阪神からポスティングシステムを利用してのメジャー移籍を目指していた藤浪晋太郎のアスレチックス入りが決定した。

「富士山のようにフジと呼んでください」

 1月17日(現地時間)に行われたアスレチックス球団事務所での入団会見では晴れやかな表情を浮かべ、英語を交えあいさつをした。決して広くない会見場には多くの報道陣が集まり地元関係者を驚かせた。

「(アスレチックスは)かつて人気チームだったが最近は常に本拠地の移転が噂されている。スタンドは空席が目立ち、取材に来るのも地元メディアがほとんど。藤浪の会見に訪れた人数に最も驚いたのは球団側だった。オークランドに一足早い春が来た感じ」(在米スポーツライター)

 28歳の藤浪は昨季、16試合(うち10試合は先発)に登板して、3勝5敗、防御率3.38の成績。制球難に苦しみ、自身の投球が全くできなかった時期からの復調の兆しは見せた。とはいえ、高卒1年目から3年連続で2ケタ勝利を挙げ、日本を代表する投手に誰もがなると期待していた姿とは決して言えないだろう。

 しかし、ポテンシャルが評価され、アスレチックスとは年俸325万ドル(約4億2000万円)の1年契約で、さらに最高で140万ドル(約1億8000万円)の出来高もつくという。メジャーの年俸高騰もあり、昨季の4900万円(推定)から大幅なアップとなった。

「今オフはメジャーで高額契約選手が続出。日本人選手でも吉田正尚が総額9000万ドル(約116億3000万円)の5年契約でレッドソックスに入団した。(藤浪の年俸については)100万ドル程度と考えられていたが予想外の金額だった。しかも決して裕福ではないアスレチックスだったのも驚きで、MLB全体の景気の良さを感じさせる。球団、藤浪の両方にビジネス的な側面もある。ベイエリアは日系人が多く、集客やグッズ売り上げが期待できる。日本向けへの放映権料、広告などで投資分回収は可能と判断したのでしょう」(大手エージェント会社関係者)

 野球以外の側面も年俸が上がった要因とも考えられるが、選手としての期待感も決して低くはない。だが、ここ数年の投球を見る限りどれだけの結果を残すかは未知数でもある。

「四死球が減り、以前のような大崩れはなくなった。しかし試合途中でいきなり制球が乱れ失点する時もある。技術よりも精神的なムラがある投手なので、年間を通じて波をなくすことが課題」(阪神担当記者)

「160キロ前後の真っ直ぐと高速スプリットの組み合わせは打ちにくい。クロスステップ気味の投球フォームも打者に恐怖心を与えるという意味では効果的。ただし疲労が溜まってきて球が抜けてしまう時の対応力が必要。以前のようにメンタル面で動揺して腕が振れなくならないことが大事となる」(MLBアジア地区担当スカウト)

 アスレチックス側は“大化け”の期待もあり、ある程度の年俸額を提示したが、1年という契約年数を見ても、その実力については懐疑的な見方もしていることが伺える。

 どちらにも転ぶ可能性もあるが、1年契約ということがのちに大きな意味を持つかもしれない。

「1年契約は良い部分も悪い部分もある。結果を残すことができれば、オフにFAとなるので今年の年俸とは比べ物にならないほどの大型契約が提示され、強豪チームに移籍できるかもしれない。だが、一方でメジャーでは通用しないと判断されればシーズン途中での解雇なども十分にありえるでしょう。同級生の大谷翔平(エンゼルス)も今オフにFAになる予定で、2人そろって大型契約になることも期待したいが、日本でも決して圧倒的な投球を見せていたわけではないので、状況次第ではマイナーから這い上がれなくなる危険性もある。本人の決断にはなるが、早いタイミングでの日本復帰もあるかもしれない」(MLBに詳しいスポーツメディア関係者)

 アスレチックスではデビッド・フォーストGMが先発投手として起用すると明かしており、ローテーションの一角としての活躍が期待されている。昨季アスレチックスはア・リーグ西地区で最下位に沈み、先発投手陣の顔ぶれも揃っているわけではない。間違いなくチャンスは与えられるはずで、さらなる“アメリカンドリーム”を掴むには絶好のシチュエーションでもある。

 藤浪本人も会見で「スターター(先発)をやりたいと思って、MLBに挑戦したのもありますし、スターターとして勝負させてもらえることを幸せに感じています」と熱く語るなど、強い決意が感じられる。夢だったメジャーリーグへの移籍が叶い、環境が変わることが“吉”とでることも十分にありえるだろう。

 高校時代は投手としては大谷よりも上との評価もされていた藤浪。長い時を経て、現状は米国でもリーグの顔となった大谷との差はついたが、移籍したアスレチックスはエンゼルスと同じ地区に所属している。かつてのライバルの存在が刺激となり、日本時代のうっ憤を晴らすような投球をみせることができるのか。春季キャンプから“勝負”となる藤浪の投球に注目したい。