11月23日の23時過ぎ。六本木の路地の一角にある多国籍バーには多くの外国人が集まり、FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会1次リーグの「日本VSドイツ戦」を見守っていた。

 前半の途中から日本はドイツに終始圧倒され、33分にPKで失点。店内の空気も「ドイツの勝ちで決まり」というムードが漂っていた。

 しかし、後半30分に堂安律が同点ゴールを決めると、店内の雰囲気は大きく変わる。「オー!」「ブラボー!」「ダー!」という大歓声と拍手に包まれた。そんな中、テレビを見ていたドイツ人女性のルーさん(21)は言葉少な。

「前半の最後のオフサイドがなければ……」

 前半のラストに、ドイツが2点目を取れなかったことを悔やんだ。

 この日、ルーさんは彼氏同伴で試合を観戦していた。隣にいたのは、ドイツのプロサッカーチームでもプレーした磯部力さん(23)。磯部さんは2020年〜21年に『フォルトゥナ・ケルン』のトップチームに帯同したことがあるという。

「ドイツサッカーは、基本的にワンマンなんです。私もフォワードでしたが、『パスを出すよりもシュートを打て』と指導されます。ドイツ代表も移民が多く、純粋なドイツ人は数人しかいない。前半にPKを決めたイルカイ・ギュンドアン選手も両親はトルコ人です」

 磯部さんは今年の夏に帰国し、ルーさんは3週間前に観光ビザで来日したという。

 近くで飲んでいた、ドイツ・フランクフルト出身のフィリックさん(24)に声をかけると、「私は18日前に日本に来ました。ドイツ代表は8年前のブラジルW杯で優勝した時の方が強いですね。もちろん、今日はドイツを応援していますが、日本にもがんばってもらいたい」と紳士的。同点に追い付かれても、巻き返せるという自信があったのかもしれない。

 だが、後半38分。途中出場した浅野拓磨が劇的な逆転シュートを放つと、またしても店内の雰囲気が一変。日本、ドイツ以外の国籍の客たちは一層のお祭り騒ぎとなり、至るところで雄たけびのような歓声が上がった。ドイツ人たちは、さぞ落ち込んでいるかと思いきや、ルーさんはすでに諦めモードで「おめでとう!」と筆者にハイタッチをしてくれた。

 一方のフィリックさんは姿が見えず、いつの間にか帰ってしまったようだ。心の中では、ドイツが日本に敗れる瞬間を目の当たりにしたくなかったのかもしれない。ただ、店を出るときには筆者やルーさんのお会計までしてくれたようで、最後まで紳士な振る舞いだった。

 ドイツの敗因はどこにあるのか。前出の磯部さんはこう話す。

「選手たちはワールドカップのために招集され、そこから2〜3週間で試合が始まるので、その期間にどれだけチーム力を作れるかが勝負です。ドイツのプロリーグで活躍している日本人選手も6〜7人いるので、今回はドイツの情報が日本にもかなり入っていたのだと思います」

 国民のサッカー熱が高く、優勝候補のドイツが初戦で日本に負けたことには、国内のサポーターから怒りの声も上がっている。SNSの反応を見ながら、ルーさんはこう語る。

「今、2失点目に絡んだドイツ代表の選手が批判されています。内容よりも、結果が全てなので、どんなすごい選手でも失点に絡んだり、結果を出せなければ、ドイツでは犯罪者のように扱われてしまいます」

 日本人とドイツ人のカップルと見た「日独戦」は、また別の味わいがあった。(AERA dot.編集部・上田耕司)