関東地方に台風8号が接近した27日、一部予定を変更しつつ、東京五輪の屋外競技が行われた。絶好とはいいがたいコンディション。競技によって明暗が分かれた理由とは……。


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「最悪の波でした。世界のトッププロにとっても本当に難しいですよ。普段なら、ぽんぽん技が出て分かりやすく、一般の人たちも見ていて楽しめたはずですが、27日は分かりづらかったと思う。せっかくの五輪新種目、できることならスーパーテクニックを見たかったですね」

こう話すのは、73歳にして現役プロサーファーの“MABO”こと小室正則さん。辻堂でサーフショップを経営しながら、半世紀以上にわたって波に乗り続けている。日本のサーファーのレジェンド、いや伝説の男といっていいだろう。

 MABOさんが注目していたのは、もちろん千葉県一宮町で行われたサーフィンだ。五十嵐カノア選手が決勝に進出。結果は惜しくも銀メダルだった。この日の会場は、混濁した色の素人目にみても荒れた海。MABOさんにはどう映ったのだろうか。

「昨日27日の会場は台風の影響もあって、あちこちから波が立って、しかも崩れやすい波でした。滑る位置がないうえに、すぐ崩れるので滑る時間もない。それに、あの波はコンクリートの壁が迫ってくるように重たいはずで、プロでも腰がひけちゃうんですよ。昨日のような波では、良い演技はできません。台風の影響は、すごく大きかったと思います。普通の人は、あの潮の流れや高さでは、まず乗れないと思いますし、沖に出ることも難しいはずです」

 銀メダルを獲得した五十嵐カノア選手は準決勝ではランキングで格上の選手を相手に激闘を制した。しかし、決勝では波に乗り切れない様子だった。

「決勝では、ちょうど波のサイクルが相手選手のほうにあって、五十嵐選手のほうには良い波がこなくて、運がまるっきりなかった。いくら実力があっても、波に合わないと点数が稼げないので、かわいそうではありました。ランキングは相手が上ですが、実力では五分五分。良い波がくれば、勝てたと思う。本人としては、悔しかったと思いますよ。僕も試合を見て涙ぐんでしまいましたよ。でも、あれがサーフィンの大会の厳しさなんですよ」

 最後は、運が味方しなかったということか。ただ、MABOさんいわく、五十嵐にも改善の余地はあったという。期待を込めて、辛口のジャッジだ。

「(五十嵐は)もっと動けばよかった。波を選ぶのは重要ですが、待っている時間が長かったように思います。闘争心をむき出しにして、最後までがむしゃらに波に向かってほしかった。動きまわって、チャンスを呼んで欲しかったです。相手のブラジル選手はきれいな波の乗り方ではありませんでしたが、積極的に動いて波を探していた。勝ちたいんだという思いは伝わってきました」

 そのうえで、MABOさんは五十嵐にエールを送る。

「もっともっと勝ち続けて、サーフィンのイメージを上げてほしい。サーフィンは僕の若いころには不良なイメージがありましたし。オリンピック競技になってイメージを変えるチャンスです。もっともっとサーフィンがメジャーなスポーツになってほしいです」

 サーファー向けに気象情報を提供する会社「サーフレジェンド」の気象予報士・唐澤敏哉氏にも、27日のサーフィン会場のコンディションをきいた。

「強風注意報と波浪注意報が出ている中で競技を行うことについては批判の声もありそうですが、サーフィンの場合は波が必要なので、実施自体はさほど問題ないと思います。27日の波はかなりハードな状況で、コンディションは決して良くなかったです。波の大きさだけでいえばプロなら問題ありませんが、27日は台風が近づいている分、入ってくる波の数が多かった。波の形もきれいではなかったです」
 
 とはいえ、一点気になることがあるという。

「27日の状況でコンテストができたのは、きちんとレスキューができる態勢が整っていて、かつ世界トップレベルの選手だからです。彼らであるから事故もなく終わることができたのです。一般のサーファーは会場に入れる状況ではありません。映像を見て、台風でもサーフィンができるじゃないかという誤解がなされないか心配です」

 サーフィンは、台風の影響を考慮し、日程を早め、27日中に競技を終える形を取った。しかし、気象条件で見ると、コンディションは28日のほうがよくなる可能性があったという。昨日27日時点での情報に基づき、以下のように推測した。

「千葉の外房では、27日よりも28日の方が、波が落ち着く見込みです。千葉から台風が離れていき、陸から海にかけて吹く風に変わるため、28日の方が波の形がよくなる。予備日を設けていたのに、なぜ、一日早めて27日で終わらせてしまうのか、少々疑問符は残りました」

 では実際はどうだったかというと、唐澤氏は今朝(28日)の波の状況をチェックしたうえで、次のように指摘。

「波の良し悪しに関して、27日よりも28日の方がコンディションが良かったかどうかは、今朝になってはっきりと分かりました。弊社の千葉在住スタッフから28日早朝に波の状況の報告を受けました。
今日の会場では、風は弱くなり、波は落ち着いています。波は丁度人間の頭くらいのサイズ(1.5〜2m近く)となっており、一般の上級者サーファーであれば安全に楽しめるようになっています。波の形もきれいに整っています」

 前日にスケジュールを押し込んでの実施については、疑問を呈する。

「本来のスケジュールであれば27日は準決勝までで、決勝・3位決定戦が28日でした。一日に短縮したことで、決勝・3位決定戦に進んだ選手たちは、台風の波で流れなどが強い中での連戦することになりました。疲労がかなり蓄積しており、休養をとった28日の方が良い演技ができた可能性があります。選手としても27日中に終わらせたことは、決してプラスではなかったと思われます。昨日の時点で翌日に良くなるかは確信できなかったとしても、まったくできなくなるという状況ではなかったと思います。その上で、なぜ日程を繰り上げて27日までに終わらせる必要があったのかは、やはり疑問です」
 
 先のMABOさんも「翌28日のほうがよかったのでは」と話す。

「27日の開催は、一番ハードだったと思いますよ。横風で、波はめちゃめちゃ。プレイヤーは本当に大変だったと思います。僕としては、本当は翌28日の方がいいなと思った。波がもう少し小さくなるし、27日よりはやりやすかったはず。運営側は、焦って27日にしてしまったのではないか」

 MABOさんいわく、同じ首都圏でも、海岸によって波の様子がまるで違ったという。今回のサーフィンは千葉県釣ヶ崎海岸での開催。

「湘南は波が立てばいいのですが、波が立たない日もある。千葉の会場は波が常にあるので、『波がないと困るから』という判断で選ばれたのだと思います。でも、皮肉なことに、27日の湘南は北風で最高に良い波でした。これはもう運であって、しょうがないですね……」

 台風の影響に悩まされたサーフィンだが、風を味方につけた競技も。相模湾で行われたセーリングはすいすいと進んでいく様子から、SNSでは「モーターボートのようだ」と評判になった。唐沢氏はセーリングが行われた相模湾の状況については、「あまり悪影響がなかったはず」と話す。

「27日の相模湾は波が高くなかったので、そこまで大きな影響はなかったはずです。台風の影響で北風が吹いていたので、セーリングを行う上では適していたと思います。まったくの無風が一番困るので、27日ぐらいの風がやりやすかったはずです」

 一口に台風の影響といっても、場所によってかなり気象条件は違ってくる。また同じ関東圏の海でも台風の進行方向によって受ける影響の大きさも異なるようだ。

「ほかにもトライアスロンの泳ぎもお台場ですので、波がそこまで大きくなかった。台風は南東から接近したため、東京湾・相模湾では影響はあまりなく、東側に位置する千葉の房総では、より大きな影響を受けてしまいました」

 なかなか難しい気象条件の見極め。天運と受け入れる姿勢も必要なのか。残りの日程は、ベストコンディションになることを望む。(取材・文=AERA dot.編集部・飯塚大和)