アスリートが猛暑で本来の力を発揮できないのは本末転倒ではないか――。東京五輪の競技時間は、国際オリンピック委員会(IOC)に放映権料を支払う米国のテレビ局の意向が大きく反映されているのは「暗黙の了解」だ。



 テレビ関係者は「水泳、テニスなどが日本時間の午前11時に行われているのは、米国で視聴者が多い夜のゴールデンタイムに合わせるためです。世界大会で水泳は午後に決勝が行われるケースが多く、テニスも夏の猛暑の時期は夕方以降に試合を行うのが通例ですが、IOCは多額の放映権料を米国のテレビ局から受け取っているため言いなりになっている。アスリートの体調は二の次ですよ」と話す。

 昼前後は気温が30度を超え、湿気も多いため体力を蝕まれる。選手たちの不満が噴出するのは当然だろう。報道によると、25日の午前11時から試合を戦った男子シングルスの西岡良仁は「もう少し試合時間を遅らせてもいいのではないか。選手目線からすれば、もうちょっと改善できる」と訴えたという。不満を抱いているのは西岡だけではない。世界ランキング2位のダニール・メドベージェフ(ROC)も試合時間を夕方以降に変更するように提案し、世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)は、「午後3時から開始しても約7時間は試合ができる。全ての選手が楽になるのに、なぜ変更しないのか本当に分からない」と不満を露わにしたという。
 
 ロイター通信によると、気温が33度の23日に行われたアーチェリー女子の試合後には、スベトラーナ・ゴムボエワ(ROC)が熱中症で気を失った。意識は間もなく回復したが、担架で運ばれ会場を後にしたという。

 世論からも批判の声が高まる中、東京五輪・パラリンピック組織委員会(JOC)とIOCは25日にメインプレスセンターで会見を行った。JOCの小谷実可子スポーツディレクターは「競技時間に関してはIOC、組織委、国際競技連盟で今まで調整している。競技スケジュールはIF(国際競技連盟)の経験がしっかり生かされて決まっています」「しかし、選手の健康のために早急に検討したい」と説明していた。

 これを受けて国際テニス連盟(ITF)は28日、試合開始時間を29日から午後3時にすると発表した。当初スケジュールでは、競技初日から29日までは午前11時、30日から8月1日までは正午の開始だった。

 前出のテレビ関係者は、「JOCの本音は『文句を言うならIOCに言ってくれ』が本音でしょう。ただJOCも本当に選手のことを考えるなら、選手の体調を配慮して時間帯の変更を声高に主張するべきだった。五輪を東京に招致した時から、猛暑の時間帯に試合を行ったら選手の体調に異変が生じることは分かっていたはずです」と指摘する。

 この五輪大会ではテニスで、「ヒートルール」が導入されている。一定の気温を超えると第3セット前に10分間の休憩時間が設けられているが、現地で試合を撮影するカメラマンは「焼け石に水です」と話す。

「テニスは1試合の試合時間が平均2時間前後で、30度を超える気温の中、ハードコートで照り返しも強いので昼すぎの体感温度は40度を軽く超えます。私たちは写真を撮るだけでフラフラしているのだから、走り回る選手たちが熱中症になるのは無理がない。10分程度の休憩をとっても解決しません。本当に選手の体調を考えているならば、夕方の3時以降に第1試合を行うべき。選手たちがかわいそうですよ」

「アスリートファースト」の概念はどこに消えたのだろうか。小手先の対応策ではなく、選手たちの声に真剣に耳を傾けるべきだろう。(安西憲春)