ゴルフ米男子ツアー・マスターズで、松山英樹が日本人初のメジャー制覇という快挙を成し遂げた。



「松山英樹、マスターズを勝ちました。ついに、日本人がグリーンジャケットに袖を通します。日本人が招待されて85年、ついに、ついに、世界の頂点に松山は立ってくれました」(TBS小笠原亘アナウンサー)

 松山の偉業とともに話題となったのが、マスターズのテレビ中継だ。優勝の瞬間、小笠原アナ、そして解説者も涙し、しばらく無言になるという場面があった。“放送事故”にもなりかねない状態だったが、各方面から好意的に受け取られている。

「素晴らしい中継だった。盛り上げるためだけの演出実況ではなく、本音が現れていた。解説だけでなく、小笠原アナもゴルフと松山への思いが強い。脚本ではできない人間味あふれた言動。松山の快挙とともに、語り継がれる中継になる」(在京他局のスポーツ関係者)

 小笠原アナは長年にわたり真摯に取材を重ねており、松山本人の苦悩も知っている。解説をつとめた中嶋常幸、宮里優作両プロに負けないほどの思いを持っており、それがストレートに出た。だからこそ人々の心にも刺さった。

「改めてプロ野球中継、実況の拙さが露見しました。プロ野球中継では、贔屓球団を褒めちぎるだけ。何てことないプレーも大袈裟に騒ぎたてる。プロレス中継と間違えるほどの絶叫も当たり前。ただのノイズですよ」(在京他局のスポーツ関係者)

 球団親会社や株主などが、何らかの形でテレビ局と関わりある場合がある。またCS放送や地方局では独自色を出すため、特定球団をプッシュするケースも見受けられる。贔屓球団へ偏った中継スタイルは、野球の風物詩であったとも言えるのだが……。

「各局個性があるのは決して悪いことではない。例えばパ・リーグなどは地域密着でファンが増え始め、そこをターゲットにしてテレビも付いてきた。地元球団への多少の贔屓、肩入れはわかる。また親会社がマスコミ関係なら、多少チームを推すのは当然のこと」(スポーツマーケティング会社関係者)

「米国ローカル局などではもっと露骨です。特にラジオ局などは、対戦チームを徹底的にこき下ろす。球団、選手、ファンも理解していて、ある意味楽しんでいる部分もある。ただし全国放送ではそういうことはない。中立の立場で各スポーツを正確に伝えています」(スポーツ新聞MLB担当)

 MLBをはじめ米国スポーツでは、全国放送などはリーグが一括、ローカル局は各球団が放映権料も含めて管理している場合がほとんど。NPBなどでも近年、リーグによる放映権や肖像権の一括管理する流れも進んできた。しかし長年の慣習などもあり、いまだに極端な“肩入れ中継”は後を絶たない。

「昨年の日本シリーズ、日本テレビ系列の中継が大問題になったのも根本はそこ。NPBの頂点を決める最高峰の試合で、あまりに巨人に寄り過ぎた。極端な話、シーズン中ならあそこまで炎上しなかったのではないでしょうか」(在京スポーツ新聞デスク)

 日本シリーズ第1戦、ショートゴロ併殺打に倒れた丸佳浩(巨人)が、ファースト中村晃(ソフトバンク)の足を蹴ってしまうアクシデントが起こった。大ケガにもつながりかねないプレーだったが、中継した日テレアナはその部分を完全にスルー。その後も巨人寄りの実況を続けたため、ネット上などから火がつき大問題になった。

「場内も騒然としていたのだから、実況として説明義務があった。日本シリーズはNPB管轄で巨人主催試合ではない。全国中継局も限定される中で、あまりにお粗末すぎる。日テレが巨人と同じグループ企業とはいえ、これまでも目に余る実況が多過ぎた歴史があった。その集大成のような大失態だった」(在京スポーツ新聞デスク)

「野球中継はこうなんだ、と視聴者に思われている。スポンサーも企業イメージに直結するので手を挙げにくくなる。野球の視聴率が取りにくくなっている中、芸能人起用や多少のバラエティ化は仕方ない。しかしあまりに露骨なものは逆効果」(大手広告代理店関係者)

 映像(=画)が娯楽として欠かせなくなった。画とともに、背景にある実況や音楽が重要視されるのは仕方ない。編集できるものと異なり、実況中継は一発勝負の世界。そこでの技量によって印象は大きく変わってしまう。

「素晴らしい中継、実況が名勝負をより際立たせるのは歴史が証明している。過剰な演出は敬遠されるが、人間味溢れるやり取りは視聴者にストレートに伝わる。オリンピックや高校野球などが胸を打つのはそのため。そこは映像だからできる部分でもある」(スポーツ新聞高校野球担当)

 選手のパフォーマンスが最も重要なのは当然だが、スポーツはエンターテインメントである以上は避けられない現実もある。しかし今回のマスターズ同様、過去のスポーツ中継には素晴らしい実況が多々あった。

「東京千駄ヶ谷の国立競技場の曇り空の向こうに、メキシコの青い空が近づいているような気がします」(NHK・山本浩アナ/85年サッカーW杯予選、日本代表vs韓国代表)

「高いぞ、立て、立て、立て、立ってくれ、立った」(NHK・工藤三郎アナ/98年長野五輪、スキージャンプ・個人ラージヒル)

「恐ろしい、両手を挙げた、甲子園は清原のためにあるのか」(朝日放送・植草貞夫アナ/85年夏の甲子園決勝、PL学園vs宇部商)

「2人目もホームイン、つないだ、つないだ、日本文理の夏はまだ終わらない」(朝日放送・小縣裕介アナ/09年夏の甲子園決勝、中京大中京vs日本文理)

 心を鷲掴みにする、素晴らしい中継、実況も数多く存在する。もちろん野球でも忘れられないものがあった。上記以外にも探せばキリがない。しかし近年のプロ野球中継に関しては、減っている感じが否めない。

「副音声の場内音声のみで見ているファンも多い。英語放送でやった方が在日外国人も喜ぶという声もある。こういう意見が溢れていることを、各テレビ関係者はどう感じているか。情報が氾濫している時代だからこそ、言葉の重要性や空気感を考えて欲しい」(大手広告代理店関係者)

 日本語の良さは、同じ事象でも話し手の感性、技量に応じて、多くの例え方ができること。視聴者の心を動かし、歴史に残る名実況、名台詞が再び生まれることを多くの野球ファン、関係者は望んでいる。