「これで優勝、いけるんちゃうか」。東京五輪の侍ジャパンの代表メンバーが発表された16日、セ・リーグ首位を独走する阪神球団の周辺から、こんな声が漏れてきた。今シーズンは“五輪の呪縛”も関係なし、優勝へ向けて一直線となりそうだ。



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 あちこちで言われていることだが「今年の阪神は、強い」。“勢い”ではなく「本当に強い」と評されている。

 戦績は、40勝19敗2分(6月18日現在。以下、データは全て同)で貯金21、勝率6割7分8厘。2位ヤクルトとのゲーム差は7。チーム防御率(3.25)はリーグ2位で、チーム打率(2割5分6厘)はリーグ1位、同ホームラン数(66本)はリーグ2位と、投打ともにレベルが高いのだ。

 戦力が整った、とか、選手層が厚くなった、とか、いろいろな言い方があるが、つまりは、チーム力が付いた、ということ。

「某有名ОBに言わせれば『今季好調なのは監督の采配うんぬんではなく、こういう戦力を整えたフロント・編成の力』。その方は開幕前から『阪神は今年、この戦力で勝てなかったら、しばらく勝てないと思う。それくらいのチーム力があるよ』と言ってました。長いことタイガースを取材してきましたけど、そんな良い評価を耳にしたこと、あったかな(笑)。バース、掛布、岡田がいて優勝した1985年でも、星野監督で優勝した2003年でも、そんな評価は聞かなかった(笑)」

 ベテラン阪神担当記者は自信ありげに続けた。

「怖いのは主力の故障だけ。巨人? 怖くない」

 素人でも感じるのは、今年の阪神はルーキーも外国人も大活躍している、ということ。失礼ながら、阪神“らしくない”。

 その代表はドラフト1位入団の佐藤輝明選手。打率2割7分8厘、ホームラン16本、打点44で、三振88はリーグ1位。本人も口にする「三振かホームランか」という思い切りの良いバッティングで今年の日本のプロ野球最大の注目株であるのは間違いない。

「ほかにもドラフト2位の伊藤将司投手はもちろん、同6位の中野拓夢までショートのレギュラーを獲っちゃいましたから、スカウトを褒めなきゃいけない。外国人も、ソフトバンクをクビになったスアレスは手術したから他球団が敬遠したわけですが、阪神フロントは大丈夫だと判断して獲って、この活躍。ハマってますよね」(スポーツ紙デスク)

 もっとも阪神に関して景気のいい話をしていると決まって取り上げられるのが、北京五輪が開催された2008年シーズンの戦いである。最大13ゲーム差あったペナントレースを引っくり返された歴史的大失速だ。

「あれがあるから、今は調子いいけど、ホントに大丈夫?となるわけです(笑)。ただ、当時の監督だった岡田(彰布)さんが、こうコボしていたのを思い出すんですよ。『新井がボロボロになって帰ってきたからな。あれが痛かった』」(前出ベテラン記者)

 その年、広島から移籍してきてカープ時代の先輩の金本選手と共に前半戦のチームを引っ張った新井貴浩選手のことだ。

「あの年、新井は五輪に行く前から腰に違和感があったんです。だけど、ああいう一生懸命な選手でしょ。北京五輪日本代表の4番としてガンガンやって悪化して、帰ってきて調べたら第5腰椎疲労骨折……。後半戦を棒に振ることになりました。当時の侍ジャパン監督だった星野さんが『阪神と阪神ファンに申し訳ない』と謝罪してましたけど、あれはホントに痛かった」(前出デスク)

 阪神にとってはくしくも、今季も五輪がある。それも、本当は去年開催されていたはずだったものがコロナ禍で延期となり、多くの国民が……無理だろ、今年も五輪はできないだろ……と思っていた中での開催となりそうなのだ。そんな微妙な空気感はプロ野球界も同じだったようで、実施されるかどうかわからなかった大会に、いざ出場、となった選手の調整の難しさは想像に難くない。つまり、いつも以上のストレスは必至で、出場アスリートの故障が懸念される。

 まして阪神には08年の新井のトラウマがあるはず。だから、今年の球界の一番の注目株という意味で選出があるかも、と注目されていた佐藤が侍メンバーに選ばれなかったとき、球団周辺に流れた安堵感も想像に難くない。そのときに聞かれた言葉が冒頭で紹介したものなのだ。

「選ばれんで良かった」
「ホンマ良かった」

 率直に、こう言った関係者もいたらしい。

 と、ここまで取材したところで何と、梅野隆太郎捕手が“侍”に緊急招集される、というニュースが入ってきた。代表メンバー入りしたものの15日の西武戦で左足を負傷した広島の会沢翼捕手が辞退したため、その代役として指名されたのだ。

「かつての新井のように、もし五輪で梅野が故障でもしたら……そりゃ、いきなり優勝に黄色ランプ点灯、ですよ。2番手捕手の坂本との差は大きいですからね」(前出デスク)

 実は阪神球団は元々、佐藤より梅野が招集されるかどうか、ハラハラしていたという。

「観念してた、と言っていいかもしれません。12球団の捕手を見渡せば、梅野の代表入りは自然ですからね。それが落選ってことでホッとしたのもつかの間、緊急招集でしょ。球団としては『仕方ない』という反応でしたけど、本音は『五輪期間は休ませたかった』ですよ。梅野は、捕手としてはもちろん、チャンスに強い打撃でも貢献度が高い選手なので、疲労をためないようにと矢野監督は春先、梅野に積極的休養を与えてました。それだけチームのキーマンだってことで、休めるか、侍メンバーとして戦うのかでは大違いですからね」(別の阪神担当記者)

 年季の入った虎ファンの“らしい”強がりが聞こえてくる。

「セ・リーグを盛り上げなアカンからなぁ。ぶっちぎりの優勝なんてつまらんで。そんなんは原さんの巨人がやったらええ話や。タイガースらしゅうない。梅野が、五輪から無事に帰ってきてくれるか……そんなふうに気をもむことまで含めて楽しませてもらうから、これでエエんや」

 これで優勝だ、と断言しようとしたら、オチをつけるような、この展開。いかにも阪神タイガース“らしい”と言ったら怒られるかな。(渡辺勘郎)

※週刊朝日  2021年7月2日号