも後悔はないと思うんですよね。

 じゃあ、自分なりの成功を勝ち取ったところで達成感があるのかというと、それは僕には疑問なので。基本的には、やりたいと思ったことをやっていきたいですよね。

──何を得たか。

「こんなものかな……」という感覚ですかね。それは200本はもっと打ちたかったし、できると思ったし、1年目にチームは116勝して、その次の2年間も93勝して、勝つのってそんなに難しいことじゃないなってその3年は思ってたんですけど、大変なことです。勝利するというのは。この感覚を得たことは大きいかもしれないですね。

──ユニフォームを脱ぐことで神戸に恩返しをしたいという気持ちは。

 神戸は特別な街です、僕にとって。恩返しか。恩返しって何をすることなんですかね。僕は選手として続けることでしかそれはできないんじゃないかなと考えていたこともあって、できるだけ長く現役を続けていきたいと思っていたこともあるんですね。

 神戸に恩返し、うーん……。税金を少しでも払えるように頑張ります(会場笑)。

──ご自身の経験を振り返って、もっとこんな制度であればメジャーに挑戦したかった、あるいは日本のプロ野球に残ったということは。

 制度に関しては詳しくないんですけど、日本で基礎を作る。自分が将来MLBで将来活躍するための礎を作るという考え方であれば、できるだけ早くというのはわかりますけど、日本の野球で鍛えられることはたくさんあるんですね。だから、制度だけに目を向けるのはフェアじゃないかなと思いますけどね。

──日本の野球で鍛えられたことは。

 基本的な基礎の動きって、おそらくメジャーリーグの選手より中学生レベルの選手の方がうまい可能性がありますよ。チームとしての連携もあるじゃないですか。そんなの言わなくてもできますからね、日本の野球では。でもこちらではなかなかそこは。個人としてのポテンシャル、運動能力は高いですけど、そこにはかなり苦しみましたよ。苦しんであきらめましたよ。

──大谷選手と対戦したかったという気持ちは。また、大谷選手に期待すること。

 さきほどもお伝えしましたけど、世界一の選手にならなきゃいけない選手ですよ。そう考えています。

 翔平との対戦、残念でしたけど、できれば僕が投手で翔平が打者でやりたかったんですよ。それは誤解なきよう(会場笑)。

──大谷選手は今後、どのような選手になっていくと思いますか。

 なっていくかどうか。そこは占い師に聞いてもらわないとわからないけどね。投げることも打つこともやるのであれば、僕は1シーズンごとに投手、次のシーズンは打者としてサイ・ヤング(賞)と本塁打王をとったら。そんなことなんて、考えることすらできないですよ。

 でも、翔平はその想像をさせるじゃないですか。この時点で明らかに人とは明らかに違う選手だと思う。その二刀流は面白いと思うんですよね。なんか、納得いってない表情ですけど。投手として20勝するシーズンがあって、その翌年に50本打ってMVP取ったら化け物ですよね。でも、それが想像できなくはないですからね。そう思ってますよ。

──あるアスリートの方に伺ったのですが、イチロー選手が「野球選手じゃなくなった自分が想像できない。イヤだ」とおっしゃったと聞きましたが。

 イヤだって言わないと思いますけどね。

──野球選手ではない自分を想像していかがですか。

 違う野球選手になってますよ。あれ、この話さっきしましたよね。おなか減ってきて集中力が切れてきちゃって。さっき何を話したか記憶が。

 さっき草野球の話をしましたよね。だから、そっちでいずれ、楽しくてやっていると思うんですけど、そうするときっと草野球を極めたいと思うんですよね。真剣に草野球を極める野球選手になっているんじゃないですか。結局。

──(司会)時間も迫ってきました。

 おなか減ってきた。結構やってないですか。いま、時間どれっくらい? 1時間20分? 今日はとことん付き合おうと思ったんですけどね。おなか減ってきちゃった(会場笑)。

──(司会)では、あとお二人で。

──プロ野球人生で誇れることは。

 これさきほどお話しましたね。(質問した)小林くんも集中力切れてきているんじゃないの? 完全にその話をしたよね。それで1問減ってしまうんだから(会場笑)。

──イチロー選手の小学校の卒業文集が有名で、「僕の夢は一流のプロ野球選手になることです」と冒頭に書いていますが、(子供時代の自分に)どんな言葉をかけたいですか。

 お前、契約金で1億ももらえないよって(会場笑)。夢は大きくとは言いますけど、なかなか難しいですよ。ドラ1の1億って掲げてましたけど、全然遠く及ばなかったですから。ある意味では挫折ですよね。それは。こんな終わり方でいいのかな。なんか、最後はキュッとしたいよね。

──昨年、マリナーズに戻りましたけれども、その前のマリナーズ時代、「孤独を感じながらプレーをしている」と話していました。その孤独感はずっと感じながらプレーしていたんでしょうか。それとも、前の孤独感とは違ったものがあったのでしょうか。

 現在はそれはまったくないです。今日の段階でまったくないです。

 それとは少し違うかもしれないですけど、アメリカに来て、メジャーリーグに来て、外国人になったこと、アメリカでは僕は外国人ですから。このことは、外国人になったことで人の心を慮ったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れたんですよね。この体験というのは、本を読んだり、情報を取ることができたとしても、体験しないと自分の中からは生まれないので。

 孤独を感じて苦しんだこと、多々ありました。ありましたけど、その体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだろうと今は思います。だから、つらいこと、しんどいことから逃げたいというのは当然のことなんですけど、でもエネルギーのある元気のある時にそれに立ち向かっていく。そのことはすごく人として重要なことではないかと感じています。お腹すいた。しまったね、最後。

 いやあ、長い時間ありがとうございました。眠いでしょう、みなさんも。じゃあ、そろそろ帰りますか。

※前編はこちら

(AERA dot.編集部/西岡千史)


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